パパのパイにねこまきだんご

映画「ピーターラビット」シリーズから

現在公開中の「ピーターラビット2 バーナバスの誘惑」は、2018年公開の映画「ピーターラビット」の続編。イギリスの作家、ビアトリクス・ポター(1866−1943)の絵本シリーズ(全24巻)をもとに、舞台を現代に置き換え、3DCGアニメによるウサギのピーターをはじめとする動物たちと、実写を合成したコメディ映画である。今回は本作と前作から、ストーリーのカギとなる食べ物を紹介していく。

パイにされた父親とブラックベリーの波紋

「ピーターラビット」の舞台はイギリスの湖水地方(Lake District)に位置するウィンダミア(Windermere)。ここでピーター(声:ジェームズ・コーデン)は三つ子の妹フロプシー(声:マーゴット・ロビー)、モプシー(声:エリザベス・デビッキ)、カトンテール(声:デイジー・リドリー)と従兄のベンジャミン(声:コリン・ムーディ)と共に暮らしている。

 ピーターの両親はすでに亡くなっていて、ことに父親の最後は、近隣に住む老マクレガー(サム・ニール)の畑に食べ物を盗りに侵入したところを捕まり、ミートパイにされるという悲惨なものであったことが2Dアニメによる回想シーンで語られる。この父親がパイにされるという描写は原作(「ピーターラビットのおはなし」)にもあって、パイ=親が子供に「してはいけないこと」を教える際のパワーワードとして、読む者に強い印象を与える。本作では老マクレガーの隣に住む画家で、何かにつけてピーターたちを守ってくれる母親的存在のビア(ネーミングの由来は原作者から、演:ローズ・バーン)が、老マクレガーの畑に行ってはいけないとピーターたちにさとしている。

 ところがわんぱくなピーターは、そんな言いつけなど意に返さずに老マクレガーの畑に侵入。好物のニンジンをはじめとする野菜を失敬していく。この老マクレガーの畑は、ニンジン以外にレタス、ラディッシュ、チコリー、トマト、サヤエンドウ、ジャガイモ、カラーピーマン、ナス、キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、カリフラワー、ウリ類、ベリー類、スイートコーン、セロリ等、多種多彩な野菜を栽培していて、野生動物にとっては魅力的な餌場なのだ。ただし、種の小袋が確認できることや、作付が塀をめぐらした家の周囲に限られていることから、自給自足を前提とした家庭菜園であることが察せられ、少ない収穫物を奪われる老マクレガーの怒りも理解できる。

 ピーターは調子に乗り過ぎて老マクレガーに見つかり、危うく父親同様にパイにされかかるが、食べ過ぎ、飲み過ぎ、糖分の過剰摂取、不衛生等、長年の悪しき生活習慣がたたったのか、老マクレガーは突然心臓発作を起こし、そのまま帰らぬ人となってしまう。かくして主なき老マクレガーの畑は動物たちにとって食べ放題の楽園となるが、老マクレガーの大甥で相続人、ロンドン育ちのトーマス(ドーナル・グリーソン)が到着したことで、夢のようなひと時はあっという間に終わりを告げる。

 潔癖症のトーマスは家の封鎖を厳重にして、ピーターたち野生動物を排除にかかる。それにも増してピーターが許せなかったのは、トーマスがビアと親密な関係になったこと。ピーターは妹たちやベンジャミンを巻き込んで、ありとあらゆるいたずらをトーマスに仕掛けていく。

 ところが、前作中、ここが問題を招くことになる。トーマスのブラックベリーアレルギーを利用してパチンコでトーマスの口にブラックベリーを放り込むというシーンである。食物アレルギーに苦しむ子を持つ親たちやアレルギーの問題に取り組む団体から抗議の声が上がり、製作会社のプロデューサーが謝罪するという事態となった(※)。

 なお、それ以外にもピーターとトーマスの「トムとジェリー」的な喧嘩は少々やりすぎで、原作のイメージとはかけ離れていると感じた。

※BBC NEWS “Peter Rabbit film producers apologise over allergy scene”.
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-43027764

トーマスのトマトと「ねこまきだんご」とドライフルーツ

※注意!! 以下の記述は公式サイト、予告編、配給公式が公開している動画などからわかる内容にとどめていますが、本編観覧前に内容を知りたくないかたはご注意ください。

 筆者以外にも原作のイメージとは違うという感想を持った人はいたようで、続編ではそうした批判に応える意味なのか、「ピーターラビット」のオリジナルな世界観を商業的な成功のために改変しようとする出版社が舞台の一つとされ、やや自虐的な内容となっている。悪ノリしたピーターが重大な結果をもたらし、反省してリカバリーに走るというストーリーの大まかな流れは前作と同じである。

「ピーターラビット2 バーナバスの誘惑」より。アナグマ・トミーからトーマスのトマトを守ったピーターだったが、逆に盗ろうとしていたと誤解されてしまう。
「ピーターラビット2 バーナバスの誘惑」より。アナグマ・トミーからトーマスのトマトを守ったピーターだったが、逆に盗ろうとしていたと誤解されてしまう。

 ピーターはトーマスと和解したが、まだ完全には信頼されていないと感じていた。一方、ビアと結婚したトーマスは、ピーターら動物たちと家族になろうと努力していた。その試みの象徴が、マクレガーが遺した畑でのトマト作りで、作物を育てるプロセスを家族作りになぞらえていると言える。

 ある日のこと、アナグマ・トミー(声:サム・ニール)がトーマスが育てたトマトを盗ろうとするが、ピーターが阻止してトマトを回収する。ところが、ピーターがトマトを畑に戻しているところをトーマスが目撃し、ピーターがトマトを盗ろうとしていたと誤解して叱責するということが起こる。善意を踏みにじられたピーターの不信感は募っていく。

 そんな折、ビアが自主出版したピーターラビットの絵本が中都市グロースター(Gloucester)のバジル・ジョーンズ出版社の社長ナイジェル(デイヴィッド・オイェロウォ)の目に留まり、商業出版のオファーが舞い込んでくる。ビアがトーマスとピーターたちを連れて打ち合わせのためにグロースターに向かう列車の中で、トーマスはグロースターのファーマーズマーケットの告知チラシを目にし、トマト出品を決意する。一方、バジル・ジョーンズ出版社でピーターの悪役ぶりをもっと強調すべきだというナイジェルの提案を聞き、ピーターの悪役イメージを強調した街頭看板を目にしたピーターは不機嫌になって街をさまよう。そんな中、ピーターの父親の知り合いだと名乗るバーナバス(声:レニー・ジェームズ)と出会い、悪の道へと導かれていく。

 バーナバスは原作にないオリジナルキャラクターだが、その仲間でネズミのサムエル(声:ルパート・ディガス)、子ネコのトム(声:デイモン・ヘリマン)、トムの妹ミトン(声:ヘイリー・アトウェル)らは原作(「ひげのサムエルのおはなし」)からのキャラクターである。ただし、その性格は原作とは全く異なっている。原作ではサムエルがトムを「ねこまきだんご」にして食べようとするという描写がある。ネズミがネコを食べるという逆転現象が興味深い「ねこまきだんご」(ローリー・ポーリー・プディング/roly-poly pudding)は、小麦粉と脂を練った生地にジャムを塗り、ロールケーキ状に丸めて焼き上げたもので、実際にはネコの肉は使わないお菓子である。

 本作にはこの他にも「グロースターの仕たて屋」 「ジンジャーとピクルズやのおはなし」 「モペットちゃんのおはなし」 「こぶたのピグリン・ブランドのおはなし」等の引用がそこかしこに散りばめられていて、原作への配慮が感じられる。

 バーナバスの仕事場は「腹黒い農家たちが、俺らが食えないように野菜を刈り取り、一か所に集めて監視する場所」と動物目線で語るファーマーズマーケット。アジア系、アフリカ系等多彩な人種が集うマーケットで、日系のサラ・ナカモト(チカ・ヤスムラ)の屋台のドライフルーツが一味のターゲットである。ドライフルーツは日持ちし、元の果物の八分の一の大きさで栄養価は同じといいことづくめで、バーナバスは一生食うに困らない量を強奪しようと周到な計画を練っていた。そしてそこにピーターらウィンダミアの動物たちと、トマトを初めて売りにきたトーマスが絡んで何が起こるのかは、実際に映画をご覧いただきたい。

残念だったジェリービーンズ

 ビアとトーマスとピーターたちが向かう列車の中には、ナイジェルからのプレゼントが用意されていた。その一つ、ジェリービーンズに気づいたカトンテール(声:エイミー・ホーン)が一口食べると止まらなくなり、砂糖の味を知った野生のウサギが驚くべきパワーを発揮するという描写がある。その代わり活動限界も短いのだが。ジェリービーンズはファーマーズマーケットの場面にも出てくるが、本筋のドライフルーツ強奪に絡むことはなかった。面白い設定だっただけに残念なところである。


【ピーターラビット2 バーナバスの誘惑】

公式サイト
https://www.peterrabbit-movie.jp/
作品基本データ
原題:PETER RABBIT 2: THE RUNAWAY
製作国:アメリカ、インド、オーストラリア
製作年:2020年
公開年月日:2021年6月25日
上映時間:93分
製作会社:アニマル・ロジック エンターテインメント、オリーブ・ブリッジ エンターテインメント
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ウィル・グラック
脚本:ウィル・グラック、パトリック・バーリー
製作総指揮:ジョナサン・フルジンスキ、ジェイソン・ラスト、エマ・トッピング、トーマス・メリントン
製作:ウィル・グラック、ザレー・ナルバンディアン、キャサリン・ビショップ、ジョディ・ヒルデブランド
キャラクター創造:ビアトリクス・ポター
撮影:ピーター・メンジース・ジュニア
美術:ロジャー・フォード
音楽:ドミニク・ルイス
音楽監修:ベンデ・クローリー
編集:マット・ヴィラ
衣裳デザイン:リジー・ガーディナー
キャスティング:ニッキ・バレット
キャスト
トーマス・マグレガー:ドーナル・グリーソン
ビア:ローズ・バーン
ナイジェル・バジル・ジョーンズ:デイヴィッド・オイェロウォ
サラ・ナカモト:チカ・ヤスムラ
ピーター:ジェームズ・コーデン(声)
フロプシー:マーゴット・ロビー(声)
モプシー:エリザベス・デビッキ(声)
カトンテール:エイミー・ホーン(声)
ベンジャミン:コリン・ムーディ(声)
アナグマ・トミー:サム・ニール(声)
バーナバス:レニー・ジェームズ(声)
サムエル:ルパート・ディガス(声)
トム:デイモン・ヘリマン(声)
ミトン:ヘイリー・アトウェル(声)

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。