値下げするとお客が減るのはなぜか?(8)儲けたければ原価率は上げるな

値下げによって消費者がどのように反応するものか、飲食店の経営の話題としては少し変わったお話をしてきました。今回は、経営者にとってはおなじみのお金の話から、値下げについて考えてみます。

値下げの方法には3種類がある

 コストのあり方から考えると、商品の価格を下げるには3つの方法があることがわかります。

●コストによる値下げの分類
コストの比率を上げる 値下げI類
コストの金額を下げる 供給者(仕入先)へ値下げを要求 値下げII類
仕組みを変える(業態開発) 値下げIII類

 1つは、コストの比率を上げることです。以下、わかりやすくするためにコストを食材原価に絞って説明しましょう。たとえば500円の料理の食材原価(フードコスト)が150円であった場合、原価率は30%です。この料理を同じ材料を使って450円で提供すれば、原価率は約33%で、コストの比率が3ポイント上昇することになります。このやり方を、仮に値下げI類と呼ぶことにしましょう(これは本稿で私が勝手に名付けるもので、マネジメントの教科書を探してもこんな言葉は出てきませんのでご注意ください)。

 もう1つは、コストの金額を下げる方法です。500円の料理の価格を450円に下げるのに先立って、食材原価を135円とするようにします。こうすると、原価率は30%を保ったまま値下げをするということになります。

 これを実現する方法には2つの種類があります。

 1つは、その原材料供給者に値下げを要求するというものです。「今まで150円払っていたけど、明日から1割引きの135円でよろしく!」と言ってしまうわけです。これもまた、仮に値下げII類と呼ぶことにしましょう。

 コストの金額を下げる方法のもう1つは、仕組みを変えることです。たとえば、料理に使っていた肉を近所の精肉店から買っていたのを、同業者と共同してロットをそろえるなどして卸会社から直接買うようにするとか、相場のある原材料なら安いときに多く仕入れて冷凍しておくとかといった取り組みです。これは値下げIII類と呼ぶことにしましょう。

 では、この値下げI類、同II類、同III類のそれぞれを恒常的に行った場合、本当にお客が増えることにつながるものかどうか、個別に考えていきます。

原価率アップはお客の不満を招く

 まず値下げI類についてです。

 これはいわゆる「原価をかける」ということで、一般の消費者には好ましいことに聞こえる話です。また、昨今は専門の経営情報誌でも「儲けたければ原価率を上げよ」という論調の記事が載ったり、そのように勧める書籍も出たりしていますが、プロにとっては冗談ではない話です。実はそう手放しで推奨できることではないということを、ここで押さえておきたいと思います。

 前段ではコストを食材原価に絞って説明しましたが、実際のコストは食材原価のほかに人件費、水光熱費、家賃、リース料、金利などさまざまなものがあります。飲食店の経営では、このうち食材原価と人件費をF/Lコスト(food / labor cost)と呼んで、経営指標として重視しています。

 一般的な飲食店では、このF/Lコストを60%までに抑えましょうという指針がよく示されます。これを超えると、経営状態が悪化に向かう黄色信号となるということです。

 ということは、食材原価(F)が上昇する場合、人件費(L)は下げる必要があるということです。つまり、食材原価と人件費はトレードオフ(こっちが上がれば、その分あっちを下げる)的に考えるべきなわけです。

 とは言え、食材原価が上がるときに人件費を下げやすい場合と、それが容易には実現できない場合とがあります。食材原価が上昇するのには、2つのパターンがあるのです。

 パターンの1つは、食材の加工度が高まるために食材原価が上昇するという場合です。エビフライを、エビ、卵、小麦粉、パン粉などの材料を使って、店舗(自社)で一から作ると、手間はかかりますが食材原価は低くて済みます。これを冷凍庫から取り出して揚げればよいだけの冷凍食品(加工度が高い)に変えた場合、食材原価は上昇しますが、店舗の手間は減りますから、理論上人件費は下げ得るわけです。ただしこの場合、店・会社の独自性が犠牲になりがちです。

 さて、厄介なのはもう1つのパターンです。エビやパン粉などの材料の質を上げて「こだわりのエビフライ」を作ることにした場合、食材原価は上昇しますが、人件費が下がる理由はないわけです。

 先に挙げた例で、食材原価率が3ポイント上がる場合、人件費は少なくとも3ポイント下げなくてはなりませんが、ここで食材原価率が上昇するのは単に売価を下げることによるわけで、食材の加工度が上がったわけでも何でもありません。それでも人件費を下げようとすれば、パート・アルバイトのシフトを無理にでも減らす必要があるでしょう。

 これはいわゆる「頑張らせる」ということで、言い方を変えれば「労働強化」ということになります。そのようにした場合、オペレーションが荒れ、お客を待たせたり、ミスや事故を起こす危険は高まりますし、従業員の不満も招き、それがさらにミスや事故の要因となりかねません。

 あるいは、F/Lコストは60%を超えてもよく、その超過分はF/Lコスト以外のコストダウンで吸収するという考え方もあるでしょう。

 では、その場合、どのコストを下げるでしょうか。水光熱費は売上げが伸びれば上昇するはずの変動費です。家賃、リース料、金利は固定費か固定費的なもので下げようがないでしょう。だいたいの場合、ここで手をつけるのは、研究・開発費と教育・訓練費ということになるでしょう。

 しかし、他店や流行を調査しに行ったり新商品の試作を行ったりという研究・開発費を削れば、やがて新しい商品や自店のオリジナル商品は減っていかざるを得ないでしょう。また、教育・訓練費を削れば、これもミスや事故を増やしかねないことです。

 さもなければ、利益を削るしかありません。いわゆる「出血大サービス」です。これはもちろん、店・会社にさまざまな悪影響を及ぼし、経営を悪化させます。

 したがって、値下げI類は、実はお客の満足を低下させやすい施策だと考えることができます。

仕入先に泣いてもらえばわが社が泣くことに

 値下げII類についてはどうでしょう。これは、自店の代わりに原材料供給者(仕入先)に負担をかけることを意味します。

 それでも、一時的なキャンペーンであれば、相手も話に乗りやすいということはあります。これはたとえばビールメーカーなどについてよくあることですが、「値下げキャンペーンで客数を増やしてビール販売量を伸ばすので、キャンペーン期間中にビールを安く提供してください」と話して、了承されることがあります。“協賛”と呼ぶものです。

 しかし、恒常的な値下げとなると、ビールでも他の食材でも、なかなか乗ってくれないでしょう。ですが、近年はたとえば販売量の多い小売業などに多いことですが、「安値でも出荷するほうが、お宅の工場のラインを止めるよりもましだろう」などと言って新価格をのませる例が増えているようです。これはほとんど脅迫なのですが、工場側も雇用は守りたいので、ついのんでしまうことも多いようです。

 ここで原材料供給者が何らかの工夫でコストダウンに成功してくれればいいのですが、それも、本来はその原材料供給者の企業努力ですから、原材料供給者の利益が増えるはずのところ、需要者がその増益分を横取りするような形になりかねません。

 すると、原材料供給者はジリ貧になって、ひどい場合は倒産に向かうことも考えられますし、そこまでいかなくとも、その会社の活力を弱めたり、店・企業に対するロイヤリティ(忠誠度)、応援したい気持ちを低下させたりということになっていくでしょう。これも、材料の質の低下やミスや事故の危険につながっていくことです。つまり、値下げII類もまた、お客の満足を低下させやすい施策と見ることができます。

 以上、値下げI類、値下げII類は、「無謀な値下げ」ということになります。

 こう考えていくと、期待できるのは値下げIII類のみとなるわけですが、これについては次回お話しします。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →