2010年食の10大ニュース[12]

「2010年食の10大ニュース」は予想以上に各界の皆様からご協力をいただきました。食について、正しい情報、真に有益な情報を発信したいという皆様の情熱の強さに改めて敬意を表し、ご協力に感謝申し上げます。

 そして、FoodWatchJapanをご覧くださっている皆様の情熱も感じております。仕事納めが終わった後も閲覧数は高く、スタッフ一同冥利に尽きることと存じ、読者の皆様に感謝申し上げます。

「2010年食の10大ニュース」は当初まとめて一つの記事としてご紹介しようと計画していましたが、ご執筆いただいた皆様の記事の一つひとつがユニークかつ重要な情報を豊富に含んでいますので、編集部で手を加えることはなるべく控え、できるだけそのままの形でご紹介させていただいております。

 本日は一挙7名の方々の記事をお届けします。

「2010年食の10大ニュース」、続いては外食産業分野の識者4名の登場です。(FoodWatchJapan 齋藤訓之)

  1. TPP加盟検討と前原発言
  2. 低価格飲食店・居酒屋ブーム
  3. 外食企業のアジア市場重視強まる
  4. ビール風味飲料の定着
  5. 宮崎県で口蹄疫発生
  6. 猛暑による農水産物への影響甚大に
  7. 食べるラー油の大ヒット
  8. 「ミシュランガイド・日本版」の対象地域拡大
  9. 鳥インフルエンザウイルスを持つ渡り鳥を確認
  10. 外食・飲料業界で再編成進む

1. TPP加盟検討と前原発言

 菅首相がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加検討を表明したことに対し、全中(全国農業協同組合中央会)をはじめとする農業サイドが猛反発している。これに絡んで前原外相が「日本のGDPに占める第1次産業の割合は1.5%にすぎず、この1.5%を守るために、残りの98.5%のかなりの部分が犠牲になっているのではないか」と発言、物議をかもした。

 私見を述べさせていただけば、TPPへの参加は当然にして必然の流れだが、それが第1次産業を犠牲にしても、という考え方には賛同できない。

 牛肉の輸入自由化にあたり「国内の畜産農家が壊滅する」という議論があったが、実際にはそうはならなかった。日本の農業には底力・商品力がある。これを保護ではなく、育成すると同時に、食糧の確保、自然環境の保護という前向きな視点で議論し直すときだ。

2. 低価格飲食店・居酒屋ブーム

 全品270円、290円といった低価格居酒屋の乱立や、牛丼チェーンに見られる低価格競争が激化した年だった。景気の影響が大きいが、飲食店側の体力消耗戦の様相を呈してきていて、必ずしも好ましい状況とは思えない。消費者も、「安売り競争」に喜んでばかりいてはいけないことを肝に銘ずるべきだろう。

3. 外食企業のアジア市場重視強まる

 少子・高齢化に伴い国内の胃袋が縮小していくことを考えれば、外食企業や食品企業が市場をアジアをはじめとする新興国に求めるのは時代の必然だ。

 あるとんかつチェーンは台湾出店に際し、現地語が分かるスタッフを確保することを忘れ、開店当初大混乱をきたしたが、それが「あの店は本当に日本人だけでやっている」といった評判につながり、結局は成功につながったという、笑い話のような本当の話がある。

 工業製品だけでなく「食」でも日本ブランドは強い。1990年代、日本の外食企業が東南アジアに出店したものの失敗して撤退する例が多く、「日本の外食企業は海外展開がヘタ」といわれたこともあったが、今回の再挑戦は本物といえそうだ。

4. ビール風味飲料の定着

 アルコール度数が0.00%のビール風味飲料。09年4月発売のキリンビール「フリー」が先行したが、10年8月にサントリーが「オールフリー」、アサヒビールが「ダブルゼロ」でカロリーや糖分も0.00%とした商品で追随、すっかり市場に定着した。

5. 宮崎県で口蹄疫発生

 4月に宮崎県で口蹄疫に感染した牛が確認され、感染地域が拡大したこともあり、7月の終息宣言までに、貴重な種牛を含む約29万頭の家畜が殺処分となった。初動対策の遅れが感染地域を拡大させたという指摘もあるが、畜産農家に与えた経済的・心理的被害は非常に大きく、回復には数年かかりそうだ。今回の件を貴重な経験とし、国を挙げての初動マニュアルの策定などが望まれるところだ。

6. 猛暑による農水産物への影響甚大に

 今夏の猛暑が農水産物などに与えた被害は、葉物野菜などの短期的な値上がりにとどまらず、コメや果実など、秋以降に収穫する作物の出来や水産物の水揚げにも大きな影響を与えている。異常気象が原因であるため問題の根は深いが、耐暑性・耐寒性新品種の開発や、豊作時の備蓄対策などが求められそうだ。

7. 食べるラー油の大ヒット

 09年8月、桃屋が発売した「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が火付け役となり、今年3月にラー油トップメーカーのヱスビー食品が「ぶっかけ!おかずラー油チョイ辛」で追随したほか、ホテルや飲食店なども自家製「食べるラー油」を発売するなど、一気にブームが広がった。味や具材などが各社(店)各様であることも、ブームの広がりや長期化の一因となっているようだ。

8. 「ミシュランガイド・日本版」の対象地域拡大

 07年、欧米以外では初の「ミシュランガイドブック」となった東京版。09年には京都・大阪版が発行されたが、今年は東京版に横浜・鎌倉、京都・大阪版に神戸地区が加わり、カバーする飲食店の範囲が一気に拡大した。「ミシュランガイドブック」の日本での発行には、「フランス人に日本料理が理解できるのか」などといった声もあるが、レストランガイドとして定着してきているといえるだろう。

9. 鳥インフルエンザウイルスを持つ渡り鳥を確認

 11月に島根県、12月には富山県と鹿児島県で、高病原性のH5N1亜型ウイルスに感染した鳥が発見された。鳥インフルエンザは渡り鳥が運んでくるといわれ、完全に防ぐことは困難だが、養鶏業などに多大の被害を与えるだけでなく、豚などを介して人間にも感染しやすい型に突然変異することが心配されているだけに、注意が必要だ。

10. 外食・飲料業界で再編成進む

 4月にアサヒ飲料がハウス食品のミネラルウオーター事業を買収、8月にはキリンホールディングスがメルシャンの完全子会社化を発表など、飲料業界で大きな再編成が相次いだ。外食分野でも8月にアークランドサービスとサトレストランシステムズが共同出資会社設立で合意、中国系企業がラーメンチェーンの「どさん子」の筆頭株主になるなど、業界再編成に向けた動きが出ている。これは11年以降、もっと大きな規模での再編へ向けた兆候になりそうだ。


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About 加藤秀雄 3 Articles
フードジャーナリスト かとう・ひでお 1973年日本経済新聞入社。88年3月日経マグロウヒル社(現日経BP社)に出向。「日経レストラン」の創刊準備に携わり、創刊時、副編集長。91年から約9年間編集長を務めた後、「日経レストラン」「日経食品マーケット」発行人を歴任。現在、人間総合科学大学、東京栄養食糧専門学校非常勤講師。社団法人オープン・フードサービス・システム・コンソーシアム代表理事、日経読み方セミナー講師、宮城県食大使などを務めている。