映画に描かれた日本のお土産

欧米の土産が工芸品などの非食品が主であるのに対し、日本の土産はまんじゅうやようかんといった菓子類など、その土地の名産と称する食べ物の類が多いのが特徴だという(鈴木勇一郎〈2013〉『おみやげと鉄道 名物で語る日本近代史』講談社)。


『おみやげと鉄道 名物で語る日本近代史』(鈴木勇一郎著)

 なるほど、日本各地で売られている土産といえば、北海道の「バター飴」、仙台の「笹かまぼこ」、東京の「雷おこし」、静岡の「安倍川餅」、京都の「八ツ橋」、岡山の「吉備団子」、松山の「タルト」、福岡の「辛子明太子」、沖縄の「ちんすこう」などなど、食べ物が真っ先に浮かんでくる。

 そこで今回は日本映画の数々のシーンから日本の土産文化について検証していこうと思う。

小津作品の“土産と風呂敷”

 日本映画に出てくる土産を語るには、やはり小津安二郎監督の作品を外すわけにはいかない。本連載に度々登場(第3回第177回)する名作「麦秋」(1951)では以下のように多くの土産が登場する。

「麦秋」より。實は父、康一が持ち帰った風呂敷包みを鉄道模型のレールと勘違いして大喜びするが……。
「麦秋」より。實は父、康一が持ち帰った風呂敷包みを鉄道模型のレールと勘違いして大喜びするが……。
  • 丸の内の貿易会社に勤めるOL、間宮紀子(原節子)が、2度にわたり買ってくる千疋屋のショートケーキ。
  • 紀子の兄で東京の大学病院に勤める医師、康一(笠智衆)が買ってきた食パンを康一の長男、實(村瀬禪)がかねてよりねだっていた鉄道模型のレールと勘違いし、駄々をこねて父に叱られ、弟の勇(城澤勇夫)を連れて家出する事件。
  • 康一の同僚で戦死した弟、省二(紀子の兄)の親友でもある近所に住む矢部謙吉(二本柳寛)の母、たみ(杉村春子)が、紀子の身辺調査に興信所が来たことを知らせに間宮家を訪れた際に持参した「お口に合いますかどうか」という土浦の土産。
  • 紀子の女学校時代からの親友で築地の料亭の娘、アヤ(淡島千景)が、鎌倉の間宮家に遊びに来た際に持参した「つまらないもの」。
  • 秋田に転勤することになった謙吉の家を訪ねた紀子がたみに手渡す餞別(この後有名なアンパンのシーンになる)。

 こうして列挙してみると、ドラマを動かす原動力となっていると言っても過言ではないだろう。

 そしてそれらは、千疋屋のショートケーキを除いて、すべてが風呂敷に包まれ、他人への土産は謙遜の言葉と共に渡されるというのも日本ならではの文化だろう。

 小津初のカラー作品である「彼岸花」(1958)にも、風呂敷の土産が2回登場する。東京の商社の常務、平山渉(佐分利信)の行きつけの京都の旅館の娘、佐々木幸子(山本富士子)と、幸子の母、初(浪花千栄子)のそれぞれが、平山家を訪れるシーンである。

 1950年に第1回ミス日本に輝いた大映の看板女優である山本が、艶やかな着物に身を包み、風呂敷包みを持った姿は、現在もお中元・お歳暮シーズンに見られるビジュアルイメージの典型である。一方、オロナイン軟膏のホーロー看板広告で見せる笑顔が印象的な浪花千栄子の方は、土産を平山家のお手伝い、富沢(長岡輝子)に手渡す際、「あんたやおへんで」と言わずもがなの念押しをする辺りが、抜け目のない性格をよく表している。

 これらは初が聖路加病院の人間ドックにかかった前後のシーンであるが、その初の床のそばに置かれたお見舞いは、特徴的な斜めの縞模様の包装紙からユーハイムのバウムクーヘンと推察される。小津は東宝に招かれて撮った「小早川家の秋」(1961)でもユーハイムの包みを登場させている。小早川家の長男の未亡人で御堂筋の画廊で働く秋子(原節子)が、縁談の相談で訪ねてきた義妹の紀子(司葉子)への土産として持参するのである。千疋屋のショートケーキと並んで、日本映画界きってのグルメと言われた小津の趣味が垣間見えるところだ。

「男はつらいよ」と「トラック野郎」の旅の土産

 小津が家族や身近な人への土産を描いたのに対し、旅の土産を描いたものとして際立つのは山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズ(1969~1995)だろう。シリーズ第16作「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」(1975、本連載第30回参照)で、寅さん(渥美清)と一緒に旅をしたサラリーマンの兵頭(船越英二)が、旅の御礼にと持ってきたマスクメロンを食べ損なった寅さんがスネて、それをたしなめたリリー(浅丘ルリ子)と喧嘩になる“メロン騒動”については前に述べたので、今回はシリーズ第24作「男はつらいよ 寅次郎春の夢」(1979)の“ブドウ騒動”をご紹介する。

 季節は秋。とらやではもらいもののブドウを2階の寅さんの部屋に広げていた。そこに寅さんがふらりと旅から帰ってくる。ところがその寅さんは土産にと買ったブドウの籠を手に提げているのだ。それを見たおいちゃん(下絛正巳)、おばちゃん(三崎千恵子)、さくら(倍賞千恵子)らは、寅さんが気を悪くしないように2階に上げないように誘導しようとするのだが、寅さんは結局2階に上がってしまう。そして、自分の土産とは比べ物にならないほど大量のブドウを見て不機嫌になって下りてくる。さらに間の悪いことに、隣の印刷工場に勤めるさくらの夫、博(前田吟)が、社長(太宰久雄)からのおすそ分けだと言って箱詰めのブドウを手いっぱいに抱えて持って来る。そしてよせばいいのに、テーブルに置いてあった寅さんの土産を見て「なんだ、ここにもブドウがあるじゃないか、これ酸っぱくてまずいやつだぞ。誰が買ってきたんだ」などと言ったたものだから、寅さんはさらに不機嫌になって……という具合である。

 せっかく買ってきた土産以上のものがすでにそこにあり、皆の喜ぶ顔が見たいという期待が裏切られて寅さんがスネる場面はシリーズ中に他にもある。第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(1973、本連載第30回参照)のおもちゃのピアノや、第19作「男はつらいよ 寅次郎と殿様」(1977)の鯉のぼりなど(これらは食べ物ではないが)。いずれも、トラブルメーカーだが憎めない寅さんのキャラクターをよく表したシーン群である。

「男はつらいよ」シリーズのライバルだった「トラック野郎」シリーズ(1975~1979、本連載第80回参照)でも、主人公の一番星桃次郎(菅原文太)はなじみの女たちが待つ店「ふるさと」、相棒のやもめのジョナサン(愛川欽也)は愛妻と大勢の子供たちが待つ家に“荷抜き”の土産を毎回持ち帰る。それについてはリンクページに詳しくまとめてあるのでご覧いただきたい。


【麦秋】

「麦秋」(1951)
作品基本データ
製作国:日本
製作年:1951年
公開年月日:1951年10月3日
上映時間:124分
製作会社:松竹大船
配給:松竹
カラー/サイズ:モノクロ/スタンダ-ド(1:1.37)
スタッフ
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
製作:山本武
撮影:厚田雄春
美術:浜田辰雄
音楽:伊藤宣二
録音:妹尾芳三郎
照明:高下逸男
編集:濱村義康
衣裳:齋藤耐三
監督助手:山本浩三
撮影助手:川又昂
キャスト
間宮周吉:菅井一郎
間宮しげ:東山千栄子
間宮康一:笠智衆
間宮史子:三宅邦子
間宮紀子:原節子
間宮實:村瀬禪
間宮勇:城澤勇夫
間宮茂吉:高堂国典
田村アヤ:淡島千景
田村のぶ:高橋豊子
佐竹宗太郎:佐野周二
矢部謙吉:二本柳寛
矢部たみ:杉村春子
西脇宏三:宮内精二
安田高子:井川邦子
高梨マリ:志賀真津子
矢部光子:伊藤和代
西脇富子:山本多美
「多喜川」の女中:谷よしの
看護婦:寺田佳世子
病院の助手:長谷部朋香
會社事務員:山田英子
「田むら」の女中:田代芳子
冩眞屋:谷崎純

(参考文献:KINENOTE)


【彼岸花】

「彼岸花」(1958)
作品基本データ
製作国:日本
製作年:1958年
公開年月日:1958年9月7日
上映時間:118分
製作会社:松竹大船
配給:松竹
カラー/サイズ:カラー/スタンダード(1:1.37)
スタッフ
監督:小津安二郎
脚色:野田高梧、小津安二郎
原作:里見弴
製作:山内静夫
撮影:厚田雄春
美術:浜田辰雄
音楽:斎藤高順
録音:妹尾芳三郎
照明:青松明
編集:浜村義康
キャスト
平山渉:佐分利信
平山清子:田中絹代
平山節子:有馬稲子
平山久子:桑野みゆき
谷口正彦:佐田啓二
佐々木初:浪花千栄子
佐々木幸子:山本富士子
河合利彦:中村伸郎
河合伴子:清川晶子
堀江平之助:北竜二
三上周吉:笠智衆
三上文子:久我美子
近藤庄太郎:高橋貞二
女給アケミ:桜むつ子
長沼一郎:渡辺文雄
若松の女将:高橋とよ
曽我良造:十朱久雄
平山家の女中、富沢:長岡輝子
同窓生菅井:菅原通済
同窓生中西:江川宇禮雄
女中お松:橘一枝

(参考文献:KINENOTE)


【男はつらいよ 寅次郎春の夢】

「男はつらいよ 寅次郎春の夢」(1979)
作品基本データ
製作国:日本
製作年:1979年
公開年月日:1979年12月28日
上映時間:104分
製作会社:松竹
配給:松竹
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督・原作:山田洋次
脚本:山田洋次、レナード・シュレイダー、朝間義隆、栗山富夫
企画:高島幸夫、小林俊一
製作:島津清
撮影:高羽哲夫
美術:出川三男
音楽:山本直純
録音:中村寛、松本隆司
照明:青木好文
編集:石井巌
助監督:五十嵐敬司
スチール:長谷川宗平
キャスト
車寅次郎:渥美清
さくら:倍賞千恵子
車竜造:下絛正巳
車つね:三崎千恵子
諏訪博:前田吟
社長:太宰久雄
源公:佐藤蛾次郎
諏訪満男:中村はやと
御前様:笠智衆
高井圭子:香川京子
高井めぐみ:林寛子
マイケル・ジョーダン:ハーブ・エデルマン

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。