土壌型から産地を見る(2)グライ土・黒泥土・泥炭土の水田は改良工事で品質が向上した

圃場断面標本(モノリス)
圃場断面標本(モノリス)左は宮城県の水田で、灰色低地土だがグライ土が多い。右は北海道の泥炭土の畑/世界のプラウと土の博物館土の館(北海道・上富良野)所蔵

水はけの悪い水田の土には、グライ土、黒泥土、泥炭土の3種類がある。これらの水田では米の品質が上がらない上に、農業機械の使用にも支障を来した。しかし、暗渠排水の施工による改良によって、米の品質向上と機械化が進んだ。

水田の水が横に抜けるか縦に抜けるかで大違い

 前回は一口に水田と言っても、土壌型によって異なる5種類の水田があるというお話をしました。多くの農家・農業関係者は、この5種類を乾田湿田という言葉で2つに分類していますが、土壌型で見ると乾田には褐色低地土灰色低地土の2種類、湿田にはグライ土黒泥土泥炭土の3種類があるということです。

 ただ、乾田と湿田と分けて考えるのには理由があります。これら5種類の土壌型の説明でも理解していただけたと思いますが、水田土壌の性質はその場所の水位によって決まるということが基本であって、この視点は水田を見分ける際の重要なポイントです。

 池や湖でもない圃場について水位が問題だと聞くと怪訝に感じるかもしれません。ここで言う推移というのは、自然な状態で地下水がどの程度まで上がってくるかということです。つまり、圃場が高い位置にあれば水位は表土よりずっと下に、低い場所にあれば水位は表土のあたりになります。さらに低い場所にあれば、水位は表土より上になり、いつも水が溜まった状態になるということです。

 これは、夏に湛水してイネが植わっている状態ではわかりません。すべての水田は、イネが植わっていたら皆同じ光景になります。しかし、その溜まって見える水が水田の横から入って横に抜けていくだけなのか、それとも土中にしみ込んで下へ抜けていくのかというように、実は水田の中の状態は違っているのです。

 そして、その違いが、米の出来と味に大きく関係してくるのです。

 よく、おいしい米作りを目指していろいろ手を尽くしているがなかなか結果が出ないと悩んでいる農家がいますが、そういう場合の原因多くは、この土壌型と水位によるものです。

 また、もし米を買い付ける人がこの土壌型と水位による水田の違いを知らなければ、品物選びにも支障が出るということになります。

北陸、関東、東北の平野の水田の3割はグライ土

圃場断面標本(モノリス)
圃場断面標本(モノリス)左は宮城県の水田で、灰色低地土だがグライ土が多い。右は北海道の泥炭土の畑/世界のプラウと土の博物館土の館(北海道・上富良野)所蔵

 では湿田に分類されるグライ土黒泥土泥炭土のそれぞれについて見ていきましょう。

 グライ土の「グライ」はロシア語からきていて、これは俗語のようですが「ぬかるみの土塊」というような意味で、“どうしようもない土”のニュアンスを持ちます。

 グライ土は水はけの悪い場所に出来るもので、表面は他の水田と変わりないのですが、下層の様子が大きな違いを示します。どのような様子かというと、鮮明な緑灰色とか、紫と青の中間色とかと、とにかく鮮やかな色になります。これは鉄が還元した状態という証拠でもあります。

 この色を見ることができるのは、圃場表面からの深さ60~100cmぐらいになります。一度見たら忘れられないような印象深い色の土ですが、一般には農家がそんなに深い場所を調べてみることはほとんどありません。だから、一般にはなじみのないものなのですが、土壌図にはしっかりと記されています。

 グライ土は扱いにくい水田の代表ですが、北陸、関東、東北の平野部にある水田の3割ほどがこのグライ土です。

グライ土の水田は暗渠排水で改良した

 しかも、グライ土は米がうまく作れないだけではなく農業機械を使うのにもたいへん不都合なものです。そこで、この改善なくして稲作近代化はありえないということで、かつて国を挙げて改良事業を行いました。

 どんな改良を行ったかというと、排水対策をしたということです。

コルゲート管暗渠を施工した圃場断面の模型
コルゲート管暗渠を施工した圃場断面の模型/世界のプラウと土の博物館土の館(北海道・上富良野)所蔵

 排水をよくするために、暗渠排水という設備を施工しました。これは水田の表面から80cm付近にモグラの通路のようなものを作り、そこに土管やモミガラなどを入れます。ここに地下水を集め、圃場の外へ流し出すという仕組みです。モミガラなどを入れるのは、暗渠がつぶれたり土が入ったりして目詰まりを起こすことを防ぐためです。

 この施工をした水田は地下排水が改善され、それまでグライ土と呼ばれていた青緑色や青紫色の部分が消えて、ややうすい褐色を帯びたものに変化します。つまり、還元状態にあった土壌が酸化状態に変わったということです。平野部の水田に多くあったグライ土が、このように変化して灰色低地土に近くなったというのは、全く画期的なことでした。

 とは言え、実際の現場ではこのようにうまくいく場合ばかりではなく、思うほどグライ土特有の色は変わらなく、その位置だけが施工前より深い場所に移行した程度ということもあります。

 しかし暗渠排水によって地下の排水性は確実によくなりますので、米の品質は上がりました。需用者と消費者には、日本の米がうまくなったのはコシヒカリが普及したからと思っている方が多いかもしれません。しかし、品種だけではないのです。日本の米の品質が向上したのは、品種改良、排水対策の実施、貯蔵法の3つと言っていいでしょう。

黒泥土、泥炭土でも暗渠排水が進んだ

 湿田の極め付けは泥炭土です。これは非常に水はけが悪いことで出来る土です。

 地下水位が高い土地、水が常に引かない場所では、まずアシ(ヨシ)やマコモなど水辺の植物が生い茂ります。この生い茂った大型植物はやがては枯れますが、水で酸素が通わない場所であるために、枯れた植物の分解がスムーズに進まず、黒く土のようになっても繊維が残ってしまいます。

 この残った繊維の上に、またアシが生い茂り、また枯れ、未分解で繊維分を残しということを次々と繰り返して、結局はある程度の厚みを持った泥炭と呼ばれる独特の繊維層を有する土が出来上がります。

 これが泥炭土という土壌型ですが、日本の平野部にはかなり分布しています。

 泥炭土の水田の乾田化はたいへん難しく、また足もとが悪いために機械化、機械の大型化は困難を極めました。

 湿田のもう一つの土壌型、黒泥土は、泥炭が出来る条件に比べて多少は酸素が通い、還元が弱い場合に出来る土です。酸素があるために泥炭の繊維分が分解され、粗大な繊維の残っていない黒い腐植のたいへん多い土になります。

 ただし、ここで出来る米も、泥炭土のものとほぼ同じと考えてさしつかえありません。

 しかし近年は、泥炭土、黒泥土の水田も暗渠排水対策によって改善されて、米の出来もよくなってきました。

 これらグライ土、黒泥土、泥炭土の3つで乾田化が図られ、米の品質が向上したことは、水田土壌の分類とその特徴をとらえた周到な改良があったからこそ成しえたというポイントを押さえてください。

 このように、その場所が持つもともとの地理的特徴=排水性が土の土壌型を決め、その土壌型ごとの特徴を示すということも重要なポイントです。

About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。