米国と比べて分かる、日本のジャガイモ生産事情

大規模なジャガイモ圃場(宮城県)
大規模なジャガイモ圃場(宮城県)

大規模なジャガイモ圃場(宮城県)
大規模なジャガイモ圃場(宮城県)

関東ではそろそろジャガイモを植え付ける時期です。国連は2008年を「国際ポテト年」(International Year of Potato, 2008)と宣言しています。食料の不安をなくし、貧困を根絶する狙いで、さまざまな機関がジャガイモに関する催しを行うことを予定しています。飲食店にとっても、ジャガイモ料理をアピールするよいチャンスかも知れません。

 ところで、ファストフードでフライドポテトを食べるたびに、みなさんは不思議に思いませんか。日頃、国内で料理に使うジャガイモは、せいぜい握り拳ぐらいの大きさでしかありませんが、ファストフードで提供しているフライドポテトには、その直径より1.5~2倍程度の長さのものが含まれています。日本国内ではなかなかお目にかかれない代物です。

「きっと、マッシュしたものを成形して揚げているんだ」と思うかもしれませんが、そんなことはありません(もちろん、そういう製品もありますが)。米国では、両手でも包み切れないほどの大きさのジャガイモが取れるのです。

 米国でフライドポテトなどの加工原料として生産されるジャガイモの主力品種はラセット・バーバンクといいます。大きく、でこぼこが少ない、厨房や工場で扱いやすいイモが取れます。しかし、以前、日本の研究者がこれを持ち帰って、北海道で栽培したことがあるそうですが、どうしても米国でのような大きさに育たなかったそうです。そうすると、日本と米国でのジャガイモの大きさの違いは、品種だけによるものではなさそうだと考えられます。恐らく、気候風土による違いが大きいでしょう。

 以前訪ねたワシントン州(米国の北西端。スターバックス、イチローのシアトル・マリナーズ、マイクロソフトの本拠地、シアトルがある州)のジャガイモ畑は、砂漠の中にありました。砂漠ですから、夏季の日中は灼熱地獄、夜間は氷点下にもなるほど冷えるような場所です。そのど真ん中に水量豊かな川が一本流れていて、その水をくみ上げて、圃場に人工的に潅水します。こんな場所ですから、虫や病気が少なく、農薬や化学肥料の使用量を少なくでき、ローコストで栽培できます。

 土はさらさらした火山灰で、栄養はあまりないようですが、ジャガイモが養分を求めて広く深く根を生やすには好都合です。これに加えて、降雨が少なく日照時間が長いことや寒暖の差が、イモを太らせるのだと考えられます。

 圃場の形も、日本とは大違い。1つの面積が数十haという巨大な円形で、潅水などの管理は完全に機械化しています。私が訪ねた農家は、そんな大きな圃場を100枚持っていて、全体の面積は東京の千代田区ほど。それを通常はたったの4人のスタッフでコンピュータ管理し、収穫などの農繁期には出稼ぎ労働者を雇うということでした。

 これでは、日本のジャガイモは勝ち目がなさそうです。日本は降雨が多く、米国の砂漠地帯に比べると日照時間は遙かに少ない。しかも温暖ですから、病気も発生しやすい。国土は山あり谷ありで起伏に富み、多少広い農業地帯があったとしても、圃場は所有者ごとに細切れで1枚ごとの圃場はとても狭い。大型の自動潅水施設はおろか、大型のトラクタも入れません。米国のようなジャガイモ生産はできないのです。

 また、品種もなかなかいいものが出て来ません。米国ではラセット・バーバンクの他に、用途や作付ける地域に適した品種が毎年のように多数開発されていますが、日本はどうでしょうか。通常、手に入るものとしては、男爵とメークイン、最近やっと増えてきたキタアカリぐらいのものでしょう。男爵などは、土佐出身で函館どつくの中興の祖川田龍吉男爵が明治後期に米国から持ち帰ったもので、100年前の品種です。日本のジャガイモ生産は、どうも時が止まっているようです。

 それは、日本のジャガイモ生産が主にでん粉原料(通称デンゲン)生産のために奨励された歴史があるためで、料理に使うというのは、全体から見ればほんのついでの生産でした。それで、あまり変化の必要がなかったのです。日本には、コメという栽培しやすくみんなが好きな穀物がありますから、これはある意味しかたのないことです。

 しかし、戦後、カレーライスやシチューなどでジャガイモの使用が増え始め、農家のジャガイモ生産に対する姿勢は少しずつ変わって来ました。機械に放り込んですりつぶし、粉にしてしまう“工業原料”ではなく、人が丁寧に皮を剥いて料理をするための“食材”として、育て方や、傷を付けずみてくれよく収穫するようになってきたのです。

 そして、大きな風穴を開けたのが、ポテトチップスの流行と定番としての定着です。ポテトチップスは、製造後の鮮度と流通の効率を考えると、海外で生産するわけにはいきません。また、その原料となる生のジャガイモは、検疫上の理由から今のところ原則として輸入できないことになっています。

 そこで、カルビーなどの菓子メーカーは国内でジャガイモを調達することにしたわけですが、農家は「加工原料=デンゲンと同じ=安く買いたたかれる」と、なかなか乗り気になりませんでした。しかし、これは誤解だったのです。実は、ポテトチップス用のジャガイモは、生食用以上に丁寧に育て、収穫しなければ、揚げたときに焦げなどの不具合を容易に生じます。その分、菓子メーカーが農家から買い取る価格も、相応に高く設定されているのです。これに奮起した農家は、生産の技術を上げ、新品種導入にも積極的な姿勢を見せています。

 現在、ポテトチップス用のジャガイモ生産者は、必ずしも生食用ジャガイモ生産者とイコールではありませんが、ポテトチップス用ジャガイモで培われた生産のノウハウ、農業機械の形と使い方などは、日本のジャガイモ生産の技術力アップに少なからず貢献していると言えます。

 デンゲンが日本にジャガイモ生産を定着させ、ポテトチップスが栽培技術を向上させ、様々な品種の導入のきっかけにもなりつつあります。日本のジャガイモ生産がさらに次のステップに進むとしたら、外食産業はどんな貢献ができそうでしょうか。外食に携わる方には、そのイメージもぜひ持ってもらいたいと思います。

※このコラムは柴田書店のWebサイト「レストランニュース」(2009年3月31日をもって休止)で公開したものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →