「ムーンライト」のキューバ料理

ブラックムービーの食べ物(3)

「ブラック・ムービー」とその中に登場する食べ物について取り上げていくシリーズの最終回は、2010年代ブラック・ムービーの代表作と、劇中に登場する料理について述べていく。

ブラック・ムービーの過去・現在・未来

 ブラック・ムービーはサイレント期の1910年代以来アメリカ社会における黒人の状況とリンクし、紆余曲折を経ながら発展を続けてきた。前回「黒いジャガー」に代表されるブラックスプロイテーション映画、前々回「ドゥ・ザ・ライト・シング」に代表されるスパイク・リーの作品群もその中で生まれてきたものであるが、近年流れが変わった。

 2016年製作のバリー・ジェンキンズ監督作品「ムーンライト」が第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞(フアン役のマハーシャラ・アリ)、脚色賞の主要三部門で受賞した。また、2018年製作のマーベル映画「ブラックパンサー」(ライアン・クーグラー監督)が大ヒットを記録した。これらは、今やブラック・ムービーは黒人だけではなく人種を問わず鑑賞されるものになった証左と言え、この流れは今後も続くものと思われる。

 これは筆者の抱く見果てぬ夢ではあるが、最終的にアメリカ社会が黒人も白人もない“カフェオーレ社会”になれば、ブラック・ムービーはその役割を終えることだろう。

料理の描写で心を表現する

「ムーンライト」は、フロリダ州マイアミの貧困地区を舞台に、シャロンという黒人男性の少年期(アレックス・ヒバート)、青年期(アシュトン・サンダース)、成年期(トレヴァンテ・ローズ)の三部構成のドラマである。黒人でゲイということで二重の差別を受け、麻薬中毒の母親ポーラ(ナオミ・ハリス)からはネグレクトされて自分の殻に閉じこもったシャロン。その彼が、キューバ出身の麻薬ディーラー、フアンとその恋人テレサ(ジャネール・モネイ)、唯一の親友ケヴィンと交流する中で心を開いていく。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

 少年時代、同級生に “faggot”(男性の同性愛者に対する蔑称。女性的しぐさのニュアンス)と呼ばれいじめられていたシャロンを助けたのがフアンだった。フアンは下を向いて何も話そうとしないシャロンをレストランに連れて行き、さらにテレサの家で手料理を食べさせることで少しずつ距離を縮めていく。それ以来、父親がおらず母親からも見放されているシャロンにとって、フアンとテレサは親代わりのような存在になっていく。

 また、同級生の中で唯一シャロンを”faggot”呼ばわりしなかったケヴィンはシャロンの親友になった。そして思春期を迎えハイスクールに通う頃になると、その関係は親友の枠を越え初恋とも言えるものに変わっていったのだが、ある事件から二人の関係は壊れ、しかもシャロンは少年院に送られる。

ケヴィンがシャロンに振舞ったシェフおすすめのキューバ料理。
ケヴィンがシャロンに振舞ったシェフおすすめのキューバ料理。

 月日は流れ、少年院を出たシャロンはアトランタに移り住み、フアンと同じような麻薬ディーラーになって生計を立てていた。そんなある日、事件の絡みで疎遠になっていたケヴィンから電話があり、彼の勤めているキューバ料理店に誘われる。

 今は老人介護施設で暮らしている母親に会いにマイアミに帰郷したシャロンは、キューバ料理店を訪れ、ケヴィンと再会する。ケヴィンがシャロンのために作った「シェフおすすめ料理」は、ライム風味の鶏むね肉グリル、ブラックビーンズ、ローズマリーのリゾットをひと皿にまとめたもので、その一つひとつを丁寧に盛り付けていく手元ショットは、シャロンとの過去のわだかまりを解きたいというケヴィンの心情が、顔の表情を見ずとも伝わってくる秀逸なものである。

「A24映画」という新ジャンル

「ムーンライト」の製作会社、A24は2012年設立。「ルーム」(2015、第88回アカデミー主演女優賞、本連載第125回参照)、「エクス・マキナ」(2015、第88回アカデミー視覚効果賞)、「AMY エイミー」(2015、第88回アカデミー長編ドキュメンタリー賞)、最近では「へレディタリー/継承」(2018)、「mid90s ミッドナインティーズ」(2018)、「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」(2019)、「ミッドサマー」(2019)、「フェアウェル」(2019)、「SKIN/スキン」(2019)、「ディック・ロングはなぜ死んだのか」(2019)、「WAVES/ウェイブス」(2019)等、珠玉の作品揃いでいま一番映画ファンの注目を集めている新進インディベンデント系エンターテイメント企業である(「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」と「WAVES/ウェイブス」はブラック・ムービー)。「ワーナー活劇」「MGMミュージカル」「東映やくざ映画」「ATG映画」「日活ロマンポルノ」「角川映画」等と同様に、「A24映画」というジャンルも映画史に記憶されることだろう。


【ムーンライト】

「ムーンライト」(2016)
作品基本データ
原題:MOONLIGHT
製作国:アメリカ
製作年:2016年
公開年月日:2017年3月31日
上映時間:111分
製作会社:A24、プランBエンターテインメント、Pastel Productions
配給:ファントム・フィルム
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督・脚本:バリー・ジェンキンズ
原案:タレル・アルビン・マクレイニー
エグゼクティブプロデューサー:ブラッド・ピット、サラ・エスバーグ、タレル・アルビン・マクレイニー
プロデューサー:デデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、アデル・ロマンスキ
撮影:ジェームズ・ラクストン
美術:ハンナ・ビークラー
音楽:ニコラス・ブリテル
編集:ジョイ・マクミロン、ナット・サンダース
キャスト
リトル(少年期のシャロン):アレックス・ヒバート
シャロン(青年期):アシュトン・サンダース
ブラック(成年期のシャロン):トレヴァンテ・ローズ
ケヴィン(少年期):ジェイデン・パイナー
ケヴィン(青年期):ジャレル・ジェローム
ケヴィン(成年期):アンドレ・ホランド
ポーラ:ナオミ・ハリス
フアン:マハーシャラ・アリ
テレサ:ジャネール・モネイ
テレル:パトリック・デシル

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。