「トラック野郎」シリーズの食べもの

たらいそうめん
松下家名物の「たらいそうめん」。ジョナサンは鍋に入っためんつゆを直接めんにかけて食べる

本日(8月8日)より公開の「トランスフォーマー」シリーズ(2007~)の最新作「ロストエイジ」に登場するオートボットのリーダー、オプティマス・プライムは炎柄の塗装が施された大型トラックがロボットに変形するものだが、これを見ると思い出すのが日本の「トラック野郎」シリーズに登場する派手な電飾と絵で飾られたアートトラック(デコトラ)である。

「男はつらいよ」シリーズとの共通点と相違点

「トラック野郎」シリーズは1975年の「御意見無用」から1979年の「故郷特急便」まで10本が制作され、盆と正月の公開時期が重なる「男はつらいよ」シリーズ(第30回参照)のライバルとして観客動員数を競った。

 全国を旅する主人公が毎回マドンナと出会い失恋を経験するストーリーラインは共通しているが、葛飾柴又という東京の門前町がホームの寅さんが、落語にも通じる比較的上品な笑いを提供しているのに対し、本シリーズの主人公、「一番星」こと星桃次郎(菅原文太)と相棒の「やもめのジョナサン」こと松下金造(愛川欽也)のホームは工場労働者の街・川崎であり、ギャグもあまり詳しくは書けないがセックスや排泄といった“下ネタ”が中心の下品さが特徴である。寅さんのテキヤの口上も下品と言えなくもないが、トラック野郎のえげつないギャグと比べれば可愛いものだ。

荷抜きの土産と“たらいそうめん”

 さて、肝心の食べ物の話だが、全国を大型トラックで巡る一番星とジョナサンの運ぶ荷物は青果物や魚などが多く(表参照)、役得としてその一部を持ち帰る“荷抜き”が常態化している。違法行為であるが、運賃の一部だというのが彼らの言い分であり、映画では過積載やスピード違反、違法無線と並び、白ナンバー(運送会社の営業用トラックの緑ナンバーに対し、営業免許なしに運送を請け負う自家用トラック)のトラック野郎たちのネガティブな実態としてそのまま描かれている。

話数タイトル主な荷物
1トラック野郎 御意見無用スイカ
2トラック野郎 爆走一番星
3トラック野郎 望郷一番星メロン
4トラック野郎 天下御免ミカン
5トラック野郎 度胸一番星
6トラック野郎 男一匹桃次郎ザボン
7トラック野郎 突撃一番星カツオ
8トラック野郎 一番星北へ帰るリンゴ
9トラック野郎 熱風5000キロイチゴ
10トラック野郎 故郷特急便リンゴ
たらいそうめん
松下家名物の「たらいそうめん」。ジョナサンは鍋に入っためんつゆを直接めんにかけて食べる

 その荷抜きの土産を持って、本当の故郷はダムの底に沈んでしまった一番星は、なじみの女たちの待つ「ふるさと」という名の店へ。また、かつて「花巻の鬼台貫」(台貫は車重を量る秤で、過積載の取り締まりを江戸時代の代官にかけた洒落)と恐れられた元警察官で、パトカーの飲酒運転で懲戒免職になった過去を持つジョナサンは、愛妻の君江(春川ますみ)や同姓の某電器メーカーの創業者にあやかった名前を持つ息子たちと、皇族と同名の娘たちの待つマイホームへと戻っていく。四男三女(養子と新生児も加えて後に10人に拡大)の大家族であるジョナサンの家では、土産と一緒に金だらいに豪快に盛ったそうめんを食べるのが恒例となっていて、第3作「望郷一番星」(1976)と第9作「熱風5000キロ」(1979)で涼しげなそうめんを家族皆でつつき合うシーンは、裏の事情はともかく実に楽しそうに見えた。

ドライブインのレバニラ炒め

 もう一つ、忘れてはならないのがトラック野郎たちが航海(彼らはトラック輸送のことをこう呼ぶ)の途中で立ち寄る各地のドライブイン。一番星がマドンナと出会ったり、ライバルのトラック野郎とお約束の殴り合いの喧嘩を繰り広げる重要な舞台装置である。

 ちなみに第1作「御意見無用」でマドンナの洋子(中島ゆたか)が働いていた盛岡のドライブインの名前が、後に「男はつらいよ」シリーズの団子屋の屋号となる「くるまや」というのも何かの因縁であろう。

 このドライブインで一番星がいつも注文するのが「レバニラ炒めライス大盛り」。ロングドライブを強いられるトラック野郎たちのエネルギー源であるが、マドンナを前にすると食欲がないとか途端に上品ぶったりするのも一番星と寅さんの共通点と言える。

下品こそ、この世の花

 シリーズ全10作の監督を担当した鈴木則文氏は、藤純子(現:富司純子)主演の「緋牡丹博徒」シリーズ(1968~1972)の生みの親としても知られ、東映のプログラムピクチャー(併映作品)を中心とした娯楽映画を一環して手がけてきた職人監督である。

 マドンナに一目ぼれした桃次郎の主観ショットで彼女の背後に星がきらめくなど、公開当時としては珍しいマンガ的な表現が特徴で、「下品こそ、この世の花」の名言を残した。その鈴木監督が本年5月15日に享年80歳で亡くなられた。謹んでご冥福をお祈りする。


【トラック野郎 御意見無用】

「トラック野郎 御意見無用」(1975)
作品基本データ
製作国 :日本
製作年 :1975年
公開年月日 :27636
上映時間 :98分
製作会社 :東映東京
配給 :東映
カラー/サイズ :カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:鈴木則文
脚本:鈴木則文、澤井信一郎
企画:高村賢治
撮影:仲沢半次郎
美術:桑名忠之
音楽:木下忠司
録音:内田陽造
照明:山口利雄
編集:田中修
助監督:馬場昭格
スチール:藤井善男
キャスト
星桃次郎:菅原文太
松下金造:愛川欽也
倉加野洋子(マドンナ):中島ゆたか
万田千吉:湯原昌幸
松下君江:春川ますみ
竜崎勝(ライバル):佐藤允
竜崎京子:夏純子

【トラック野郎 望郷一番星】

「トラック野郎 望郷一番星」(1976)
作品基本データ
製作国 :日本
製作年 :1976年
公開年月日 :27979
上映時間 :100分
製作会社 :東映東京映画
配給 :東映
カラー/サイズ :カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:鈴木則文
脚本:野上龍雄、澤井信一郎
企画:天尾完次、高村賢治
撮影:飯村雅彦
美術:桑名忠之
音楽:木下忠司
録音:井上賢三
照明:小林芳雄
編集:鈴木宏始
助監督:澤井信一郎
スチール:遠藤努
キャスト
星桃次郎:菅原文太
松下金造:愛川欽也
三上亜希子(マドンナ):島田陽子
大野田太郎左衛門(ライバル):梅宮辰夫
春川ますみ :春川ますみ
浜村涼子:土田早苗
都はるみ :都はるみ
ハイセイコー :ハイセイコー

【トラック野郎 熱風5000キロ】

「トラック野郎 熱風5000キロ」(1979)
作品基本データ
製作国 :日本
製作年 :1979年
公開年月日 :29071
上映時間 :106分
製作会社 :東映東京
配給 :東映
カラー/サイズ :カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:鈴木則文
脚本:掛札昌裕、中島信昭、鈴木則文
企画:天尾完次、高村賢治
撮影:中島芳男
美術:桑名忠之
音楽:木下忠司
録音:林鉱一
照明:山口利雄
編集:鈴木宏始
助監督:新井清、森光正
スチル:加藤光男
キャスト
星桃次郎:菅原文太
松下金造:愛川欽也
西沢夏(マドンナ):小野みゆき
ノサップの勝(ライバル):地井武男
桶川玉三郎:せんだみつお
春川ますみ :春川ますみ
日疋重蔵:金田龍之介

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。