もやしの実力

石焼ビビンバ
韓国料理の石焼ビビンバに、大豆もやしは欠かせない食材である

豆類や麦類等の種子を水に漬けて発芽させたものがもやしである。発芽させる意味の「萌やす」に由来し、漢字では「豆萌」と書く。英語にsproutがあり、最近スーパーの野菜売場等でも「スプラウト」の表示がある商品を見かけるが、各種の事典に当たるともやしとsproutが指すものに違いはないようだ。しかし、筆者は緑色でないものをもやし、緑色のものをスプラウトと区別したいと考えている。ポピュラーなスプラウトである「かいわれ大根」は美しい緑色だが、これをもやしと呼ぶには違和感がある。

もやしの作り方

 もやしの作り方の概要を説明しよう。豆類等の種子を洗浄して50℃程度の温水に数時間浸漬する。排水後、28℃程度の暗所で湿度と通気を調節しながら1週間管理する。最近は温度や湿度の制御にコンピュータを採用する製造者が増えている。出来たもやしの表面水分と種子の殻を除去し、袋詰めして製品とする。包装工程も自動化されている工場が多い。

 種子1kgが7~9kgのもやしになる。工業的・計画的に作ることが可能なため、年間を通じて安定して供給できる野菜である。1パック250g程度が30~50円と安価なのもうれしい。他の野菜の端境期にはとくに重宝する。

 なお、麹菌の種麹も同じく「もやし」と呼ばれる。麹菌の胞子が伸びる様子が、植物の芽生えと似ていることから付けられたという。人気マンガ「もやしもん」の主人公は、種麹製造者の子孫である。なお、本呼称は日本酒造りで用いられ、みそ・しょうゆでは一般に使われていない。

もやしの栄養

 種子の発芽に伴い、栄養成分は大きく変化する。脂質や炭水化物は分解され、組織作りに利用される。タンパク質も分解され、必要な各種酵素に再合成される。ビール原料の麦芽はこれを利用したものである。発芽の過程で、遊離アミノ酸が大幅に増加するが、ダイズではアスパラギン酸が3割を占める(「アスパラでやり抜こうっ!」という弘田三枝子氏のCMソングがあったなぁ)。

 何と言っても大きな変化はビタミン類である。注目したいのが、急増するビタミンCで、ヒトに必須の栄養成分だ。不足すると壊血病になり、体内各所で出血性の障害が起きる。食品成分表(五訂)によると、もやし中に5~11mg/100gとある。他の野菜に比べ特別に高い値ではないが、重要である。

 15~17世紀の大航海時代、壊血病は船乗りたちに恐れられた病気だった。原因が明らかになったのは20世紀になってからのことだ。もやしで防ぐことができれば、どれほど喜ばれたことだろう。同じ船だが、第二次世界大戦中の潜水艦では、ビタミンC供給源として重宝されたという。

大豆もやしの存在感

 もやしは平安時代(794~1192年頃)や南北朝時代(1336~1392年)に作られていたという記録がある。しかし普及するのは大正時代(1912~1926年)になってからで、中華料理に用いられたという。必要性が認識され量産されるようになったのは、第二次世界大戦時である。

 2009年のもやしメーカーは全国で約150社、生産量は446,000トンで増加傾向である。

 衛生面に配慮して作られているが、相当数の微生物が存在することがある。従って、加熱調理が基本になる。ただし、加熱しすぎると持ち味の「シャキシャキ感」がなくなるので注意したい。日持ちしないので、要冷蔵で速やかな消費を心がけたい。消費期限の表示は必要ないが、書いてある場合は尊重すべきだ。不快な匂いがあったり、水が分離している場合は食べない方がよい。迷ったら廃棄したい。

 一般的な原料種子は、緑豆、ブラックマッペ(アズキの仲間)、ダイズである。緑豆もやしは関東で多く消費され、やや細めのブラックマッペもやしは関西で好まれる。いずれも、野菜炒め、鍋、みそラーメン等に使用されることが多い。中華料理や韓国料理に欠かせないのが、やや高価だが大豆もやしである。生産量はもやし全体の1割程度のようだが、頭が大きく茎が太くて存在感がある。石焼ビビンバのもやしは大豆もやしに限る、というのは筆者だけの意見ではないだろう。

横山勉
About 横山勉 57 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。元ヒゲタ醤油品質保証室長、2010年独立。食品技術士センター副会長(http://fpcc.jimdo.com/)。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(http://blogs.yahoo.co.jp/teckno555)。