「ハニーデュークス」の歓び

ファンタジー映画のお菓子たち(2)

蛙チョコレート
生きている蛙チョコレート。有名な魔法使いのカードのおまけ付き

前回に続いて、ファンタジー映画のシリーズに登場するちょっと変わったお菓子たちを紹介する。今回は「ハリー・ポッター」シリーズである。

「ハリー・ポッターと賢者の石」の蛙チョコレート

蛙チョコレート
生きている蛙チョコレート。有名な魔法使いのカードのおまけ付き

「ハリー・ポッター」シリーズ(J・K・ローリング著、松岡佑子訳、静山社)は、イギリスの作家J・K・ローリングが1997~2007年にかけて著した全7巻からなる長編ファンタジー小説である。魔法使いの少年ハリー・ポッターのホグワーツ魔法魔術学校での学友や先生たちとの交流や、彼が赤ん坊の時に彼の両親を殺害した悪の魔法使いヴォルデモートとの戦いを描いて世界的にベストセラーになり、2001~2011年にかけて8本のシリーズ(最終巻の「ハリー・ポッターと死の秘宝」は前後編)として公開された映画も大ヒットした。

 映画版第1作「ハリー・ポッターと賢者の石」(2001)で10歳のハリー(ダニエル・ラドクリフ)は彼の母方の伯母であるペチュニア(フィオナ・ショウ)とその夫バーノン(チャード・グリフィス)、息子ダドリー(ハリー・メリング)のダーズリー家で抑圧された生活を送っていたが、11歳の誕生日を前に魔法魔術学校から入学許可証の手紙が届き、ロンドンの駅からホグワーツ行きの列車に乗り込む。そこで彼は後に親友となるロン(ルパート・グリント)とハーマイオニー(エマ・ワトソン)と初めて出会う。その場面、ハリーとロンが相席となったコンパートメントに車内販売が回ってくる。

 ダーズリー家では甘い物を買うお金なんか持たせてもらったことがなかった。でもいまはポケットの中で金貨や銀貨がジャラジャラ鳴っている。持ちきれないほどのマーズ・バー・チョコレートが買える……でも、チョコバーは売っていなかった。そのかわり、バーティー・ボッツの百味ビーンズだの、ドローブルの風船ガムだの、蛙チョコレート、かぼちゃパイ、大鍋ケーキ、杖形甘草あめ、それにハリーがいままで見たことがないような不思議なものがたくさんあった。一つも買いそこねたくない、とばかりにハリーはどれも少しずつ買って、おばさんに銀貨十一シックルと銅貨七クヌートを払った。

「ハリー・ポッターと賢者の石」J・K・ローリング著、松岡祐子訳、静山社)

 この時ハリーが持っていたお金は彼を迎えにきたハグリット(ロビー・コルトレーン)と入学準備のために行った銀行で受け取った両親の遺産である。また、マーズ・バー・チョコレート(※)はイギリスで最もポピュラーなチョコレートの一つだが、この列車はマグル(一般の人間)が乗ることのできない魔法使い専用列車のため、車内販売もそれ相応の品揃えになっている。

※「マーズ・チョコレート・バー」(米国マーズ社のチョコレート菓子)

 たとえば蛙チョコレートは、開封すると生きた蛙のチョコレートが跳び跳ねる仕掛けになっているのだが、有名な魔法使いや魔女が写真の中で動くカードがおまけで入っている。こうしたものが子供たちの収集欲を刺激する(ロンは500枚集めたという)あたりは、魔法使いの子供もマグルの子供たちも変わらないところである。

バーティー・ボッツの百味ビーンズ

 バーティー・ボッツの百味ビーンズは、その名の通り百通りの味を持つゼリービーンズのような形をした菓子である。食べようとしたハリーにロンが注意する。

「百味って、ほんとになんでもありなんだよ――そりゃ、普通のもあるよ。チョコレート味、ハッカ味、マーマレード味なんか。でも、ほうれんそう味とか、レバー味とか、臓物味なんてのがあるんだ。ジョージが言ってたけど、鼻くそ味に違いないのに当たったことがあるって」

(同)

百味ビーンズにはツキのないダンブルドア校長
百味ビーンズにはツキのないダンブルドア校長「なんと、耳くそ味だ!」

 これらは私たちが子供の頃駄菓子屋で目にしたいわゆるジョーク菓子の魔法使い版というべきもので、映画の終幕近く、ヴォルデモートとの最初の戦いの後失神して医務室に運ばれたハリーへのお見舞い品として再び登場する。彼の元を訪れたダンブルドア校長(リチャード・ハリス)は不幸にも若い頃ゲロの味に当たったことがあるという。今回タフィー味なら安全だろうと思ってつまんだビーンズも

「なんと、耳くそ味だ!」

「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」のハニーデュークス

 これらの魔法のお菓子を置いてある店がホグワーツの近く、ホグズミード村にある「ハニーデュークス」である。 映画版第3作「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(2004)でハリーがロンの双子の兄であるフレッドとジョージから貰った「忍びの地図」を使いホグワーツ城から抜け道を通ってこの店にいく場面がある。

 棚という棚には、噛んだらジュッと甘い汁の出そうな菓子がずらりと並んでいた。(中略)百味ビーンズが入った大きな樽、ロンの話していた炭酸浮上キャンディ、フィフィ・フィズビーの樽。別の壁一杯に「特殊効果」と書かれた菓子の棚がある。――「ドルーブル風船ガム」、ぼろぼろ崩れそうな、へんてこりんな「歯みがき糸楊枝型ミント」、豆粒のような「黒胡椒キャンディ」「ブルブル・マウス」「ヒキガエル型ペパーミント」、脆い「綿飴羽根ペン」「爆発ボンボン」――。

(同)

 この後、ハリーとヴォルデモートとの宿命の戦いは巻を重ねるにつれ魔法界を二分する抗争にエスカレートしていくのだが、時折挿入されるこのような魔法絡みのユーモラスなエピソードがそうした重苦しい展開を中和する役割を果たしており、この作品の魅力の一つにもなっている。

こぼれ話

 ハニーデュークスは米国ユニバーサル・オーランド・リゾート内に2010年に開園したテーマパーク「The Wizarding World of Harry Potter」に映画で使われたセットが再現されていて、これらのお菓子をお土産品として買い求めることができる(ネット通販もあり)。

 また、米国の菓子メーカーであるジェリー・ベリー社が「鼻くそ味」「ゲロ味」「耳くそ味」といったとんでもない風味まで再現した百味ビーンズを販売しているので(ネット通販もあり)、勇気のある方はどうぞ(???)。

友のレンバスとロクムの誘惑/ファンタジー映画のお菓子たち(1)
https://www.foodwatch.jp/strategy/screenfoods/29289

作品基本データ

【ハリー・ポッターと賢者の石】

「ハリー・ポッターと賢者の石」(2001)

原題:Harry Potter and the Sorcerer’s Stone
製作国 :アメリカ
製作年 :2001年
公開年月日 :2001年12月1日
上映時間 :152分
製作会社 :1492ピクチャーズ、ヘイデイ・フィルムズ、ワーナー・ブラザース映画
配給 :ワーナー・ブラザース映画
カラー/サイズ :カラー/シネマ・スコープ(12.35)
レイティング :一般映画
メディアタイプ :35mmフィルム
音声 :ドルビーSRD/DTS/SDDS

◆スタッフ
監督:クリス・コロンバス
原作:J・K・ローリング
脚本:スティーヴ・クローヴス
製作総指揮:クリス・コロンバス、マーク・ラドクリフ、マイケル・バーナサン、ダンカン・ヘンダーソン
製作:デイヴィド・ヘイマン
撮影:ジョン・シール
美術:スチュアート・クレイグ
音楽:ジョン・ウィリアムス
編集:リチャード・フランシス・ブルース
衣装デザイン:ジュディアナ・マコフスキー

◆キャスト
ハリー・ポッター:ダニエル・ラドクリフ
ロン・ウィーズリー:ルパート・グリント
ハーマイオニー・グレンジャー:エマ・ワトソン
ほとんど首無しニック:ジョン・クリース
ルビウス・ハグリッド:ロビー・コルトレーン
フィリウス・フリットウィック先生:ワーウィック・デイヴィス
バーノン・ダーズリー:リチャード・グリフィス
アルバス・ダンブルドア校長:リチャード・ハリス
クィリナス・クィレル先生:イアン・ハート
オリバンダー老人:ジョン・ハート
セブルス・スネイプ先生:アラン・リックマン
ペチュニア・ダーズリー:フィオナ・ショウ
ミネルバ・マクゴナガル先生:マギー・スミス
モリー・ウィーズリー:ジュリー・ウォルターズ
フーチ先生:ゾーイ・ワナメイカー
ドラコ・マルフォイ:トム・フェルトン
ネビル・ロングボトム:マシュー・ルイス
ダドリー・ダーズリー:ハリー・メリング
アーガス・フィルチ:デイヴィッド・ブラッドリー

【ハリー・ポッターとアズカバンの囚人】

「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(2004)

原題:Harry Potter and the Prisoner of Azkaban
製作国 :アメリカ
製作年 :2004年
公開年月日 :2004年6月26日
上映時間 :141分
製作会社 :ヘイディ・フィルムズ、1492ピクチャーズ、ワーナー・ブラザース映画
配給 :ワーナー・ブラザース映画
カラー/サイズ :カラー/シネマ・スコープ(12.35)
レイティング :一般映画
メディアタイプ :35mmフィルム
音声 :ドルビーSRD/DTS/SDDS

◆スタッフ
監督:アルフォンソ・キュアロン
原作:J・K ・ローリング
脚本:スティーヴ・クローヴス
製作総指揮:マーク・ラドクリフ、マイケル・バーナサン、カラム・マクドゥーガル
製作:デイヴィド・ヘイマン、クリス・コロンバス
撮影:マイケル・セラシン
美術:スチュアート・クレイグ
音楽:ジョン・ウィリアムス
編集:スティーヴ・ワイスバーグ
衣装デザイン:ジャイニー・テマイム

◆キャスト
ハリー・ポッター:ダニエル・ラドクリフ
ロン・ウィーズリー:ルパート・グリント
ハーマイオニー・グレンジャー:エマ・ワトソン
マダム・ロスメルタ:ジュリー・クリスティ
ルビウス・ハグリッド:ロビー・コルトレーン
アルバス・ダンブルドア校長:マイケル・ガンボン
シリウス・ブラック:ゲイリー・オールドマン
セブルス・スネイプ先生:アラン・リックマン
ミネルバ・マクゴナガル先生:マギー・スミス
リーマス・ルーピン先生:デイヴィッド・シューリス

(参考文献KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。