映画の中の卵「家族ゲーム」「ファニーゲーム」

「家族ゲーム」より(絵・筆者)
「家族ゲーム」より(絵・筆者)
「家族ゲーム」より(絵・筆者)
「家族ゲーム」より(絵・筆者)

食材編の第二回目は卵が登場する印象に残る映画として、タイトルに「ゲーム」を含む二つの作品を取り上げる。

「家族ゲーム」――トリックスターの叛乱

 2011年暮れの12月20日、映画監督の森田芳光氏が亡くなった。享年61歳。「家族ゲーム」(1983)は彼の出世作となった作品で、おそらく最高傑作と呼んでも異論を挟む向きは少ないであろう。

 東京の湾岸地区のマンションに住む沼田家はサラリーマンの父幸助(伊丹十三)、専業主婦の母千賀子(由紀さおり)、高校生の兄慎一(辻田順一)、中学三年の弟茂之(宮川一郎太)の四人家族である。ある日、友人からいじめに遭っていて受験勉強に身の入らない茂之のもとに家庭教師の吉本(松田優作)が船に乗ってやって来る。三流大学の7年生でちょっとホモっぽい吉本は、幸助の成績向上に応じて歩合を出すという申し出を受け、鉄拳制裁も交えながら茂之の成績を向上させていくというストーリーである。

 この家の主役はキッチンに鎮座した横長のテーブルと言っても過言ではない。沼田家の人々はこの食卓に向かい合って座らず、横一列になって視線の交わることのない食事を摂る。映画はこのテーブルで家族それぞれの食べ方、性癖をとらえたシーンで始まっているが、とりわけ特徴的なのが幸助の目玉焼きの食べ方である。黄身に直に口づけし、チュウチュウと音を立てながら吸う有様は、幼児的とも性的ともとれる。ある日黄身が焼け過ぎて固まった目玉焼きを出された幸助は妻に文句をたれる。

「こんなに固くちゃチュウチュウできないじゃないか」

「チュウチュウって……」

「知ってるだろ、俺がいつも黄身を吸うのが好きなこと」

「好きだったんですか……」

 何ともおかしいやり取りだが、この家族にいかにコミュニケーションが不足しているかを如実に示すシーンであり、その原因を作っているのが沼田家の“支配者”とも言えるテーブルなのである。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

 この状況に風穴を開けるのがトリックスターたる吉本である。茂之が志望校に合格したお祝いのパーティーで四人掛けのテーブルに吉本を中央に五人が狭苦しく並んだ様はあたかもレオナルド・ダ・ヴィンチの描いた「最後の晩餐」のようであり、若干うつむき加減の吉本はキリストのように映る。最初は和やかに進んでいた宴が慎一の進学問題で紛糾していくと、吉本はどさくさに紛れて料理をそこらじゅうにぶちまけ始め、それを幸助に咎められると得意の喧嘩で四人全員をノックアウトし、テーブルを豪快にひっくり返して船に乗って去ってゆく。

 吉本の去った後、キッチン一面に散らばった残骸を片付ける四人につかの間の家族の絆が戻ったかに見えたが、数日後のテーブルは相変わらず四脚の椅子が横一列に並んだままである。そして映画は、ヘリコプターの旋回音とともに最後の審判ともとれる重大災害を予感させて終わるのである。

「ファニーゲーム」――不快さの増幅装置

「ファニーゲームU.S.A.」より(絵・筆者)
「ファニーゲームU.S.A.」より(絵・筆者)

 もう一本の「ファニーゲーム」はオーストリアの巨匠ミヒャエル・ハネケによる1997年の作品である。2008年にはハネケ自身が舞台をアメリカに移し、ほとんど同じシナリオとカット割りで「ファニーゲームU.S.A.」としてリメイクしている。

 バカンスのため湖畔の別荘に来ていた親子3人と犬1匹の一家が別荘地荒らしの2人の青年に拉致され、徹底的にいたぶられる話である。タイトルの由来は青年の一人パウル(U.S.A.版はポール)のいう明日朝9時までに家族全員を殺すゲームのことであり、被害者からすれば残酷極まりないアンフェアなゲームと言える。

 このゲームの発端となるのが、もう一人の青年ペーターが隣人の使いを装って妻のアンナ(U.S.A.版はアン)に卵を4つ貰いたいと訪ねてくるシーンだ。アンナは卵を渡すがペーターは卵を落として割ってしまい、あと4つくれと迫った上に、アンナの携帯電話を水に落として使用不能にしてしまう。アンナが再び卵を渡すと、今度は犬に飛びかかられて割ってしまったとパウルを連れて戻ってくる。我慢が限界に達したアンナは二人を追い返そうと夫のゲオルグ(U.S.A.版はジョージ)を呼ぶが、パウルはゲオルグをわざと挑発して平手打ちをさせ、その反撃としてゴルフクラブでゲオルグの脚を砕き、一家を拉致する。この場面で、卵は叙々に増幅する不快さを象徴する小道具として醜い姿をさらしている。

 もう一カ所、ゲオルグがアンナの縛られている縄を解こうとすると、止めに入ったペーターが手にした卵のパックが落ちて中身が散乱するシーンがある。この青年たちは同じ手口で繰り返し近隣の別荘を襲っており、すべて計算ずくで行動している。つまり暴行で証拠を残すような真似はしないのだが、その奥底では欲望が渦巻いており、ここでの卵はその象徴として使われているのである。

 この映画の興味深い点は、青年たちが観客に観られていること、また現在進行中の事態がフィクションであることを意識して行動していることだ。たとえば、アンナが一瞬の隙をついて猟銃でペーターを撃ち殺すと、パウルはビデオのリモコンを使ってシーンをペーターが殺される前まで巻き戻してしまうのだ。そして観客の私たちも、ラストシーンでカメラ視線で笑いかけるパウルにこの上なく不快にさせられるのである。

作品基本データ

【家族ゲーム】

「家族ゲーム」(1983)

製作国:日本
製作年:1983年
公開年月日:1983/06/04
製作会社:にっかつ撮影所、NCP、ATG
配給:ATG
カラー/サイズ:カラー/スタンダード
上映時間:106分
◆スタッフ
監督・脚本:森田芳光
原作:本間洋平
企画:多賀祥介、山田耕大
製作:佐々木志郎、岡田裕、佐々木史朗
撮影:前田米造
美術:中澤克巳
録音:小野寺修
編集:川島章正
助監督:金子修介
スチール:竹内健二
◆キャスト
吉本勝:松田優作
沼田孝助:伊丹十三
沼田千賀子:由紀さおり
沼田茂之:宮川一朗太
沼田慎一:辻田順一
土屋裕:土井浩一郎
吉本の恋人:阿木燿子
近所の奥さん:戸川純
茂之の担任・体育:加藤善博
茂之の担任・国語:伊藤克信
茂之の担任・英語:松金よね子
慎一の担任・英語:鶴田忍
若い先生:清水健太郎

【ファニーゲーム】

「ファニーゲーム」(1997)

原題:FUNNY GAMES
製作国:オーストリア
製作年:1997年
公開年月日:2001/10/20
配給:シネカノン
カラー/サイズ:カラー/ビスタ
上映時間:103分
◆スタッフ
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
製作:ファイト・ハイドゥシュカ
撮影:ユルゲン・ユルゲス
音楽:G・F・ヘンデル、ピエトロ・マスカーニ、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト、ジョン・ゾーン
◆キャスト
アナ:スザンネ・ローター
ゲオルク:ウルリッヒ・ミューエ
ペーター:フランク・ギーリング
パウル:アルノ・フリッシュ

【ファニーゲームU.S.A】

「ファニーゲームU.S.A.」(2008)

原題:FUNNY GAMES U.S.
製作国:アメリカ、イギリス、フランス、オーストリア、ドイツ
製作年:2007年
公開年月日:2008/12/20
配給:東京テアトル
カラー/サイズ:カラー/ビスタ
上映時間:111分
◆スタッフ
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
エグゼクティブプロデューサー:ナオミ・ワッツ、フィリップ・エーグル、キャロル・シラー、ダグラス・スタイナー
製作:クリス・コーエン、ハミッシュ・マカルパイン
プロデューサー:ヘンガメ・パナヒ、クリスチャン・ボーテ、アンドロ・スタインボーン
共同プロデューサー:アンドレア・オキピンティ、レネ・バスティアン、リンダ・モラン、アダム・ブライトマン、ジョナサン・シュワルツ
撮影監督:ダリウス・コンジ
美術:ケヴィン・トンプソン
編集:モニカ・ヴィッリ
衣装(デザイン):デヴィッド・ロビンソン
◆キャスト
アンナ:ナオミ・ワッツ
ジョージ:ティム・ロス
ポール:マイケル・ピット
ペーター:ブラディ・コーベット
ジョージー:デヴォン・ギアハート

(参考文献:キネマ旬報映画データベース)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。