縦箱正立と平箱横臥の差を確かめる

ワインを縦箱に収めて正立輸送した場合と、平箱に収めて横臥状態で輸送した場合とで、輸送荒れはどれほどに違うものか。国内での簡易実験の後、実際にフランスの産地から日本への輸送過程での実験を模索したが、これには障害があった。というのは、縦箱正立輸送の場合、コルクが乾燥萎縮してワインがダメージを受けずに済むには45日以内の輸送ができなければならないが、実験を考えた当時、それが困難な状況になってきていたのだ。

マット・クレイマーもコルクの気密性の低さは認識している

 マット・クレイマー氏が大雑把に言うとおりに、もしも天然コルク栓が気密性の高い“栓”であれば、これほどワイン流通業界にとって好都合なことはない。実際の販売現場での縦置き陳列を正当化できるからである。

 販売者にとって縦置き陳列のメリットとは何か? コルクと液面が離れていれば、周囲の温度変化があっても口漏れを起こすことは少ない。であれば、実際には中身の品質が低下しようが、見た目として商品価値を失うボトルの発生を防止できることになる。

 しかし、以前にも記したが、厳密には、同氏は「天然コルク栓は密閉度が高い」とは言っていないのである。「ワインがわかる」(マット・クレイマー著、塚原正章・阿部秀司訳、白水社)の154~157ページをよく読んでいただきたい。ここを要約すれば、“一度コルク栓が動いたり口漏れを起こしたワイン・ボトルは、著しく気密性を失っている”と言っているのだ。否、「空気がコルクの脇をすり抜けていく……」だけで、コルク栓の気密性は失われるとも言っているのだ。

 同氏は天然コルク栓に関して新理論を打ち出したが如く装っているが、新理論など提唱してはいないのだ。従来の業界常識通り、天然コルク栓の密閉性は極めて脆弱だと思った方がよい。そのことで発生する口漏れのメカニズムは第39回で記した。

正立輸送でコルク乾燥萎縮が起こらない限界は45日

 ところで、第2回で指摘した、「理想的リーファー輸送の条件」を思い出していただきたい。リーファー・コンテナとは通常、冷凍と冷蔵の両方のコンテナを包含した名称で、極低温専用・冷凍冷蔵兼用・冷蔵専用の3タイプがある。このうち、私は冷蔵コンテナを選択すべきとした。

 と言うのは、冷凍コンテナで本来の守備範囲の温度帯よりも相当に高い温度帯である設定温度+18℃でワインを輸送した場合、冷蔵コンテナで輸送した場合よりも温度ムラが大きくなることは容易に想像できる。

 しかし、理由はそれだけではない。見落としがちなのは、庫内の湿度だ。冷却とは同時に除湿を伴うものだ。家庭のエアコンに付いているドレン・ホースから滴る水滴に注意すればすぐにご理解いただけるだろう。より強い冷却を施す冷凍コンテナの方が、庫内湿度はより低下することとなるのだ。つまり、冷凍コンテナの方が、コルク乾燥が早く、瓶内の液体の目減りも大きいことを意味する。

 1990年頃は、フランス内陸部のブルゴーニュから日本へワインを輸送する場合、同地蔵元を出発してから日本のインポーターが東京に借りている定温倉庫に収納するまでの所要時間は、通常40~45日程度を要していた。リーファー輸送開始以来、複数のインポーターの実務の中から、この日数がワインにどのような影響を及ぼすものか、我々はわかってきていた。すなわち、この日数は、ワインを気密性の高い縦箱段ボール箱(第61回参照)に収納し、冷蔵コンテナで“正立輸送”した場合、天然コルク栓が乾燥萎縮して気密性を喪失するに至るギリギリの日数であった。また、冷凍コンテナで同様に輸送した場合には天然コルク栓が乾燥し切ってしまい、品質に支障を来す場合が多かった。

 そして、残念ながら、当時のリーファー・コンテナの稼働実態の主流は、圧倒的に冷凍コンテナの方であったのだ。

平箱横臥輸送の輸送荒れは大きかった

 その後、我々は“正立縦箱輸送ワインと平箱横臥輸送ワインの比較”を企てたが、海上輸送の状況変化という現実に行く手を阻まれた。と言うのは、1990~2000年は日欧間の物流が大きく変わっていった時期であった。海上輸送では、中国・インド・タイの経済活動の興隆は欧州―日本航路の途中寄港地を増やし、東京・神戸からハブ港機能奪って行った時期である。(第21回参照)。欧州から日本への所用時間は、45日を超えて大幅に伸びたのである。

 しかし、1995年頃と記憶するが、しばらくしてストークコーポレーションの西山社長から、同社が使っているような「小型コンテナ船であれば、途中寄港地も少なく、場合によっては途中無寄港・日本直行となる便船もある」との情報をいただいた。なるほどの“盲点”であった。

 折しも同社の新たなブルゴーニュ・ワインの選択に協力していた時であり、私が推薦して採用されていた蔵元の最下級アイテム(Vins de Table)で“分不相応”にも4本×3段タイプの平箱で輸送されていたワインの赤・白を、特別に各5ケースづつを正立縦箱輸送してもらえることとなったのだ。

 到着したワインは、直後は、私の期待していた通りの差異を見せてくれた。平箱横臥輸送の方が輸送荒れが大きかったのだ。だが、3カ月以降は平箱横臥輸送ワインの輸送荒れも治まり、当然のことながら差異は大きく縮まった。さらに、第58回で述べたような旧態依然の作法でそのワインを開栓し、注ぎ、スワリングしてテイスティングしてしまえば、その差異を判別できようはずもない。

 ボトルの縦置きか横置きかの差を見る一連の実験で、私自身は納得のいく大きな成果を得たのだが、一般的にはワインの取扱い作法を改善しなければ理解してもらえない事柄だということもわかった。

 さて、この試験輸入のボトルはその後3年かけて経年変化を観察していたが、激的差異が発生することはなく、赤・白各1セットを地下セラーの片隅にしまい込み、やがてその存在も忘れてしまった。

 ところが、それから10年の2009年、自店を閉店するに際して在庫整理していた時に、このセットを見つけ出し、これを観察して驚いた。

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酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。