病院での食事提供の衛生管理

国立医薬品食品衛生研究所は、食品安全情報(微生物)No.20(2016.09.28)を発表した。

注目記事

【米国疾病予防管理センター】Adams Farm社の牛肉製品関連のO157:H7感染

 米国疾病予防管理センター(US CDC: Centers for Disease Control and Prevention)は、複数州の公衆衛生・食品規制当局および米国農務省食品安全検査局(USDA FSIS)と協力し、複数州にわたり発生している志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O157:H7感染アウトブレイクを調査している。

 STEC O157:H7アウトブレイク株の感染患者として、4州から計7人が報告されている。患者の発症日は2016年6月27日~9月4日である。患者の年齢範囲は1~74歳、年齢中央値は25歳で、57%が女性である。5人が入院したが、溶血性尿毒症症候群(HUS)の患者や死亡者は報告されていない。

 疫学・追跡調査および検査機関での検査から得られたエビデンスは、Adams Farm Slaughterhouse社(マサチューセッツ州Athol)で製造された牛肉製品が本アウトブレイクの感染源である可能性が高いことを示している。

 患者に対し、発症前1週間の食品喫食歴およびその他の曝露歴に関する聞き取り調査が行われ、回答が得られた5人のうち5人全員が牛ひき肉を喫食したと報告した。追跡調査の予備的結果は、患者が同社製造の牛ひき肉を喫食したことを示している。

 コネティカット州公衆衛生局(DPH)は、同社の牛ひき肉の残品を患者の家庭およびレストランから採取し検査した。その結果、どちらの牛ひき肉検体からもSTEC O157:H7アウトブレイク株が検出された。

 CDCおよび州・地域の公衆衛生当局は、新たな患者を特定し、発症前の喫食歴に関する聞き取り調査を行うため、PulseNetを介した検査機関サーベイランスを続けている。

【欧州疾病予防管理センター】欧州諸国で発生しているサルモネラ感染

 欧州疾病予防管理センター(ECDC:European Centre for Disease Prevention and Control)発。欧州連合(EU)および欧州経済領域(EEA)内の複数の国にわたり、サルモネラ(Salmonella Enteritidisファージタイプ(PT)8、MLVAプロファイル2-9-7-3-2)感染アウトブレイクが少なくとも2015年7月から発生している。

 2016年5月以降、EU/EEA加盟6カ国から本アウトブレイクの確定患者計16人および高度疑い患者計132人が欧州疾病予防管理センター(ECDC)に報告されている。本アウトブレイクの確定または高度疑い患者が報告されている国は、ベルギー、デンマーク、オランダ、ノルウェー、スウェーデンおよび英国である。これらの患者のうち少なくとも24人は、MLVA法やWGS解析(全ゲノムシークエンシング)が日常的には実施されていないEU加盟国への旅行歴があり、従って、これらのEU加盟国でも本アウトブレイクの患者が発生している可能性がある。

 ECDCは本アウトブレイクの規模を見極めるため、旅行歴の有無に関係なく、MLVAプロファイル2-9-7-3-2を示す株の一部に対し補足的なWGS解析の実施を継続することにしている。

 今回の国境を越えた健康への脅威の規模や重大性を監視するため、新規患者の発生および重要な状況変化は食品・水由来疾患および人獣共通感染症のための疫学情報共有システム(EPIS-FWD)に報告されるべきである。アウトブレイク調査の方法はEU/EEA加盟国全体で統一されるべきで、アウトブレイク感染源の特定には学際的なアプローチが採用されるべきである。

【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所】病院の調理施設での食品汚染による健康リスクを抑える

 ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR : Bundesinstitut für Risikobewertung)とロベルト・コッホ研究所(RKI)は、病院内の調理施設を介した病原菌や抗菌剤耐性菌の拡散防止のため、その対策と実用的な提言を共同で策定した。これらの対策と提言は、可能性があるすべての感染源および感染経路を考慮に入れている。食品の病原菌汚染の予防策は食品の耐性菌汚染の予防にも適用できる。

 病院では、食品由来感染症に感受性がとくに高い患者集団に食事が提供されている。この集団には、重度の原疾患や薬物治療により免疫能が抑制されている人、乳幼児、高齢者、および妊婦などが含まれる。したがって、病院給食での衛生管理は、地域の通常の給食施設の水準を上回る必要がある。

 病院内の調理施設は院内に病原体を拡散させる可能性があるが、その可能性の正確な定量はできない。

 細菌は、たとえば生の食品を介して病院内の調理施設に侵入する。病原菌を運ぶ可能性のとくに高い食品は、生の家禽肉、ひき肉、豚肉、狩猟動物肉、および生卵であるが、発芽野菜、種子、生鮮ハーブなどの植物性食品も可能性がある。

 危害分析の一環として、病院経営者は、原材料の受領から食品廃棄物の廃棄に至るまでの作業の流れを批判的に検証すべきである。必要ならば、病院内の調理施設での自己点検や職員の訓練も状況にあわせ実施する。たとえば、病棟では、食品に関する知識に精通した職員ではなく看護職員が配膳を行うことが多く、また多くの場合、配膳業務と看護業務は明確に区別されてはいない。感染症管理区域からの食器セットなどの返却は、病院内の調理施設に病原菌を侵入させる経路の1つとなり得る。

 病院内の調理施設における個人および業務上の衛生管理が遵守されれば、患者へのリスクは、主に、配膳前に食品が十分に加熱されるかどうかで決まる。また、患者へのリスクは、リスクにもとづく提供食品の選択、各病棟でのリスクに応じた配膳可能な食品の制限、および病棟の食堂ではバイキング形式を行わないことにより最小限に抑えることが可能である。

 同様に重要なこととして、清掃業務や修繕作業およびそれらに使用する用具については、病棟と調理区域とで厳密に区別する必要がある。

 病院内の調理施設の職員および病棟職員はともに、自らが負うリスクの可能性と責任を自覚すべきである。このため、食品を介した病原菌や抗菌剤耐性菌の拡散の防止に関する知識を伝える場としても、職場での講習会を定期的に実施することは意味がある。

(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)

食品安全情報へのリンク

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
食品安全情報(微生物)No.20(2016.09.28)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2016/foodinfo201620m.pdf

今号の目次

【汎アメリカ保健機構(PAHO)】
1. コレラの流行に関する更新情報(2016年9月12日)

【米国疾病予防管理センター(US CDC)】
1. Adams Farm社の牛肉製品に関連して複数州にわたり発生している志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O157:H7感染アウトブレイク(初発情報)
2. 冷凍イチゴに関連して複数州にわたり発生しているA型肝炎アウトブレイク(2016年9月16日付更新情報)

【欧州疾病予防管理センター(ECDC)】
1. 迅速リスク評価:欧州の複数の国にわたり発生しているサルモネラ(Salmonella Enteritidisファージタイプ8、MLVAプロファイル2-9-7-3-2)感染アウトブレイク
2. 全ゲノムシークエンシング(WGS)法により疾患サーベイランスおよびアウトブレイク調査の能力が向上する

【欧州委員会健康・食品安全総局(EC DG-SANTE)】
1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)

【欧州食品安全機関(EFSA)】
1. 新興リスク情報交換ネットワークの2015年次報告書

【オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)】
1. オランダでの感染症の発生状況(2015年)

【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】
1. 病院内の調理施設での食品汚染がもたらす健康リスクは適切な対策によって最小限に抑えることができる

【ProMed mail】
1. コレラ、下痢、赤痢最新情報