
国立医薬品食品衛生研究所が集めた食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報から。米国でRTE食品を原因とするリステリア感染アウトブレイク。医療施設での喫食が共通し、特定社の製品が感染源の可能性が示された。アイルランドのRTE水産食品施設の公的管理の有効性に関する監査報告は、公的管理の有効性にある課題を指摘し、改善措置にも言及している。
【米国】RTE食品のリステリア
米国疾病予防管理センター(US CDC)、複数州の公衆衛生・食品規制当局および米国食品医薬品局(US FDA)は、複数州にわたり発生しているリステリア(Listeria monocytogenes)感染アウトブレイクを調査するため様々なデータを収集している。疫学・追跡調査および検査機関での検査から得られたデータは、Fresh & Ready Foods
社製の「そのまま喫食可能な(Ready-To-Eat)食品」がL. monocytogenesに汚染され、本アウトブレイクの感染源となっている可能性があることを示している。
2025年5月9日時点で、L. monocytogenesアウトブレイク株感染患者が2州から計10人報告されており、患者10人全員が入院した。死亡者は報告されていない。
CDCは2024年にも本アウトブレイクを調査していた。当時の調査で得られた疫学的エビデンスからは、患者がリステリア症発症前に病院などの医療施設に居たこと、および可能性の高い感染源がこれらのタイプの施設で提供された食品であることは特定されたが、具体的な原因食品を特定できるだけの十分な情報は得られなかった。その後、Fresh & Ready Foods社由来の環境検体からアウトブレイク株が検出されたことを受け、CDCは、2025年4月に本アウトブレイク調査を再開した。
各州・地域の公衆衛生当局は、患者が発症前1カ月間に喫食した食品に関する聞き取り調査を行っている。患者6人から情報が得られ、これらの6人全員がリステリア症発症前に医療施設に入院していた。これらの医療施設で提供された食事の記録を調査した結果、Fresh & Ready Foods社製のready-to-eat食品が少なくとも3カ所の施設で提供されていたことが示された。
本アウトブレイクの患者由来検体から分離されたリステリア株が遺伝学的に相互に近縁であることが示された。この結果は、本アウトブレイクの患者が同じ食品により感染したことを示唆している。2025年3月31日にFDAは、Fresh & Ready Foods社で環境由来検体を採取した。WGS解析の結果、これらの検体から分離されたリステリア株が本アウトブレイクの患者由来株と近縁であることが示された。この結果は、患者がFresh & Ready Foods社製のready-to-eat食品の喫食により感染した可能性が高いことを意味している。
2025年5月10日にFresh & Ready Foods社は、一部のready-to-eat食品の回収を開始した。CDCは、回収対象製品を喫食・販売・提供しないよう注意喚起している。
【アイルランド】RTE水産食品事業施設における公的管理の有効性
アイルランド食品安全局(FSAI: Food Safety Authority of Ireland)は、そのまま喫食可能な(Ready-To-Eat)水産食品事業施設において海洋漁業保護局(SFPA)が行う公的管理の有効性について監査を実施し、その報告書を発表した。FSAIは、アイルランドの食品に関する法律の執行に全般的な責任を負っている。公的機関による公的管理の実施状況を評価するため、FSAIは、リスクベースの監査プログラムを毎年実施している。これらの監査プログラムの目的は、食品法、業務委託契約、および複数年国家管理計画(MANCP:Multi-Annual National Control Plan)の要件に関連して各担当機関が実施している公的管理の有効性および妥当性を評価することである。
その結果、本部・事務所間レベルでの良好な情報共有によって、SFPAが公的管理の調整・計画・優先順位付けに組織的に取り組んでいることが確認された。SFPAの食品安全管理の年次計画には、記録・報告要件など、SFPAの管理下での施設に対する規制措置の概要が示されている。各港湾の担当官(SFPO:sea fisheries protection officer)向けには手順書において指針が規定されているものの、失効した規則に関する言及がガイダンス内にあること、一部のSFPOが旧版の手順書を使用していること、記録に不備があることなど、問題点がいくつか指摘された。監査チームは、監査対象となった食品事業者のほとんどにおいて、食品法の遵守水準が十分に高いことが確認されたとしている。公的検査の集約的なモニタリングでは、リスク分類について設定された目標値の達成に焦点が置かれ、定性的ではなく主に定量的な評価が行われた。検査報告書の内容からは、全地域に共通する傾向や問題を把握するための全般的な所見は得られなかった。公的管理規則の要件では、公的検査について、事前通知が必要とされる場合や正当と判断される場合を除き、事前には通知せずに実施すべきであるとの規定があり、SFPAの食品安全管理計画でも同様に規定されているが、今回の監査の結果、SFPAによる検査の大半が事前に通知してから行われていた。監査チームは、検査実施前の通知率がこのように高いことが公的管理の有効性に悪影響を及ぼしている可能性があると判断した。
今回の監査による結論として、より定性的な手法をレビューのプロセスに組み入れるべきであること、および検査実施前の通知に依存することで公的管理制度の有効性に限界が生じていることが指摘された。この監査報告書では、改善措置が必要な所見について言及されており、このうち一部については監査実施後にSFPAが対応を進めている。
注目記事
(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)
目次
【米国疾病予防管理センター(US CDC)】
1. キュウリに関連して複数州にわたり発生しているサルモネラ(Salmonella Montevideo)感染アウトブレイク(2025年5月19日付初発情報)
2. そのまま喫食可能な(ready-to-eat)食品に関連して複数州にわたり発生しているリステリア(Listeria monocytogenes)感染アウトブレイク(2025年5月10日付初発情報)
3. ヤモリに関連して複数州にわたり発生しているサルモネラ(Salmonella Muenchen)感染アウトブレイク(2025年5月15日付更新情報)
【欧州委員会健康・食品安全総局(EC DG-SANTE)】
1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)
【アイルランド食品安全局(FSAI)】
1. そのまま喫食可能な(Ready-To-Eat)水産食品事業施設における海洋漁業保護局(SFPA)の公的管理の有効性に関する監査報告書
【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】
1. 過小評価されているリスク:台所の病原体
- 食品安全情報
- http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
- 食品安全情報(微生物)No.11(2025.05.28)
- https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2025/foodinfo202511m.pdf