棚持ちがよければ、たくさん作っていいわけではない

目に見えないほど薄い衣を付けたbatter coating potato
目に見えないほど薄い衣を付けたbatter coating potato
目に見えないほど薄い衣を付けたbatter coating potato
目に見えないほど薄い衣を付けたbatter coating potato

冷凍フライドポテト製品の中には、バッタードポテト(battered potato)というカテゴリーがある。batteredは、素揚げではなく衣の付いたフライという意味だが、特に、仕上がりからは衣付きだとほとんど分からないbatter coating potatoがStealth Fries(Lamb Weston)といった名前で販売されていて、これが外食で重宝されている。目に見えないほど薄く均一にジャガイモでん粉をまぶしてあって、揚げると見た目は普通のフレンチフライと変わらない。それでいて、長時間クリスピーな食感を保つため、一般的なフレンチフライよりもホールディングタイムを長く設定できる。

 通常のフレンチフライのホールディングタイムは、7分前後だろう。batter coating potatoを使って、これを15分にできたら、ファストフード店などの出店の可能性は大きく広がる。フレンチフライを来店したお客に常に即座に出せる状態で営業するためには、通常のものの場合、理論上1時間当たり8回程度揚げてホールドしておく必要がある。battered coating potatoを使えば、これを4回に抑えることができる。これならば、ある7分間にお客が1人も来店しない立地に出店しても、賞味期限切れで廃棄するフレンチフライの量は抑えられるだろう。

 しかし、これは理屈の上での話であって、実際の営業では、何時頃にどれぐらいの来店がありそうかを予測しながら調理・保管を行う。この予測をうまく立てられることが、優秀なオペレーターということになる。

 そこで興味があるのは、batter coating potatoを使った場合、むしろフレンチフライの廃棄量が増えてしまう場合が、ときどき見られるのではないかということだ。batter coating potatoの欠点を言おうというのではない。この製品の長所を理解しないオペレーターや企業があれば、「来店予測が甘くても、損は通常のポテトの半分」と考えてしまい、正確な予測を怠るようになるケースがないだろうかということだ。そうなれば、ポテト製品のメーカーの意図に反して、店が過剰生産をひき起こし、その結果廃棄量を増やしてしまうことになる。

 自動車道路になぞらえて考えてみるといい。短かった自動車道路が、その後工事中だった区間が開通して倍の長さになったとする。車間距離が同じ場合、この自動車道路には以前の2倍の台数の車が走ることになる。だからといって、時間当たり2倍の車が流入していいということにはならない。自動車道路に入って来る車の台数が、出て行く車の台数を上回れば、当然渋滞は起こる。

 ホールディングタイムが長くなるということを、どうも自動車道路の出口が広がるとか、無限に収容できるパーキングエリアができるとかということと混同している人がいるではないか。というのは、例の「白い恋人」の石屋製菓(札幌)の社長(当時)が、包装フィルムについて説明した記事を読んで気付いたことだ。新しく採用した包装フィルムの効果に自信があり、6カ月は持つと判断して賞味期限を改ざんしたという。改ざん自体悪いことだが、そもそも品物が余ること自体に問題がある。

 包装フィルム、脱酸素剤、エチルアルコールを使った品質保持剤、そして各種の保存料など、食品の棚持ちを伸ばす技術は進んでいる。それによって、店舗に冷蔵設備などが整っていなくとも、そして遠方であろうとも、例えば生タイプの菓子などが提供できるようになった。駅や空港のみやげもの店には、かつては考えられなかったような商品が並ぶ。これ自体は歓迎すべきことだ。

 しかし、その一方で、こうした新しい優れた技術が、経営者の判断力を鈍らせたり、能力を低下させ得るということを、石屋製菓の一件からわれわれは学ぶべきだろう。

 仙台銘菓として押しも押されもせぬ人気商品と言えば、菓匠三全(宮城県大河原町、田中裕人社長)の「萩の月」だろう。カステラ生地の中にカスタードを入れたまんじゅう型の菓子を、駅の売店で売るなどは、かつては不可能な話だった。それを可能にしたのが、脱酸素剤を封入した個包装という技術だ。発売は約30年前だが、タレントや漫画家が「好き」と紹介したことからブレイクして25年ほど経つだろうか。この製品が仙台という地域に果たした貢献と、みやげもの業界に与えたプラスのショックには計り知れないものがある。

 その一方、仙台にはもう一つの老舗ブランドがあることを思い出すと面白い。白松がモナカ本舗(仙台市青葉区、白松一郎社長)の「白松がモナカ」だ。

 最中(もなか)は、かつては和菓子店が余った菓子をつぶして再生したあんを売るための商品と決まっていた。従って、どこの最中も当然のようにまずいものだったという。白松の創業者は、この最中の「買い求めやすい価格の和菓子」という点に注目し、再生品ではなく、最初からもなか用にあんを作り、高品質の最中を作って売り出し、大ヒットを生んだ。

 そして現在、「白松がモナカ」は、100%受注生産の体制で製造されている。毎夕、30の店舗がそれぞれ翌日の販売数を予測し、工場にその数を発注する。毎日、工場はその数だけを生産して店舗に配送し、店舗はそれを売り切る。これはつまり、およその数字で言えば、発注から調理完了(納品)までのリードタイムが14時間、ホールディングタイム10時間の飲食店だと思えばいい。

 廃棄・再生の逆を行って勝ち取った成功。そして、提供までに10時間単位の時間がかかるにしても、商品は生ものであり、売れる以上のものを作るわけにはいかないということ。「白松がモナカ」の1個は、人知れずそのことの価値を語っているのだ。

 仙台の評判を担う会社にこの2社があり、それぞれに人気を得ていることが興味深い。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →