田植えの時期と方法から、農家の考え方を聞き出す

苗箱に種モミをまく作業/民間稲作研究所=栃木県
苗箱に種モミをまく作業/民間稲作研究所=栃木県
植え付け直後の水田(茨城県)
植え付け直後の水田(茨城県)

関東地方をはじめ、多くの地域で田植えシーズンがたけなわを迎えています。この時期の水田を観察すると、それぞれの農家の考え方がかなり分かり、面白いものです。

 まず、いつ田植えをするか。現在、国内のかなりの農家がゴールデンウイークの最中に田植えを行います。これは、植物にとっての適期というよりは、経営的な事情によることが多いものです。

 今の日本のコメ農家のほとんどは、「本業はサラリーマンで、たまたま家に農地がある」というタイプの兼業農家です。この場合、ウイークデーに農作業をするということは難しく、特に田植えという大イベントは連休に行いたいと考えるわけです。連休中であれば、準備、田植え、片付けの一連の作業を1日で終えることができなくても大丈夫ですし、普段遠隔地にいる家族や親戚に手伝いに来てもらうこともでき、古来そうであったように、田植えが家族や地域の絆を強化する行事ともなるわけです。

 農業が本業という専業農家、中でも特に積極的な経営を行う農家のことを、農村では「プロ農家」と呼んでいます。つまり、それ以外の多数派は「アマチュア農家」というわけで、都会の人にはびっくりするような話かも知れませんが、これが今日の日本の農業の姿です。

 さて、その専業農家、プロ農家の多くは、連休の後~5月下旬にかけて田植えをする場合が多いようです。とりわけ、稲作の裏作にムギを作る場合は、ムギを刈り取って圃場が落ち着いた後、6月に田植えをすることになります。ムギを作らない場合でも、地域や品種にもよりますが、「イネにとっては6月に植えるのが、本来の適期」と言う人もいます。

 逆に、4月中に田植えを済ませてしまう人もいます。これは早生品種を植えて早場米の出荷を狙う場合がほとんどでしょう。

苗箱に種モミをまく作業/民間稲作研究所=栃木県
苗箱に種モミをまく作業/民間稲作研究所=栃木県

 植える苗にも、いろいろな種類があります。現在は、多くの農家は、苗を自分で作らず、買って来ます。これは、兼業農家だけでなく、プロ農家にも多いものです。田植えに失敗は許されません。いざ田植えという段階になって、苗がうまく育たなかったとか、足りなかったということでは、その年1年がパーになります。そういうことがないように、きちんと管理された育苗施設でプロが育てた苗を使いたいという農家は多いのです。

 では、その売っている苗は、誰が作っているのでしょうか。

それは、地域の農協や、考え方が同じ生産者のグループや、一部のプロ農家です。農協の苗も、実際に育てる作業をしてるのは、地域で信頼されているプロ農家であったりします。

 苗は、一般的には苗箱という板状の箱に土を薄く敷き詰めて、そこに種モミをまいて育てます。苗箱のサイズには規格があります。それは、毛足の長いじゅうたんのような苗の固まりを田植機にセットして使うためです。どのメーカーのどの田植機にもセットできる苗箱のサイズは決まっているのです。

 ただ、これに敷く土は、地域や苗を作る農家によってさまざまです。山から取ってくるという人もいれば、この土も農協や農業資材メーカーなどから買うという人もいます。イネが最初に触れる土の栄養状態が適切でなかったり、病原菌を持っていては、大切な育苗に失敗してしまいます。特に、プロ農家と呼ばれる人に、土も買うという傾向が強いようです。

 種モミはどうでしょうか。これも、買ってくるのが主流です。農協や、農業資材店から買います。たいていは、都道府県ごとに決めている指定品種、奨励品種の種モミを買いますが、他府県のプロ農家や種苗メーカーから買う場合もあります。それは、自分の地域の指定品種に納得がいかないという農家や、他の人がやっていない品種にチャレンジしたいという場合です。

有機栽培の認証を受けた種モミを生産する圃場/民間稲作研究所=栃木
有機栽培の認証を受けた種モミを生産する圃場/民間稲作研究所=栃木

 また、現在はコメで有機栽培の認証を受けるには、種モミや土を消毒するために化学物質を使わない方法で育苗したものを手に入れなければなりませんが、一般に販売を目的にこのような育苗を行っている生産者は少なく、自分で育苗しないという場合は、他府県で探さざるを得ないという場合も多いのです。

 田植えの時期の農家はとても忙しいので、その真っ最中に訪ねるのは避けた方がいいかも知れません。親しくなれば、「手伝いに行きます」と言って、その実足手まといになっても笑って受け容れてくれるかも知れませんが、なるべく田植えが終わった頃に訪ねるのがいいでしょう。その折に、上記のような話題を振れば、それぞれの農家が自分の考えと実際にやったことを、ゆっくり分かりやすく説明してくれるでしょう。

※このコラムは柴田書店のWebサイト「レストランニュース」(2009年3月31日をもって休止)で公開したものです。

齋藤訓之
About 齋藤訓之 289 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →