実験のすすめ――液体製品を横倒しで運ぶことの罪

ワインをはじめ、液体製品を横倒しにして運ぶことは、香味を損なうことになる。これが本当かどうかは、ごく簡単な実験で試すことができる。ぜひテストを行ってみていただきたい。

横倒しにして運べば風味を損ない澱を増す

 前回までに述べてきたように、縦箱正立輸送することがワインの品質を保つ最善の輸送法であるとすれば、従来の輸送法は考え直さなければならない。これまでのワイン業界は、振動や攪拌がワインに与える影響を軽視し過ぎていたのに違いない。しかも、ワインに与えるダメージがより大きいはずの平箱横臥輸送を、とくに高級品の運び方として選択してきたことの是非は問い直してみるべきだろう。

 さらに、“長期熟成に際しては、澱の析出は必然”とされてきた従来の“常識”も覆る可能性がある。振動や攪拌を経験させず適切に運ばれ、健康な状態で長期熟成したワインならば、澱の発生は少ないと考えることができるのだ。

 かく言う私自身、かつて長期熟成ワインをテイスティングした際に、コルクの老化萎縮度と不釣り合いなほどに澱の量の少ない古ワインに出くわすと、「イカサマ品か?」などと疑ってかかったものだ。しかし今にして思えば、それらの“イカサマ品”は通常の船積みで入荷したものではなく、懇意にしている人がフランスの蔵元から持ち帰ってきたものなどが多かったように思い起こされる。とすれば、それらは船の中で数十日間も横倒し状態で振動と攪拌にさらされたものではなく、せいぜいが空路十数時間の移動であり、しかも機内手荷物で正立状態で移動したかもしれないと想像できるのだ。

 もちろん、ここには想像が含まれるが、ワイン業界のみならず液体の商品を扱う業界がぜひとも検証すべき問題がここにあると、私は自信をもって言うことができる。

 過去のある時期まで、私は、自動車などの車両輸送時の縦振動や、鉄道輸送時のレール継ぎ目の“ゴットン振動”が、ワインに悪影響を及ぼしているのではないかと疑っていた。それゆえに、フランス国内のワイン輸送を内水面交通すなわち運河輸送に戻してほしいとも考えていた。

 確かに、それらの影響もあるのだろう。しかしそれ以上に、ワイン・ボトルを横倒しにして運んだ場合のダメージの方が大きいのというのが、現在の私の見方だ。なにしろ、第58回などで述べたように、泡立ててグラスに注ぐだけで香味が変質しまうワインである。

スーパーのワインで行う簡単な実験

 では横倒しで運ばれたワインは、どの程度の攪拌で変質してしまうのだろう?

 単純だが少し面倒な実験をしていただきたい。

 まずは、スーパーなどの売り場で立てて陳列されている同一ワインを2本買ってくる。このとき、瓶ごとの個体差を避けるために、スティルヴァン・スクリュー・キャップが施されているものを選ぶことにする。

 面倒だと言うのは、ボトルを取ってレジを通るまでのことだ。第一に、陳列棚からレジまで移動する際には、カゴの中でボトルが横倒しになって転がらないように注意する。次に、レジではバー・コード・リーダーの読み取り時にボトルをこね繰り回さないように、さらにはカゴに戻す時に横倒しにしないようにと、店員にお願いしなければならない。もちろん、買い終えたワインは横倒しすることなく自宅へ持ち帰る。マイカーでの移動時も注意を怠らないことが肝要だ。

 さて、無事に持ち帰って2本のワインをテーブルの上に置いたら、区別がつくように印を付ける。そして片方のワイン・ボトルを取り上げて横倒しにし、瓶の縦方向、つまり瓶口―瓶底方向にゆっくり5回ほど、水平に反復攪拌する。

 もちろん、もう一方のワインは、テーブルに縦置きしたままだ。

 そして2本のワインを開栓し、同型の清潔なワイン・グラスに注いで、比較テイスティングをする。

 いかがだろうか?

《以下は実験後にお読みいただきたい》

 驚くほどの香味の違いを感じ取れるはずである。注意深く比較をすれば、攪拌した方のワインには苦味が感じ取れるはずである。

 横倒し陳列で、明らかに静置期間が十分とわかるコルク栓使用のワイン・ボトルが見つかった時には、そのアイテムの一組でも実験していただきたい。

時間による回復の有無は熟成蒸留酒でテストする

 次に、この差異はどのくらい静置すれば解消できるのかである。

 この実験をしようとするときに問題となるのが、ワインでは開栓後の経時変質が大きいということだ。このため、数日後には攪拌の有無による変質の差異を判別不能にするまでの変質に達してしまう。

 そこで、本格焼酎やウィスキー、ブランディなど、開栓後の経時変質が緩慢な熟成蒸留酒で、同様の実験をしてみていただきたい。

 私の体験では、攪拌したものと攪拌しなかったものとの差異は、1年半後でも埋まらなかった。また、日本酒を3か月かけて比較テイスティングしても、ベルギー・ビール24本を半分に分け3か月かけて比較テイスティングしても差異は解消しなかった。

 ともかくも、ご自身で実験してみていただきたい。やってみれば誰でも容易に気付くことでも、やってみないうちは、気付くことはない。それゆえに、攪拌による液体製品の変質を甘く見ているのだ。

 一度、これをやってみた方であれば、スーパーなどで酒類を買う際、カゴの中で酒瓶や缶を横倒しにしてゴロゴロ転がすようなことは一切しなくなるはずだ。また、これが理解されれば、現在スーパー等で主流になっているレジの固定式バーコード・リーダーも、液体製品のボトルのこね繰り回しの少ない、昔のハンディ型に戻すことが検討されるかもしれない。少なくとも、ボトルをこね繰り回さないようにレジ係を教育することは行われるだろう。

About 大久保順朗 82 Articles
酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。