農薬の希釈倍率と水の使用量に関してもっと自由を!

期待はしていなかったが、やはりFoodScience編集部にクレームがあった。昨年6月25日付けの拙稿に対してである。農業生産者であり、科学者ではない自分が、かって知ったる本業の範疇と思い込み、しっかり下調べもせずに、うろ覚えで書いてしまったのが原因だ。農作業が忙しく……の言い訳はだめだ。間違いは間違いである。これからは自分の言葉で現場のことを書くように努めたい。

 と、かなり落ち込んでいるように思われるが、これも新たな議論の材料を提供をしていただいたと感謝して、今年も天性の前向きな姿勢でのぞみたい。今回はクレームの1つにあった「農薬を希釈するために用いる水のこと」について、改めて読者の皆さまに考えていただければと思う。

「全農 農薬研究室」のホームページに、「農薬Q&Aその8」として「農薬の散布量と倍率について、1000倍溶液を100L散布などとありますが、これを250倍液で25L散布にできないのでしょうか」という相談がある。それに対して、「…遵守しない場合は農薬取締法違反となり、罰則が適用されています」という回答が掲載されていた。質問者は、希釈濃度を濃くして、散布液量を少なくすることはできないかと尋ねているのだが、答えは「それは違法ですよ」というもの。私が注目したのは、違法になるようなことを、なぜ堂々と質問するのだろうかということだった。

 ここからは先は、農薬取締法、農薬使用基準、関係省法令、規則、科学の話ではなく、北海道の畑作農家としての思いを述べさせていただきたいと思う。農薬名や希釈や水の表現も、当地で使われているものを使用するのも、ご了承いただきたい。

 年配の農家の方たちは、農薬(特に殺虫剤、殺菌剤)は、対象害虫や葉の裏表の両面にしっかり付着した方が効果が高いと思い込んでいるが、実際一部の農薬は全体に散布されなくても十分、効果を示すものもある。麦類のアブラムシを対象に登録があり、海外でも有名な殺虫剤で有効成分MEP、スミチオン乳剤を麦類の対象害虫に使用する場合は、1000倍の希釈倍率で、当地では100L/10aが基本。条件にもよるが有人ヘリ、無人ヘリで使用される場合は、8倍の希釈倍率で、使用液量は800mL/10aでも使用可能となる。

 大ざっぱな話になるが、このスミチオンそのものが100mL/10a散布されていれば希釈に用いる水量はそれほど関係ないと思えてくる。このスミチオンが、仮に害虫や葉の全体に農薬が散布されなくても100%の効果があると言うわけではないが、実際の現場では水量(使用液量)よりも、農薬の量が重要であると考える農家も多いようだ。

 またコムギの殺菌剤に使われるチルト乳剤25は希釈倍率にもよるが、やはり幅広い使用液量のようである。つまり、このJA全農に対する質問には、現実には農薬の量そのものが大切で、薬害がないのに、希釈倍率や使用液量を気にする必要があるのかという意味合いも含まれているのだと推察した。

 米Monsanto社の製品であるRoundup ORIGINAL MAX(グリホサート48.7%)は米国では、ある特定の条件下ではたった3 gallons per acre、つまり2.8L/10aの水でも使用できるとある。そして作物別のグリホサートの使用量などを明記してあるが、やはり使用水量などは日本よりも少ない。ホームページの説明文では、現地の労働環境を反映しているのか、スペイン語でも書かれていた。グラシャス モンサント!

 日本では日産化学工業のラウンドアップ・マックスロードは対象作物などによるが、希釈水量は25Lから100L/10aとなっている。単純な比較は難しいが同じ(と思われる)グリホサートでなぜ日本と米国で希釈水量に違いがあるのか、そして食の安全・安心にどのような関係があるのかも、考えていただきたい。

 農薬を散布するブームスプレーヤー(以後スプレーヤー)はこの10年で、とても進化した。コンピューター制御(速度連動式自動制御散布装置)は設定した液量を速度が変わっても、作業面積当たりの液量を変化させない優れものだ。最新式のこのスプレーヤーはGPSを使い、より正確な速度の数値や作業面積、場所をコンピューターに送り込む。このコンピューター装置の価格はスプレーヤー・基本価格の100万円アップ、GPS付きはもう50万から100万円アップとなり、とても便利なものではあるが、初めて使う人の年齢制限を決めてしまう傾向にあり、およそ40歳、もしくは携帯でメールが出来るかの年齢がボーダーのようだ。

 もし、ある農薬の使用液量を100Lから10L/10aに下げ、速度連動式自動制御散布装置付きスプレーヤーを用いて、速度を最大まで上げても(散布圧力が上がり、飛散しやすくなると言う意味)飛散がなく、薬害もなく、農薬効果に満足した場合、生産者には作業時間の莫大な節約になる。単純に10分の1とはいかないが、農薬投入作業や給水時間を考えて、3分の1程度に作業時間は短縮され、将来の北海道畑作における規模拡大に対応することができるだろう。

 このような極小量散布のメリットに、農薬の無駄使いをさせないことも可能だ。つまり100L/10a散布の場合は散布液が作物に多くかかり過ぎてしまい散布液が地面に落ちてしまう場合がある。もし面積当たりの散布液量を下げていけば、散布液が地面に落ちる割合が少なくなる可能性が高くなり、その結果、農薬の使用量を減らすこともできるのではないだろうか。

 気象条件、作物の大きさ、展着剤、農薬の種類によっては感覚的に80%以上の散布液が、作物にかからず、地面に落ちる場合があると思う。米国には畑に使用する農薬を節約するために静電気を利用して散布液すべてを作物に付着させようとする大型のスプレーヤーが活躍しているらしいが、日本にあるのは数Lタンクのハウス用のみであり、とても残念なことである。国産スプレーヤーは高濃度もしくは原液を散布できるのに、ご丁寧に「関係法令をお守りください」の注意書きを見かける。法律が技術の発展に追いついていない1つの例かもしれない。

 私がスミチオンを使用する場合は基準の3分の1の量/10aしか使わないことが多い。それでも十分な効果、つまり害虫コントロールは出来ている。実はこれもクレームにあった農薬節約のための“農家の浅知恵”の1つである。

「では、結局あなたは何を言いたいの?」の問いには、次のように答えよう。私が使う農薬の成分は、最初に米国やヨーロッパで開発、製造されたものが多く、現地では進化を続けるスプレーヤーの技術に伴い効果を発揮しているのに、その十分な効果が日本では得にくくなっているのではないかということだ。日本では、農薬の希釈倍率と水の使用量に関して、もっと自由度を与えても良いのではないかと考える。

 最後に誤解のないように伝えなければならないが、農薬取締法、農薬使用基準、その関係法令、規則を逸脱する行為を薦めているのではない。この法律は消費者を含めたマーケットだけの利益ではなく、農業生産者減少に伴う将来の規模拡大や省力化、そして継続可能な農業発展のためにも、あると信じている。関係する法は農業、流通などのマーケット、食の安全・安心に対応するために、日々進化し、海外の農業技術も現在よりも多く知られるようになるだろう。その中で生産者も、法律に関することだけではなく、バイオ技術や農業全体に対してもっと発言することはできるだろうか――。Yes, We can! (ただし私はアメリカ民主党支持ではない)

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 宮井能雅 22 Articles
西南農場有限会社 代表取締役 みやい・よしまさ 1958年北海道長沼町生まれ。大学を1カ月で中退後、新規就農に近い形で農業を始め、現在、麦作、大豆作で110ha近くを経営。遺伝子組換え大豆の栽培・販売を明らかにしたことで、反対派の批判の対象になっている。FoodScience(日経BP社)では「北海道よもやま話」を連載。