しょうゆの将来

しょうゆ出荷量
1980年代に年間120万klあったしょうゆ出荷量は減少を続けている(単位:Kl/しょうゆ情報センター資料「出荷数量の推移」より)
しょうゆ出荷量
1980年代に年間120万klあったしょうゆ出荷量は減少を続けている(単位:Kl/しょうゆ情報センター資料「出荷数量の推移」より)

日本人にとって欠くことのできない調味料がしょうゆ。しかし、昔に比べて使うことが少なくなったように感じないだろうか。筆者の場合、食卓でしょうゆを使う機会は刺身とすしくらいしかない。おひたしや冷奴などでは、希釈用つゆやポン酢を使うことが多い。

しょうゆの起源

 鎌倉時代、禅僧の覚心が中国から径山寺(きんざんじ)みそ(第14回参照)を持ち帰り、紀州湯浅に伝えたという。しょうゆはこれから誕生したという有力な説がある。一方、みそから分離した液体が桶の底に溜まり、これに由来するという説もある。

 いずれにしても、現在のしょうゆの造り方が完成したのは、江戸時代になってからのことである。

 大豆等の穀類を加熱処理し、麹菌を生育させたものを麹という。これと塩水を混合した諸味(もろみ)を醗酵・熟成させ、圧搾した液体調味料がしょうゆである。

 初期にはほとんど大豆で造っていたが、等量の小麦を加えるようになった。これが大きな改革だったと考えている。小麦のデンプンからブドウ糖が出来る。これがしょうゆに甘味を加味するだけでなく、香りを格段に向上させたのだ。香りにかかわる諸味中の乳酸菌と酵母による醗酵を、ブドウ糖は旺盛にしたのである。

 江戸時代には、大消費地の江戸に向けて関東でしょうゆ造りが興隆する。以前は関西から運ばれる“下りもの”が高品質とされたが、やがてこれを圧倒するに至る。“下らない”関東しょうゆが江戸の市場を席巻したのだ。消費者たる江戸っ子に好まれる品質(濃い味)を実現したためである。

 さらに、江戸時代後期になると、しょうゆは東アジアや欧州へ輸出されるようになる。フランス料理では、隠し味として珍重されたという。英語でダイズをsoybean(しょうゆ用の豆)と言うが、ここに由来する。輸出用の容器は陶器製のコンプラ瓶で、加熱したしょうゆを詰め、蝋で封印した。これは、日本酒で行われていた火入れの応用と考える。パスチャライゼーション(低温殺菌)と言えるが、近代細菌学の開祖とされるルイ・パスツールがこの方法を発明する300年以上前に日本で開発されていたのである。

生産量減少にどう向き合うか

 しょうゆについて、JAS(日本農林規格)では原料や造り方の異なる5種類(こいくち・うすくち・たまり・しろ・さいしこみ)を定めている。さらに、本醸造方式・混合醸造方式・混合方式という3種類の醸造方法と、特級など3種類の等級を規定している。各種の食品にJAS規格が存在するが、最も複雑な構造と言える。

 食生活に欠かせないしょうゆだが、国内生産量は減少が続いている。1980年代まで年間120万klで推移していた出荷量は、1997年に110万kl、2002年に100万kl、2009年には90万klを割り込んだ。急激な落ち込みだが、とくに家庭用の消費が大きく減少している。というのは、加工用のタンクローリー等は増加傾向にあるからだ。

 家庭用が減少した原因としては、(1)食の洋風化の進展、(2)食の外部化の進展、(3)めんつゆ等の加工調味料の増加、(4)小袋製品の添付の増加、(5)人口減少等が挙げられる。

 市場の縮小に、企業はどのように対応すべきだろうか。利益を確保できる新商品の開発が重要である。よいしょうゆの条件は、赤い色で、うまみがあって、芳香が高いものである。実際、近年は品質にこだわった商品が増えている。うまみが強い超特選しょうゆ、丸大豆や有機原料を用いたしょうゆ等である。切り口は異なるが、減塩しょうゆを含めてもよいかも知れない。これらは高価なので、販売量が少なくても利益を上げられる。

 ただし、しょうゆは酸素に弱いという欠点がある。そのため、開栓後は品質の劣化が進み、色は黒く、味は悪く、芳香は飛散してしまう。専門家は開栓後1カ月以内で使い切ることを勧めている。よいしょうゆであっても、1カ月を超えると品質は確実に劣化する。冷蔵庫保管・少容量の商品選択が品質保持に効果がある。そんな中、家庭用で中身が空気に触れない容器入りも登場した。このような容器開発も品質へのこだわりと言える。

加工用と海外向けは伸びている

 伸びている市場は加工用と海外である。これらの市場向けに注力することも選択肢になる。日本企業による海外生産は20万klを超え、輸出も伸びている。特徴ある品質を実現できれば、ネット販売も期待できる。地域に密着して顧客を確保するのも有効な対応だろう。

 しょうゆを多く使用する加工調味料開発も対応策になる。めんつゆや焼肉のたれといった商品である。副原料や製造法など、企業の特徴を示しやすい分野と言える。しかし、この市場も競争が激化している。

 また、一般消費者だけでなく、食の外部化にかかわる分野、すなわち外食チェーン店や中食産業なども有力な市場と言える。

 変化に対応できない企業は、市場から退場することになる。1990年代、毎年100~200のメーカーが減少していた。最近の2006~2010年のデータでは、減少数は毎年平均36企業で、2010年の企業数は1447である。ペースは緩やかになっているものの、減少は継続している。

横山勉
About 横山勉 57 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。元ヒゲタ醤油品質保証室長、2010年独立。食品技術士センター副会長(http://fpcc.jimdo.com/)。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(http://blogs.yahoo.co.jp/teckno555)。