遺伝子組換え作物に対する生産者の期待(1)

遺伝子組換え(以下GM)作物の栽培を切望されている北海道の農業生産者2名のお話を聞く機会を得ましたので、聞き書きの形で2回にわたってご報告します。

 お二人はそれぞれ、大豆とテンサイ(ビート)を栽培されており、GMの特定除草剤耐性品種を導入できたらどのようなメリットがあるのかということについて、労働時間、労働の質、コスト、収益など試算を示してお話しされました。

 今回は大豆を栽培されている宮井能雅さん(長沼町)のお話です。

「北海道での大豆栽培の現状と課題~生産者が考えるGM」

北海道長沼町 宮井能雅さん

 長沼町という、千歳市に隣接する町で大豆や麦を作っています。耕作地の3分の1が大豆(38ha)で、麦が3分の2(70ha)です。生産高は低くはありませんが、収入の7~8割が交付金というのが実態です。

 農業にとって個々の技術は非常に大事です。ですがそれ以上に、どんな農家でもみんなが同じように作れるようにする、栽培技術や品種の選択はもっと大事です。

●西南農場 John Deere 9750STS コンバイン 運転風景

日本の大豆生産費はアメリカの5倍

 日本の大豆消費量は年間約300万tで、そのうち100万tが食用です。国産の大豆は約20万tを少し超える程度で、ほとんどを輸入に頼っている状況です。

 日本の大豆栽培技術は進んでいると思っている方がいますが、これは正しくありません。日本の単位面積当たり収量は過去30年間変わりませんが、これに比べてアメリカの大豆収量は、品種改良や新技術導入を通じて右肩上がりの増収を続けています。現在、同じ面積での収穫量はアメリカが日本の1.5~2倍になっています。

 また、北海道の大豆は品質がよくて人気だと思われている方がありますが、2009年、2010年、2011年産の大豆の入札価格を見ると北海道の大豆は人気がなく、とくに小粒大豆は値がつきません。入札制度ですので、これは道産大豆はそれほど欲しくないというマーケットの判断です。その理由としては、品質のばらつき、絶対量の不足、国産大豆自体のマーケットの評価が低い、などが考えられます。同じ理由で、国産小麦も想像されているほど人気があるわけではありません。

 しかし、売れない大豆は国の支援などを受けて集荷団体がプールし、数カ月から数カ年度にわたって、入札などを通じてマーケットに放出する仕組みになっています。

 また、北海道大豆の生産にかかる費用は5万~7万9000円/10aですが、アメリカは8000~1万5000円/10aで、日本の大豆生産コストはアメリカの5倍ぐらいかかっています。

●西南農場 2012年の大豆播種

GM大豆栽培で価格は下がるが規模拡大が可能になる

 大豆が出来るまでには、まず雑草を取り除きながら畑を整える耕地整地を行います。栽培が始まってからは、畝を立てながらの除草(中耕除草)を何度も行います。また、栽培期間を通じて施肥管理を行います。大豆栽培では、除草作業に非常に多くの時間が費やされますが、GMの特定除草剤耐性大豆を用いることで、除草に必要な作業時間と除草剤の使用量が大きく減少します。

 GM大豆栽培を従来品種栽培と比べると、現在の遺伝子組換え大豆は油分が多く搾油向きで、食用より低い販売価格帯になるので、農薬の使用量が減っても収入はあまり変わりないと思います。ただし除草に必要な時間が大きく削減されるために、単位面積当たりの作業時間が減り、栽培規模の拡大が可能になります。

 GMの特定除草剤耐性大豆(ラウンドアップ耐性大豆=RR大豆)を栽培する場合、除草剤の散布回数や作業時間が減ります。農林水産省の統計や自分の農場のデータに基づいて試算すると、10aの大豆栽培に必要な労働時間は、GM大豆の栽培により8.59時間から5.03時間へと約44%減少し、栽培コストは6万3548円から5万2805円へと約17%削減されると考えられます。

 一方、日本でGM大豆を栽培して収穫物を販売する場合ですが、販売価格がNon-GM国産大豆の半分、輸入GM大豆価格とほぼ同じ60円/kgになると仮定して試算します。GM大豆の利用によって除草剤コストが削減されても、販売価格も低下するため、GM大豆と従来品種の売上は一見、あまり変わらないと思います。ただし除草作業に必要な時間が大きく削減されるため、栽培規模の拡大が可能になるのが大きな魅力です。

 日本では、飼料用に使われる大豆は、油を搾った後の脱脂大豆の他に、大豆を丸のまま(丸大豆)焙煎して粉にした飼料用黄粉、丸大豆を加熱してフレークにしたもの(圧ペン)などを合わせると、合計で300万tぐらいあります。現在これには、ほぼ全量で海外産の輸入GM大豆が使われています。国内でGM大豆を栽培した場合、輸入の飼料用大豆と比べても同等の価格なので、同じ土俵で競争でき、それまで輸入だったものを国産の飼料用GM大豆で代替することもできます。

 GM大豆の栽培が日本でも広がるようになれば、飼料用大豆と食用大豆の両方が栽培され、コストに見合った栽培が行われ、両者の「すみわけ」ができてくることになるでしょう。

 従来品種(Non-GM大豆)GM大豆(RR大豆)
労働時間8.59時間5.03時間
売上30,590円18,000円
生産費63,548円52,805円
所得▲32,958円▲34,455円
品質加算金44,390円51,000円
最終収益11,432円16,195円
比較4,763円

 西南農場全体としては、大豆を38ha栽培しているので、10a当たり4,763円増えれば、全部で180万9940円の増収になります。けれども、生産者にとってより大きな意味を持つのは、10a当たりの収支よりも労働時間の減少(効率化)です。労働時間が減少すると、生産者は余暇が増えるのではなく、同じ時間内に倍の面積で栽培ができるため、生産高が倍になるということだからです。

西南農場非公式ブログ
http://seinanfarm.blog.fc2.com/
宮井能雅(FoodWatchJapan)
https://www.foodwatch.jp/author/miyai_yoshimasa
佐々義子
About 佐々義子 37 Articles
くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。