2017年食の10大ニュース[7]

農業関連の話題をまとめました。

  1. 東京シティ青果がFSSC22000を取得
  2. トランプ政権が対日農産物輸出に意欲
  3. 日欧EPA妥結
  4. イネいもち病感染の鍵となる遺伝子発見
  5. ゲノム編集が一般向けメディアでも話題に
  6. 主要農作物種子法の廃止
  7. 農業技術の今風の進歩
  8. 農協改革で委託販売から買い取り販売へ
  9. 減反廃止に向け全国農業再生推進機構設立
  10. コメ先物取引本上場ならず

《番外》豊洲市場移転の混乱

1. 東京シティ青果がFSSC22000を取得

 12月20日、東京シティ青果(東京都中央区、鈴木敏行社長)がFSSC22000の認証を取得した。国内の青果卸市場としては初。

 FSSC22000はISO22000に追加要求事項を加えて統合した食品安全マネジメントシステムの現在最上位の規格。その事業所が関与するフードチェーン全体にHACCP的な管理実現を要求する趣旨がある。つまり、農業生産者にも相当な改善が求められていくことになるだろう。

2. トランプ政権が対日農産物輸出に意欲

 米国はトランプ政権が発足するとさっそくTPP(環太平洋パートナーシップ協定)離脱を表明。返す刀で日本の農産物市場開放を求めるメッセージを発信。

 いやいや、日本はアメリカからたっぷり農産物を輸入しているではないかと思ったが、コメをもっと輸入せよと言うことではと心配する声が国内で聞こえた。

 私見ながら、それはたぶん違うだろうと見ている。本丸はオーガニック(有機)食品だろう。アメリカは売れる自動車を作るのでは日本に負けたが、こと有機農業についてはおそらく世界でも最も恵まれた気候風土を持っており、トランプ政権はこの土俵であれば日本に勝ち目はないと見抜いている。

 今年その流れの中で印象に残るのが、OTA(Organic trade association)という団体があるが、そのInternational TradeのDirectorであるモニーク・マレス(Monique Marez)氏が今年イベントや公的な発言のために複数回来日していることだ(ちなみに、その一つを報告するWebページで、氏は「アメリカ農務省オーガニック食品担当」と紹介されている。https://ishizaka-group.co.jp/our-action/global-topics/625/)。

 日本が有機/オーガニック攻勢に対向していくには、「有機」「オーガニック」を超えるマジックワードを創案しなければならないだろう。

3. 日欧EPA妥結

 7月に日本とEUが「大枠合意」を宣言。12月8日に両サイドの首脳妥結を確認し、2019年発効を目指すことになった。実現すると、世界のGDPの3割、世界の貿易総額の4割を占める経済圏が出現することになる。

 消費者には恩恵、農業には打撃などと言われるが、EU内でも同じことを言っているだろう。魅力ある品物を出せるかどうかが勝負。

4. イネいもち病感染の鍵となる遺伝子発見

 11月、農研機構は岩手生物工学研究センターと東京大学生物生産工学研究センターと連名で、イネいもち病を起こすカビのいもち病菌から、感染の鍵となる遺伝子「RBF1」を発見したと発表した。

 この遺伝子の働きを阻害する物質が見つかれば、いもち病の新しい防除方法が開発されるだろう。今後に期待したい。

イネへの感染の鍵となるいもち病菌の遺伝子を新たに発見(農研機構)
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/072178.html

5. ゲノム編集が一般向けメディアでも話題に

 ゲノム編集でさまざまな成果や研究が発表される年だったが、最近はテレビやコンシュマー向け雑誌などでも扱われるようになり、一般の関心も高まりつつある。

 話題があれば話題になるという、コミュニケーションの基本が現れている。それらの話題が活発な議論と理解につながるようになっていくといい。

6. 主要農作物種子法の廃止

 2月に主要農作物種子法廃止が閣議決定され、4月に可決、成立した。

 これに対して、コメや野菜の種苗が高くなってそれが消費にも影響するのではとか、海外の種苗会社に種苗を押さえられてしまうとかといった話題が目立つ。例によって特定の企業名や国名を挙げての陰謀論も。

 国鉄、電電公社、郵政の民営化前後のことを思い出す。仕組みが変わると損をするのではないかとか、外国に占領されてしまうのではないかとかといった不安はいつも起こる。

 たとえば、国内外を問わず種苗ビジネスに携わる民間の側から、「私たちは責任持って取り組んでいきますよ」というメッセージをもっと発信したらいいのにと思うのだが。国がやることは国で説明すればいいというのでは、民業圧迫からの脱出というのもなんだかおぼつかない。

7. 農業技術の今風の進歩

 営農へのドローン活用、水田防除用ラジコンボートのロボット化、自動運転田植機、水田の自動給排水栓、Webで使える全国デジタル土壌図など、農業分野でもICT的な技術開発のニュースが多い年だった。

 アメリカ北西部の乾燥地帯で千代田区と同じぐらいの面積のジャガイモ畑を4人で運営している生産者を筆者が訪ねたのがざっと20年前。当時彼らが管理に使っていたのは1台のWindowsマシン。おそらく今はスマホをスワイプとタップしながら仕事をしているのだろう。いや、最早眺めているだけかもしれない。

8. 農協改革で委託販売から買い取り販売へ

 農協はこれまで生産者からの委託で農産物を販売してきた。戦後間もない頃、歩き始めた農協組織がまだ弱かったときに決めたことがまだ続いていた。それを昨年後半、政府側から全量買い取りに1年以内に移行すべしと言ってきた。

 これに強く反発してきた農協だが、今年は系統のメディアでも全量買い取りの取り組みや事例を積極的に紹介している。「やってますよ」と言いたいのもあるだろうが、もともと事実上の買い取りでやってきたところもある。

 外食や小売業のバイヤーと話していても、系統の集荷力、設備、情報力、人材を評価する話はけっこう出る。実力勝負でいって問題ないのではないか。

 一方、売れないものは買い取ってくれないはずではある。

9. 減反廃止に向け全国農業再生推進機構設立

 2018年に減反廃止が決まっている中、JA全中サイドでは行政に替わって生産調整を行う組織作りを模索してきた。12月になってやっと発足したのが全国農業再生推進機構なる団体。しかし、業務はコメの需給等の情報提供で、生産調整は独占禁止法に引っかかるのでできないことになっている。

 実際にどんな動きを見せるのかは注視したい。

10. コメ先物取引本上場ならず

 大阪堂島商品取引所のコメ先物取引は2019年までの試験上場。今年8月に本上場への移行を目指したが認められなかった。取引量の少なさを理由に自民党から反対の声が上がったという。

 そこで同取引所は取引拡大を目指して、今月、SBIジャパンネクスト証券が提供するシステムのコメ先物取引への採用を決定。これに対して、複数の商品先物取引会社が反発、日本商品清算機構が新規清算を停止すると言い出して、というところで2017年は暮れようとしている。

《番外》豊洲市場移転の混乱

 誰がどのように迷惑をして、誰がどのように得をしているのか、そこを具体的に、都知事も都民もよく見なければならないだろう。


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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →