往年の名テニス選手たちと食

スポーツ映画の食(3)

2020年の東京オリンピック開催にちなみ、スポーツを題材とする映画とその中に登場する食べ物にスポットを当てるシリーズの3回目は、男女共に日本人選手の活躍が期待されるテニス。海外の名選手の伝記映画2本を取り上げる。

「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」のたばこ対キャンディーバー

 2017年製作のジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス監督作品「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」は、1960年代から1980年代にかけて活躍したアメリカの女子テニス選手、ビリー・ジーン・キング(日本では現役当時「キング夫人」と呼ばれた)の実話に基づいた作品である。

 ビリー・ジーンは、キャリアを通したグランドスラム(全米、全英、全仏、全豪の四大大会での優勝)の達成等の好成績を挙げるだけでなく、当時賞金が男子選手の8分の1だった女子選手の地位向上を目指し、元女子テニス選手で雑誌「ワールド・テニス」を創刊したジャーナリスト、グラディス・ヘルドマン(サラ・シルヴァーマン)や8人の現役女子選手らと共にWTA(女子テニス協会)を設立する等女子テニスの歴史に大きな功績を残した。

「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(Battle of the Sexes=性差を超えた戦い)とは、1973年9月20日テキサス州ヒューストン・アストロドームで行われたビリー・ジーン対ボビー・リッグスの男女対抗試合を指す。

 ビリー・ジーンを演じるのは「ラ・ラ・ランド」(本連載第152回参照)のエマ・ストーン。対するボビー・リッグスを演じるスティーブ・カレルは、本連載では第140回=ごはん映画ベスト10 2016年 洋画編で取り上げた「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(本連載参照)に出演している。

 作品はこの試合をクライマックスに、ビリー・ジーンの美容師で同性の恋人、マリリン・バーネット(アンドレア・ライズブロー)との関係といったLGBTの問題も織り交ぜて描いている。

 1960年代後半から1970年代前半にかけてのアメリカでは、ベトナム反戦運動やアフリカ系アメリカ人公民権運動と連動した市民運動として、男女同権を主張するウーマンリブ運動(Women’s Liberation)が盛んであった。こうした時流に乗ってこの男女対抗試合は世間の耳目を集めることになったが、仕掛けたのは“男性至上主義のブタ”を自称するボビーの方だった。

 ボビーは1930年代から1940年代に活躍した男子テニス選手だったが、引退後にギャンブル依存症となって多額の借金を抱え、妻プリシラ(エリザベス・シュー)との夫婦仲も危機に瀕していた。そんなボビーにとって、この試合は人生の一発逆転を賭けた大博打だったのだ。

 だが、ボビーの魂胆を見透かしていたビリー・ジーンは彼の挑発を無視していた。しかし、それ以前の試合でビリー・ジーンに勝って女子のトップに立っていたマーガレット・コート(ジェシカ・マクナミー)がボビーに破れるのを目の当たりにし、男女の性別に優劣がないことを証明するためにボビーの挑戦を受けざるを得なくなる。

「シュガーダディ」のスポンサードを受けたボビー・リッグス(左)は、黄色と赤のパッケージカラーに身を包んでビリー・ジーン・キングとの性差を超えた戦いに挑むが……。
「シュガーダディ」のスポンサードを受けたボビー・リッグス(左)は、黄色と赤のパッケージカラーに身を包んでビリー・ジーン・キングとの性差を超えた戦いに挑むが……。

 こうしたビリー・ジーンやボビーの活動を資金面で支えたのが、タバコや菓子のスポンサー企業である。全米テニス協会から独立し、ビリー・ジーンたちが始めた女子だけのトーナメントは、グラディスの交渉の結果「マールボロ」や「ラーク」といったブランドを持つ世界最大のタバコ企業フィリップモリス社が冠スポンサーに付いて「バージニア・スリム選手権」となり、後のWTA設立につながった。

 本作では、契約更新のためにグラディスが現役女子選手たちにメディアの前で「バージニア・スリム」(現「バージニア・エス」)を吸うように求めるシーンがある。

 一方、借金返済のためにどうしても金が必要なボビーは、「練習しなくても体力がつく」という触れ込みの怪しげな健康食品のテスターになったりして自らの首を絞めていく。アストロドームに3万人を集めTV中継も行われた“バトル・オブ・ザ・セクシーズ”では、当時はナビスコ社から販売されていたキャラメル味キャンディーバーのロングセラー「シュガーダディ」のパッケージを模した黄色と赤のジャンパー姿で登場する。試合中も着用し、露出度を上げて広告料金の割り増しを稼ごうとするが、それが仇となって動きが鈍くなり、脱がざるを得なくなるという道化を演じている。

「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」のエスプレッソとシナモンロール

 ヤヌス・メッツ監督作品「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」(2017)の主人公は、1976年に20歳の若さでウィンブルドン選手権(全英オープン)を制して以来4連覇中のスウェーデン人“氷の男”ビヨン・ボルグと、1979年にやはり20歳で全米オープンを制した新進気鋭のアメリカ人“悪童”ジョン・マッケンロー。この両者が1980年のウィンブルドンの決勝で演じた3時間55分に及ぶ壮絶な死闘をクライマックスに、2人のそれまでの人生を並行して描いた作品である。

 ウィンブルドン5連覇のかかったボルグ(スベリル・グドナソン)は、孤高の存在ゆえの孤独にさいなまれ、常にメディアやマスコミに追いかけられながら、皆自分が負けるところを見たがっているのではないかというネガティブ思考に陥っていた。あるとき、追っかけから逃れるために入ったカフェでエスプレッソを注文するが、財布を忘れてきたことに気付く。店員に後払いでは駄目かと交渉するが、あいにく店員はボルグのことを知らず、働いて返すように要求される。かくして“氷の男”はテーブルや椅子運びを手伝ってエスプレッソ代を支払う羽目になるのだが、この作品中で唯一、ボルグのリラックスした表情が見られるシーンである。

 マッケンロー(シャイア・ラブーフ)が“悪童”と呼ばれるのは、審判の判定に抗議して悪態をついたり、ヤジを飛ばす観客に言い返したりするプレースタイルからだが、実はボルグも少年時代はマッケンローのようなキレやすい性格だった。そんなボルグの才能を見出して矯正したのがデビスカップのスウェーデン代表監督で後にボルグのコーチとなったレナート・ベルゲリン(ステラン・スカルスガルド)。

 トレーニングセンターの食堂でシナモンロールを食べたそうな目で見ながらお金がないのか手を出さない若き日のボルグ(ビヨンの息子レオ・ボルグが演じている)に、ベルゲリンが「食うか」とシナモンロールを差し出すシーンは、後にベルゲリンが代表チームに入れる代わりに絶対にキレないことをボルグに約束させるシーンが来るだけに、2人が距離を縮めるきっかけとなっている。


【バトル・オブ・ザ・セクシーズ】

「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(2017)
公式サイト
http://www.foxmovies-jp.com/battleofthesexes/
作品基本データ
原題:BATTLE OF THE SEXES
製作国:アメリカ
製作年:2017年
公開年月日:2018年7月6日
上映時間:122分
製作会社:デシベル・フィルムズ、クラウド・エイト・フィルムズ
配給:20世紀フォックス映画
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督:ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス
脚本:サイモン・ボーフォイ
製作:クリスチャン・コルソン、ダニー・ボイル、ロバート・グラフ
撮影:リヌス・サンドグレン
プロダクションデザイナー:ジュディ・ベッカー
音楽:ニコラス・ブリテル
衣装デザイナー:メアリー・ゾフレス
キャスト
ビリー・ジーン・キング:エマ・ストーン
ボビー・リッグス:スティーブ・カレル
グラディス・ヘルドマン:サラ・シルヴァーマン
マリリン・バーネット:アンドレア・ライズブロー
ジャック・クレイマー:ビル・プルマン
テッド・ティンリング:アラン・カミング
プリシラ・リッグス:エリザベス・シュー
ラリー・キング:オースティン・ストウェル
マーガレット・コート:ジェシカ・マクナミー

(参考文献:KINENOTE)


【ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男】

「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」(2017)
公式サイト
https://gaga.ne.jp/borg-mcenroe/
作品基本データ
原題:BORG/McENROE
製作国:スウェーデン、デンマーク、フィンランド
製作年:2017年
公開年月日:2018年8月31日
上映時間:107分
製作会社:SF Studios、SF Studios
配給:ギャガ
カラー/サイズ:カラー/シネスコ
スタッフ
監督:ヤヌス・メッツ
脚本:ロンニ・サンダール
製作:ヨーン・ノアステット、フレドリック・ウイクストロム
撮影:ニルス・タストゥム
キャスト
ビヨン・ボルグ:スベリル・グドナソン
ジョン・マッケンロー:シャイア・ラブーフ
レナート・ベルゲリン:ステラン・スカルスガルド
マリアナ・シミオネスク:ツヴァ・ノヴォトニー
ビヨン・ボルグ(9~13歳):レオ・ボルグ
ピーター・フレミング:スコット・アーサー
ジョン・マッケンロー・シニア:イアン・ブラックマン

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。