2015年食の10大ニュース[5]

海外の食品安全関連情報を紹介する「食品安全情報(化学物質)」の記事の中からピックアップしました。順不同です。(国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室 畝山智香子・登田美桜)

●「食品安全情報」(食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html

  • 世界中でダイエタリーサプリメントによる健康被害対策が課題
  • カフェインの過剰摂取への取り組み
  • 除草剤グリホサートの発がん性評価に関する論争
  • IARCが赤肉(red meat)と加工肉(processed meat)の発がん性を評価
  • EUでコメ中の無機ヒ素の最大基準値を設定
  • トランス脂肪酸への取り組み
  • アクリルアミドは引き続き食品安全上の問題
  • 遺伝子組換え動物の食用としての初認可
  • 食品廃棄削減への取り組み
  • 健康的な食生活とは?

(順不同)

1. 世界中でダイエタリーサプリメントによる健康被害対策が課題

 食品安全情報では今年も多数のダイエタリーサプリメント関連の記事を掲載しました。その多くは医薬品などの違法使用や健康被害に関するものです。とくに印象的だったのは、英国で女性が2,4-ジニトロフェノール(DNP)を含むダイエタリーサプリメントの摂取により死亡した事件でした。

 DNPはダイエタリーサプリメントや痩身用(いわゆる脂肪燃焼用)の製品に違法に添加されている工業化学物質で、その摂取による健康被害は10年以上前から報告されて各国で何度も警告が出されているものです。この事件は、死亡事例が報告される製品でもいったん販売されてしまうと、警告が出されているにも関わらず販売(とくにインターネット通販)や購入を根絶することが難しく被害が絶えないという、ダイエタリーサプリメントを取り巻く深刻で重要な問題をよく示していると思います。しかも、製品の表示にはそのような健康被害をもたらす成分が入っているということは書かれているはずもないので、消費者は知ることもできません。

 他に、多くのハーブサプリメントについてDNA検査をしたところ大部分の製品で表示とは異なる植物が検出され、その販売業者に停止命令が出されたというニューヨーク司法長官プレスリリースも、ハーブサプリメントの脆弱な品質管理の問題点を浮き彫りにした点で印象的でした。

 また、米国では司法省が中心となり、国税庁の犯罪捜査部、米国食品医薬品局(FDA)、米国連邦取引委員会(FTC)、郵政公社の執行機関、国防総省、米国アンチドーピング機構が協力して、1年間にわたり安全でないまたは異物混入されたダイエタリーサプリメントを見つける一掃作戦が行われ、117の各種製造・販売業者に対する民事差し止め命令や刑事訴訟が行われました。

 これらはダイエタリーサプリメントが抱える問題の氷山の一角です。機能性食品表示制度が施行された日本は、同時に多くの問題を抱えることにもなったと感じています。もしもある製品で健康被害が生じたとしても、消費者から健康被害報告を集めるシステムがないという問題点もあります。

2. カフェインの過剰摂取への取り組み

 12月になってカフェイン中毒による死亡事例がメディアで報じられました。しかし、カフェイン中毒は新しい問題というわけではなく、これまでの食品安全情報でも関連記事を何度も取り上げていたので、日本でもニュースになり認識されたのだなという印象を受けています。海外では、純粉末カフェインやカフェインを多く添加したエナジードリンク/ショットによるカフェインの過剰摂取、とくにカフェインとアルコールの同時摂取(カフェインの覚醒作用により酔いを感じにくくなり、多量飲酒や暴力行為につながりやすくなる)について注意を呼びかけています。対策の一環としてカフェインの摂取量調査、カフェイン添加量の規制、表示義務などを行っている国もあります。

 今回話題になったカフェインについては、コーヒーやお茶などを1回に1~2杯といった通常の範囲で飲んでいるのであれば健康被害の心配はないでしょう。しかしながら、意図的にカフェインを多量に含む製品や粉末・錠剤の製品を一度にたくさん摂ることで過剰摂取になり、健康被害につながったと考えられます。この危険は他の天然成分についても同様です。普段の食事で食べられているものでも、抽出・濃縮された製品(とくにカプセルや錠剤)にすることで1つのものを多量に摂取することになり、健康被害を生じる可能性があります。

※カフェインの摂取について、5年前に書いた記事ですが参考にご紹介します。

●食の専門家が知っておきたい食品科学情報
第2回 朝の一杯(2010年10月15日)
http://eiyo.sub.jp/column/contents/blog/2010/10/15/%E7%AC%AC2%E5%9B%9E%E3%80%80%E6%9C%9D%E3%81%AE%E4%B8%80%E6%9D%AF/

3. 除草剤グリホサートの発がん性評価に関する論争

 世界保健機関(WHO)の一機関である国際がん研究機関(IARC)が、除草剤グリホサート、殺虫剤マラチオン、ダイアジノン、テトラクロルビンホスおよびパラチオンの発がん性評価を行いました。結果は、除草剤グリホサート、殺虫剤マラチオン、ダイアジノンは「ヒトに対しておそらく発がん性がある(Group 2A)」、殺虫剤テトラクロルビンホス、パラチオンは「ヒトに対して発がん性のある可能性がある(Group 2B)」というものです。

 この中でグリホサートは世界中で大量に使用されている除草剤であるということと、FAO/WHO合同残留農薬専門家会議(JMPR)やEU(EFSA)による評価ではヒトへの発がん性はないとの逆の判断がされていることから、大きな論争を生じています。とくに、EUでのグリホサート再評価案を作成した担当国ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)が逐一意見を公表するとともに長文のQ&Aを3件発表するなど異例の対応をしています。

 IARCと他の機関による結論が異なった理由は、評価に使う資料の選択基準が異なったためです。2016年にJMPRがグリホサート再評価のための会合を開催すると言っています。まだしばらく論争は続くでしょう。

4. IARCが赤肉(red meat)と加工肉(processed meat)の発がん性を評価

 IARCが、赤肉を食べることは「ヒトに対しておそらくヒト発がん性がある(Group 2A)」、加工肉を食べることは「ヒトに対して発がん性がある(Group 1)」と分類したことが、食肉業界を中心に世界中で大きな話題となりました。

 IARCは発がん性があるかどうかの科学的根拠の強さを評価しているだけで、赤肉や加工肉の摂取量を考慮してリスクの大きさまで判断しているわけではありません。IARCの分類上はGroup 1と2Aになりましたが、日本人の赤肉と加工肉の摂取量は多過ぎるというほどの量ではないですし、栄養的に見ると重要なタンパク源でもあるので、これで赤肉や加工肉を食べるのをやめましょうというような問題ではありません。もし心配するのであれば、タンパク源として他に鶏肉や魚、豆などいろいろなものを取り入れることをお薦めします。

 発がん要因には他にも多くのものがありますので、がん予防についてこの問題一つに着目するのでなく、食生活や生活全体で考えることが大切です。

5. EUでコメ中の無機ヒ素の最大基準値を設定

 無機ヒ素は発がん性があり、その暴露源としてコメの寄与が大きいことから、EUは委員会規則(EC)No 1881/2006を改正してコメおよびコメ製品中の無機ヒ素の最大基準値を設定して2016年1月1日から適用することにしました。昨年はコーデックス委員会で国際基準として精米中の無機ヒ素の最大基準値が設定され、玄米についても現在議論が進められています。

 日本産の農作物の輸出促進をしようという動きがありますが、日本で栽培されているコメには無機ヒ素が比較的高いものもあるので、EU向けに輸出する場合には要注意です。

6. トランス脂肪酸への取り組み

 米国食品医薬品局(FDA)が、工業的に生成したトランス脂肪酸を含む部分水素添加油をヒト食用の「一般的に安全と認められる:GRAS(generally recognized as safe)」ではないとする最終決定を発表しました。トランス脂肪酸は部分水素添加油を製造する際に出る副生成物です。この規制適用には3年の猶予期間が設けられ、2018年6月18日からFDAが別途認可しない限り部分水素添加油を食品に添加できなくなります。

 このFDAの発表を受けて日本国内では規制をしないのかといった意見もありました。しかし、日本人はもともと脂肪の摂取量が欧米に比べて少ないうえ、トランス脂肪酸の摂取量もWHOの目標値(トランス脂肪酸摂取を総エネルギー量の1%とする)を大きく下回っています。また、企業が製品中のトランス脂肪酸の量を減らす努力もしていますので、日本人への健康リスクは低いと言えます。

 食品に関する規制は、その国民の健康リスクに応じて選択されるべきで、FDAではGRASではないとする選択をしましたが、オーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ)では表示義務を検討していたものの、企業努力により流通している食品中のトランス脂肪酸濃度が低くなったため、表示の義務化は必要ないと判断しています。

7. アクリルアミドは引き続き食品安全上の問題

 欧州食品安全機関(EFSA)が2015年の重要課題の一つとして選択し、包括的レビューを行った上で、食品中のアクリルアミドがすべての年齢集団の消費者のがんになるリスクを増す可能性があるとの科学的意見を改めて発表しました。

 アクリルアミドは食品中に天然に存在する糖類とアミノ酸(アスパラギン)から高温調理(120℃以上)によって生じるので、コーヒー、フライドポテト、ポテトチップス、ビスケット、パン、クラッカーなどさまざまな食品に含まれています。

 食品業界ではこの問題への取り組みが進み、市販製品中のアクリルアミドの量はだいぶ低減されました。しかし、家庭での調理でどの程度のアクリルアミドが生じているのか、個々の食習慣に応じて摂取(暴露)量がどのくらい違うのかは正確にはわかっていません。その解明をしようと11月に英国食品基準庁(FSA)が初めて家庭での調理の際のアクリルアミド生成に関する科学報告書を発表しました。この報告書にはトーストの焼き加減による濃度の違いなども調べています。

 食品中のアクリルアミドによる健康リスクの大きさは、その摂取量に依存します。しかしながら、日本人がどのような食品からどのくらいの量のアクリルアミドを摂取しているのかは現時点では明らかになっていません。内閣府食品安全委員会で加熱時に生じるアクリルアミドワーキンググループが設置されましたので、その作業の中で明らかになることでしょう。

8. 遺伝子組換え動物の食用としての初認可

 米国食品医薬品局(FDA)は、科学的根拠の包括的レビューをもとに、食用の遺伝子組換え動物としてAquAdvantageサーモンを認可しました。これは食用の遺伝子組換え動物が認可された初めての例になります。

 AquAdvantageサーモンはカナダとパナマの内陸にある2つの封じ込めた特定施設でのみ養殖され、遺伝子組換えでない養殖大西洋サケよりも早く市販できる重量に達するのが特徴です。

9. 食品廃棄削減への取り組み

 FAOと国際食糧政策研究所(IFPRI)と CGIAR政策機関市場(PIM)研究計画 が「食品損失と廃棄を測定し減らすための技術的プラットホーム」を発表しました。FAOは、穀類の30%、乳製品の20%、魚類および魚介類の35%、果実および野菜の45%、肉の20%、油糧種子の20%、根菜類の45%が毎年損失あるいは廃棄され、それは世界で生産される食糧の1/3に相当すると推定しています。

 各国では、国民が食品損失や廃棄についてどのように考えているかの調査や、食品廃棄削減への取り組みを国家プロジェクトとして行っていて、日本にとっても今後取り組むべき課題の一つでしょう。

10. 健康的な食生活とは?

 WHOが「健康的な食生活:Healthy diet」というファクトシートを公表しています。これは世界中の人に向けてのメッセージなので、ここに紹介しておきます。とくに今年はWHOが糖の摂取量を減らすよう呼びかけるガイドラインを発表したことが話題になりました。

重要ポイント

  • 健康的な食事は、肥満、糖尿病、心疾患、脳卒中およびがんを含む非伝染性疾患(NCD)だけでなくあらゆる栄養失調を防ぐのに役立つ。
  • 健康的でない食事と運動不足は健康への包括的リスクとなる。
  • 健康的な食生活は人生の初期から始まる――母乳には子どもや青少年の肥満や過体重リスクを減らすなどの長期にわたる利点があるかもしれない。
  • エネルギー摂取量(カロリー)は消費量とバランスをとるべき。不健康な体重増加を避けるために、総脂肪は総エネルギーの30%以下にし、飽和脂肪は不飽和脂肪に換え、工業的トランス脂肪は避ける。
  • 遊離の糖は総エネルギーの10%以下にし(肥満や過体重の予防)、さらに5%以下にすることで追加のメリット(虫歯が少なくなる、等)がある可能性がある。
  • 塩の摂取量を1日5g以下を維持することで高血圧予防に役立ち、成人の心疾患や脳卒中リスクを低減する。
  • WHO加盟国は2025年までに世界の人々の塩の摂取量を30%減らし、糖尿病や肥満の増加を食い止めることに同意した。

その他

  • 抗生物質耐性は世界的な問題
  • EFSAがビスフェノールA暴露について包括的再評価の結果を公表
  • 昆虫を食品や飼料として利用することについて各国で検討進む
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About 登田美桜 39 Articles
国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室室長 とだ・みおう 農学博士。国立医薬品食品衛生研究所は、医薬品、食品、その他生活環境中に存在する物質について、品質、安全性、有効性を評価するための試験、研究、調査を行う機関。 安全情報部の「食品安全情報」は、食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報を伝える。