「ディナーラッシュ」のイタリア料理

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ロブスターとエビのシャンパン・ソース バニラ風味
ウードが料理評論家のジェニファーに出した創作料理の極め付け。ワサビ風味のイクラとトビウオの卵にチャイプを散らしたロブスターとエビのシャンパン・ソース バニラ風味

ロブスターとエビのシャンパン・ソース バニラ風味
ウードが料理評論家のジェニファーに出した創作料理の極め付け。ワサビ風味のイクラとトビウオの卵にチャイプを散らしたロブスターとエビのシャンパン・ソース バニラ風味

今回は2001年製作のアメリカ映画「ディナーラッシュ」に登場するイタリア料理をご紹介する。

 本作は、ニューヨークのトライベッカ地区にあるイタリアンレストラン「ジジーノ」を舞台に、ある冬の一日の出来事を通して、そこに集うさまざまな人々を描いた群像劇である。監督のボブ・ジラルディが経営する実在の店がロケセットとして使用されている。

父と息子の料理の違い

 映画は、店のオーナー、ルイス(ダニー・アイエロ)の長年のビジネスパートナーであるエンリコ(フランク・ボンジョルノ)がイタリアンマフィアの2人組「ブラック&ブルー」に殺されるところから始まる。エンリコはレストラン経営の裏で賭博に関わっており、金銭トラブルに巻き込まれたのである。

 現在店の厨房を取り仕切っているのはルイスの息子で料理長のウード(エドアルド・バレリーニ)。彼は本場イタリアで修業した腕を活かしたトレンドの先端を行く創作料理で料理評論家たちの注目を集め、店はかつてない人気を博していた。

 冒頭で紹介されるその夜のメニューは次のようなものである。

ベーレ:洋梨のロビオーラ・チーズ焼き、スモークハムのドレッシングかけ、パネッレ:ヒヨコ豆のフリッターとヤギの乳のチーズ、サラダ:フジッリ・コン・メランザーネ、フジッリの茄子トマトソース、リコッタ・サラダ、マニカレッティ・アッラ・クレーマ・ディ・フンギ、リコッタ・チーズ、パスタ包みときのこクリーム・ソース少々、トンノ・アッラ・ローヴェレ、パースニップとポテト、赤トマトと黄トマト、ガレット:雌鶏のグリルそら豆ピューレ、子牛のチョップ・キャベツ添え、キャベツとロースト・ポテト、ポルチーニ茸とブランジーノ、天然シマスズキ、フェンネルとブラックオリーブ添え、オレンジ・ソースのカルパッチョ、栗の実入りカボチャのリゾット、ウサギ肉のピエモンテ・ワイン風味チョコ添え、生ソーセージ、ブルネッロの91年物、ボンゴレのリングイネ、スカモルツァといんげん豆、ピスコサワー、ロブスターとエビのシャンパン・ソース バニラ風味、ビステッカ・アラ・フィオレンティーナ、チョコラーテ・マンドルレ、子牛肉のリゾット添えポテト抜き、トリュフのタリアリーニ……。

 ちょっと素人には出来上がりが想像できない料理ばかりだが、過去最高の来客数を記録したその夜の厨房では、ウード以下数多くのコックたちが忙しく立ち働き、作品タイトルに相応しいラッシュの様相を呈していた。

 一方、ルイスは店の経営権の譲渡を迫る息子を快く思っていなかった。彼は自分のようにサイドビジネスに手を出さず料理ひとすじに打ち込むウードを誇りに思いつつも、妻とエンリコの3人で始めた店の当初のコンセプトであるイタリア料理の伝統を守った料理にこだわっていたのである。現在の厨房では副料理長のダンカン(カーク・アセヴェド)がその精神を受け継いでいて、ルイスは彼を可愛がっていたのだが、ギャンブル狂であるダンカンはブラック&ブルーに多額の借金があり、それが今回のエンリコ殺しの原因の一つになっていた。そしてマフィアたちはその借金のカタとして、ルイスから賭博の胴元の権利と店を奪おうとしていた。

 また、ウードとダンカンの間にも料理の方針やダンカンの勤務態度を巡って確執が起きていた。

 料理に対する志の異なる親子ではあったが、二人の志すイタリアンの原点は共に今は亡きルイスの妻で、かつてこの店を切り盛りしていたウードの母の料理であることが、ストーリーの進行とともに明らかになっていく。

色とりどりの料理に負けぬ人間模様

 色とりどりの料理に負けないのが、劇中に登場する人々の人間模様である。

 ウードのかつての恋人で今はダンカンと付き合っているホールスタッフ長のニコーレ(ビビアン・ウー)、画家志望で自分の作品を店に飾っているウェイトレスのマルティ(サマー・フェニックス)、常連客で有望な新人アーティストを連れて来ては連れ自慢をする画商のフィッツジェラルド(マーク・マーゴリス)、バーカウンターで客たちにクイズの問題を出させて賭けをする「雑学王」バーテンのショーン(ジェイミー・ハリス)、バーの客でウォール街の証券外務員を名乗っているが裏の顔がありそうなケン(ジョン・コーベット)、有名な料理評論家でカツラで変装して来店するジェニファー(サンドラ・バーンハード)、ルイスがマフィア対策のために招待したニューヨーク市警刑事のドルリー(ウォルト・マクファーソン)、ルイスに恨みを持つエンリコの娘ナタリー(ポリー・ドレイパー)等々。

 さまざまな人々の思惑が絡み合い、予想外のクライマックスへなだれ込んでいく展開が見事であった。

 本作は、現在開催中の第2回TSUTAYA発掘良品映画祭の1本として上映中である。過去の名作がスクリーンで見られる貴重な機会なので、興味を持たれた方は足を運んでみてはいかがだろうか。

第2回TSUTAYA発掘良品映画祭
http://www.ccc.co.jp/news/pdf/20140214_hakkutsuEigasai-TokyoFirst.pdf

【ディナーラッシュ】

「ディナーラッシュ」(2002)

作品基本データ
原題:Dinner Rush
製作国:アメリカ
製作年:2001年
公開年月日:2002年9月14日
上映時間:99分
配給:シネマパリジャン
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:ボブ・ジラルディ
脚本:リック・ショーネシー、ブライアン・カラタ
製作総指揮:フィル・スアレズ、ロバート・チーレン、ロバート・スチュアー、マイケル・ボーモール
製作:ルイス・ディジアイモ、パッティ・グリーニー
撮影:ティム・アイヴス
美術:アンドリュー・バーナード
音楽:アレクサンダー・ラサレンコ
音楽監修:アレックス・ステイヤーマーク
編集:アリソン・シー・ジョンソン
衣装デザイン:コンスタンス・パヴロウニス
キャスティング:ステファニー・コルサリーニ
キャスト
ルイス:ダニー・アイエロ
ウード:エドアルド・バレリーニ
ニコーレ:ヴィヴィアン・ウー
カーメン:マイク・マッグローン
ダンカン:カーク・アセヴェド
ジェニファー:サンドラ・バーンハード
ケン:ジョン・コーベット
ショーン:ジェイミー・ハリス
マルティ:サマー・フェニックス
ナタリー:ポリー・ドレイバー
パイパー:テッサ・ガイリン
フィッツジェラルド:マーク・マーゴリス
ゲーリー:ジョン・ロスマン
パオロ:アレックス・コッラード
ドルリー:ウォルト・マクファーソン
アデミア:アジャイ・ナイデゥ
ガブリエーレ:マニー・ペレズ
ハロルド:ジョー・ガッティ・ジュニア
エンリコ:フランク・ボンジョルノ
ルーシー:レキシー・スパードゥト
アドリアン:ザイナブ・ジャー
アンドレ:リチャードソン・ヘイネス
ニーノ:アンドレ・デレオン
ベッティナ:アンニカ・ペーターソン
ジョセフ:ホアン・ヘルナンデス
料理の妖精:ソフィー・コメ
エレン:エレン・マッケルドフ
キシャ:マリア・ストーロ=ミラー

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。