築地市場の一心太助たち

昨日、築地市場(東京都中央卸売市場築地市場)でマグロの競りの見学が再開された。外国人観光客のマナーが悪いということで、昨年末からいったん止められていたもの。


広く、長く、複雑な場内。
広く、長く、複雑な場内。

 昨日は警備を強化したこともあって、混乱はなかったという。外国人でなくとも、市場でなくとも、マナーを守るのは当然のこと。むしろ、マナーを教え、守ってもらう活動そのものを、日本の社会なり文化なりを伝える教育活動、外交の一つととらえて取り組んでいただければいいのではないか。

 私自身、こういう仕事をしていながら、ずっと築地を見学していないでいた。しかし、昨年、子供が通っている小学校の社会科見学で行くというので、カメラマン兼先生のお手伝いの名目でのこのこついて行った。

 これは、しみじみと静かに感動が湧いてくるような、素敵な体験だった。

真ん中のがターレ。
真ん中のがターレ。

 市場はとかく危険なもの。まして築地は水産物の市場で、水が多い。足もとは水、氷、あるいは包材が転がり、とにかく滑りやすい、転びやすい。

 そこへ、ターレ(ターレット・トラック。荷物を乗せたり牽引したりするための、小回りの利く三輪トラック)がすっ飛んで来る。自転車もすっ飛んで来る。バイクもすっ飛んで来る。軽トラック、大型トラックもすっ飛んで来る。人間もすっ飛んで来る。危ない、危ない。轢かれちゃう。

 とにかく、一事が万事忙しいところ。農産物中心の大田市場も忙しいところだけれど、スピード感が違う。

 雰囲気も荒っぽい。なにしろ、かけ声が荒っぽい。

 それで、荒々しい人たちなのだろうと、怖々、恐る恐る歩く。

ほらー。優しいんだよ、みんな。
ほらー。優しいんだよ、みんな。

 ところが。小学生のひよっこたちが通歩いていると、目をつり上げるようにしてきびきび仕事をしているおじさんや兄さんが、ふと振り向いて声をかける。

「どこから来たんだい? そうかい、多摩かい」

「気をつけて歩くんだよ」

 どのおじさんも、兄さんも、姐さんも、まなじりを下げて、本当に穏やかで優しい声をかける。

 その時のほんわかとした優しい目、作った目ではああはならない。本当に、子供たちがかわいいねという目。

マグロのセリをするひな壇。
マグロのセリをするひな壇。

 それで思い出す。昔、子供が外を歩いていると、大人たちはあんな風ににっこりしてくれたっけ。忙しくても、ぎすぎすとはさせない。あの懐かしい社会を、築地の人たちは生きているのに違いない。職場も、店一軒が家族そのもののような。

 ちょっと見ただけでは威勢が良くて荒々しいとしか思わない。でも、ものすごく温かな気持ちを持っている人たちだと、見学の間、何度も何度も感じた。それで、どんどんほくほくとした気持ちになっていく。

 あの優しい人たちが用意した魚を、私たちは食べている。そう思うだけでどんなに幸せを感じるか。あれから、東京の魚の味が全く変わって感じられる。

 外国からの観光客にも、そこをこそよく見て、味わってもらいたい。

 築地市場、絶対に家族で見学しておくこと、お薦めです。

押すなー。おっこちるー。
押すなー。おっこちるー。

※このコラムは個人ブログで公開していたものです。

About 齋藤訓之 392 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →