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OSIグループ・上海福喜食品の不可解なビデオについて

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OSIグループの上海福喜食品が、消費期限の切れた材料を使用したり不適切な操業をしたりしている映像が中国でテレビ放送され、これが問題になっています。

 日本の大手メディアでは「また中国産食品で安全問題」という論調が目立ちますが、注目すべきポイントをはずしてしまっている印象があります。私自身詳細な情報をつかんでいるわけではありませんが、視点を考える材料を書き出してみます(予めお断りしておきます。恐縮ですが今回「結論」に当たるものは書きません)。

マクドナルドはパートナー企業と成長した

 1950年代以降の世界の食品工業と外食産業は、多かれ少なかれマクドナルドの考え方、構築したシステム、それらを構成する数々の技術の恩恵を受けています。

 ただし、それらはマクドナルドコーポレーションだけで生み出したものではなく、商品や機器ごとに優れた企業があり、マクドナルドというチェーンの成長と共に飛躍的に成長したパートナーと呼べる企業があります。それらを組み合わせて一つのチェーンを組み立てたこと、さらに互いに影響し合って協働する関係を構築したことが、マクドナルドコーポレーションのイノベーションと言えます。

 たとえば、マックフライポテトとして売り出されたフレンチフライはアイダホ州のJ.R.シンプロットが開発し、マクドナルドコーポレーションが採用したものです。軽く揚げたフレンチフライを冷凍し、店で揚げ直す二度揚げポテトの発明は独特の風味を生み出しジャガイモ流通を変える大発明でしたが、商品として普及させたのはマクドナルドと言っていいでしょう。この2社は、切っても切れない関係にあります。

マクドナルドのパートナー企業は食品安全の総本山

 同じように極めて密接な関係を作りながら共に成長してきたのが、食肉加工のOSIです。同社はマクドナルドコーポレーションよりも古い企業ですが、マクドナルドへの食肉供給を始めて以来、技術革新を重ねながら、爆発的な成長を始めたマクドナルドの量と質への要求に応えてきた企業です。

 こうしたマクドナルドというシステムに参加する企業は、食品の高品質化、低コスト化、そして安全性向上について、常に食品業界をリードしてきました。今日の食品製造や食品安全、それらのマネジメントについての各種の規格は、これらの工場で編み出された技術や習慣を参照したものが多く含まれています。

 彼らが高品質化と低コスト化を目指した理由は、利潤の追求ですから説明するまでもないでしょう。安全性向上も高品質化の一環ですし、実は低コスト化でもあります――事故が起こったときのコストは小さくありません。また、事故発生の可能性を持つ箇所というのは、往々にして作業上のムダやムラがある箇所です。それを丁寧につぶしていくことは生産性を上げることであり、やはり高品質化と低コスト化につながるのです。

 もう一つ付け加えれば、マクドナルドは不適切な材料や混ぜものがあるとする噂話や都市伝説に長年悩まされてきたチェーンであり、マクドナルドコーポレーションもパートナー企業も、この問題については非常に注意しており、その管理と透明性について強い関心を持っています。

現代の工場としては「まさか」としか思えない映像

 さて、OSI資本である上海福喜食品ですが、問題になっているテレビ番組の映像は、以上の前提から見ると、ちょっと受け容れがたいものです。「受け容れがたい」というのは「許せない」という意味ではなく、「業として常日頃行われていることとは考えにくい映像だ」ということです。

 まず、消費期限切れの食肉在庫があるということがわからない。OSIグループの中でこのようなものが発生することは、むしろ難しいことでしょう。なぜなら、日々大河のように食肉が流通している中で流れない在庫があるというのはそれだけでムダです。こういうものを発生させないところに、彼らの物量の力と管理ノウハウがあるはずです。

 では、どこかのうまく行っていない他社のものを買い叩いて持ち込んだのか? その場合、仮に消費期限内のものだとしても、スペック通りの製品ができないのは明らかです。そのようなものを作らせる発想が、そもそも親会社にはないはずですし、OSIグループに認められた役員が指示することも考えにくい。不正がバレればクビですし、その不正をあぶり出す仕組みは品質管理マネジメントの中で持っているはずだからです。それをごまかすには相当な手間が必要でしょう。そのブラックな努力は、多少の賄賂であがなわれるようなものではないでしょう。

 もう一つ理解できないのが、ミキサーや作業台から材料や製品がこぼれる映像です。工程でこのようなミスが起こることはまず真っ先につぶされているはずです。単純な話、こぼれたものを拾ってラインに戻す動作というのは不潔、危険であるだけでなく非常にムダです。そういうことが起こらないよう、そもそもこぼれないように、モノがラインから外れないように、工場は作られるものです。努力の方向が全く違う。

 また、あの映像には、そもそも人間の手による作業や持って歩く作業が、新しい仕組みを持つ工場としては多いとも感じました。

 こうした感想、映像から感じる違和感は、私が感じただけでなく、国内外のさまざまな工場を見ているバイヤーやコンサルタントからも聞かれました。状況から考えると、工場の操業に恒常的な問題、組織ぐるみの問題があったと、この映像だけで断定するのには躊躇してしまうということです。

状況を考えるためのメモ

 では、問題の映像はどのように撮影され、放映されるに至ったのか。まだ何かを断定できる状況ではありません。しかし、日本の消費者、視聴者、読者は、自由に考える権利があります。

 私自身、何が行われていたのか、また今後何が起こるのか、今この段階で何か断定できる材料を持っているわけではありませんが、考える材料として持っているものの一部を列挙しておきましょう(ただし、これらによって何らかの予断を誘導しようというものではありません)。

・OSIグループは品質、収益性、それらを良好に保つオペレーションについて非常に厳格な企業である。収益の一定レベルの部分を技術革新に投資し続ける伝統を持っていて、食品加工に関するヒト・モノ・カネの管理ノウハウはトップクラス。

・OSIグループは中国国内に複数の製造拠点を持ち、最新のものは既存のいずれをも凌駕する生産性を持つ。それは上海のものではない。

・OSIグループはBtoB企業として“黒子”に徹してきた。トップの顔がテレビに映されるということは、これまでほとんと考えられなかったこと。

・印象として、中国東北部は政治、中国南部はビジネス。

・中国の食品工場、とくに欧米との取引が多い南部の工場の管理レベルは高い。ISO22000シリーズ、FSSC22000など高度な認証取得工場が多い。それらでは、実際の工場設備を見ても、建築とラインの設計は日本では珍しいと思われるほど高度なものがあり、設備もスタッフの技術や習慣も良好。

・中国人は一般的に極めて実利を重んじる現実主義者。金になれば何でもするかもしれないが、自分の損になることはしない。複数のISO基準など多数の規格の認証取得や最新の設備も、これで考えると納得しやすい。

・中国人はまた、金も大事だが、自分や家の面子も大事。漢字の「福」とは一族が末永く続く意味で、勤務先や国家も福の方便。

・中国では、工場にテレビカメラを入れる突撃取材によって工場の不正を暴き、関係者をつるし上げにする方式のテレビ番組がジャンルとして定着している。

・一般に、中国メディアのスタッフは共産党員の子女でなければなれないものと、現地の人々は信じている。

・故藤田田によれば、少なくとも創業者レイ・クロック存命時代のマクドナルドコーポレーションとそのパートナー企業の多くの経営者たちは、国際的なビジネスパーソンのネットワークでさまざまな情報を共有していた。この個人的なネットワークは、危機に際しては互助的に機能する。

執筆者

齋藤訓之
齋藤訓之
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →