映画の中のワッフル「ロゼッタ」

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工場を解雇された後、泣きながらワッフルを頬張るロゼッタ(エミリー・デュケンヌ)(絵・筆者)
工場を解雇された後、泣きながらワッフルを頬張るロゼッタ(エミリー・デュケンヌ)(絵・筆者)

ベルギー名物のワッフルが出てくる映画を取り上げる。御当地での意外なワッフルの食べられ方がわかった。

日本のスシ、イタリアのパスタ、韓国のキムチ等、世界の国々には“アイコン”とも呼べる食べ物が存在する。今回はベルギーのアイコンとも言えるワッフルが登場する作品を紹介する。

兄弟が紡ぐ映画史

「ロゼッタ」(2000)

「ロゼッタ」(1999)は、現在「少年と自転車」(2011)が公開中のジャン・ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟による長編劇映画第4作である。

 世に兄弟監督は数多く、「父 パードレ・パドローネ」(1977)のタヴィアーニ兄弟、「ブラッド・シンプル」(1984)のコーエン兄弟、「マトリックス」(1999)のウォシャウスキー兄弟等、枚挙に暇がない(表1)。思えば1894年に世界初の実写映画であるキネマトグラフを発明したのもオーギュストとルイのリュミエール兄弟であった。その他、ハリウッド・メジャーの一社を興したワーナー兄弟や「我輩はカモである」(1933)等のナンセンスで狂奔的なギャグで一世を風靡した喜劇俳優のマルクス兄弟等、映画の歴史は兄弟によって作られてきたと言っても過言ではない。

ブレッソンの再来

 話を「ロゼッタ」に戻すと、映画は試用期間終了時に工場を解雇されたロゼッタ(エミリー・デュケンヌ)が工場内で暴れ、警備員に追い出されるまでを捉えた映像から始まる。ドキュメンタリー出身のダルデンヌ兄弟は素人の俳優を起用し、手持ちカメラの移動撮影で遠景から被写体の目元や手元のアップにまで接近する手法を一貫して採用している。その生々しい感触は、スタイルは異なるがフランスの巨匠ロベール・ブレッソン(1901~1999)の「スリ」(1956)や「抵抗――死刑囚は逃げた」(1959)といった作品を想起させるものがある。

ワッフルはB級グルメ?

工場を解雇された後、泣きながらワッフルを頬張るロゼッタ(エミリー・デュケンヌ)(絵・筆者)
工場を解雇された後、泣きながらワッフルを頬張るロゼッタ(エミリー・デュケンヌ)(絵・筆者)

 ロゼッタはブリュッセル近郊のキャンプ場のトレーラーハウスで母親(アンヌ・イェルノー)と暮らしていた。キャンプ場の管理人の目を盗んで金網の隙間から侵入し、池に罠を仕掛けてマスを漁っては日々の糧にする日々。飲み代欲しさに男を連れ込むアルコール依存症の母親に愛想を尽かしながら、彼女自身も腰痛の持病に苦しんでいた。生活のために古着を売るが大した金にはならず、役所からは失業手当ももらえない。

 そんな彼女が行きつけのワッフルスタンドで知り合ったのが新入りの店員リケ(ファブリツィオ・ロンギオーヌ)であった。リケはロゼッタに好意を持ち、スタンドの仕事を紹介してくれるが、社長(オリヴィエ・グルメ)が息子に仕事を回すため常勤では働かせてもらえない。ロゼッタはリケが自分で仕込んだワッフルをスタンドで売って小遣いを稼いでいることを知り、ある行動に出る……。

 以上が主なストーリーだが、ワッフルスタンドの描写で興味を惹かれたのは、ワッフルをやはりベルギー名物のビールと一緒に買っていく客の多いことである。日本では甘い菓子のイメージが強いワッフルだが、ブリュッセルのスタンドでは屋台のたこ焼きやお好み焼きのような感覚で売られていることに驚かされた。

こぼれ話

「ロゼッタ」は1999年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を受賞。ダルデンヌ兄弟はその後2005年の「ある子供」で再度の受賞を果たしている。66年の歴史を誇るカンヌ映画祭で2度のパルム・ドールを受賞した監督は5人(組)しかおらず、そのうちの一人が日本の今村昌平である(表2)

作品基本データ

【ロゼッタ】

原題:Rosetta
製作国:ベルギー、フランス
製作年:1999年
公開年月日:2000年4月8日
製作会社:レ・フィルム・ドゥ・フレーヴ、RTBF、ARPセレクション
配給:ビターズ・エンド
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
上映時間:93分

◆スタッフ
監督、脚本:ジャン・ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
製作:ジャン・ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ、マイケル・パティン
撮影:アラン・マクルーン
美術:イゴール・ガブリエル
編集:マリー・エレーヌ・ドゾ
衣装デザイン:モニク・パレール

◆キャスト
ロゼッタ:エミリー・デュケンヌ
リケ:ファブリツィオ・ロンギオーヌ
社長:オリヴィエ・グルメ
ロゼッタの母:アンヌ・イェルノー

(参考文献:キネマ旬報映画データベース)

[表1]主な兄弟監督
名前 代表作(公開年)
タヴィアーニ兄弟
(ヴィットリオ、パオロ)
「サン★ロレンツォの夜」(1982)
コーエン兄弟
(ジョエル、イーサン)
「ノーカントリー」(2007)
ヒューズ兄弟
(アルバート、アレン)
「ポケットいっぱいの涙」(1993)
ダルデンヌ兄弟
(ジャン・ピエール、リュック)
「ある子供」(2005)
クエイ兄弟
(スティーブン、ティモシー)
「ベンヤメンタ学院」(1995)
ファレリー兄弟
(ピーター、ボビー)
「メリーに首ったけ」(1998)
ウォシャウスキー兄弟
(ラリー、アンディ)
「マトリックス レボリューションズ」(2003)
ワイツ兄弟
(ポール、クリス)
「アバウト・ア・ボーイ」(2002)
パン兄弟
(オキサイド、ダニー)
「The EYE【アイ】見鬼」(2002)
ストラウス兄弟
(グレツグ、コリン)
「AVP2 エイリアンズ VS.プレデター」(2007)
パストール兄弟
(アレックス、ダビ)
「フェーズ6」(2009)
[表2]カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)を2回受賞した監督
名前 受賞作品(年度)
フランシス・フォード・コッポラ 「カンバセーション……盗聴……」(1974)
「地獄の黙示録」(1979)
今村昌平 「楢山節考」(1983)
「うなぎ」(1997)
エミール・クストリッツァ 「パパは、出張中!」(1985)
「アンダーグラウンド」(1995)
ビレ・アウグスト 「ペレ」(1988)
「愛の風景」(1992)
ダルデンヌ兄弟 「ロゼッタ」(1999)
「ある子供」(2005)
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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。