“日本産”以上の品質と情報を

Yata Ltd. CEO 黄思麗(スザンナ・ウォン)さん

【Yata Ltd. CEO Susanna Wongへのインタビュー】「YATA」(一田)は香港で日本産の農水産物や食品を中心に取り扱う小売チェーンである。そのCEO黄思麗(スザンナ・ウォン)さんに、「YATA」の取り組みと日本の生産者への希望を聞いた。

「YATA」の前身は、1990年に日本から香港に進出した西友。その際、名前の印象からブランドとして「西田」を採用した。

その後、2005年に新鴻基地産が買収し、2008年に現ブランド「YATA」を採用。「西田」時代は沙田店1店だったが、「YATA」にリブランド後に多店化に転じた。なお、「YATA」は日本語の「ヤッター!」の音から取ったもの。

黄思麗さんはコンサルティング会社を経て2014年に新鴻基地産発展に入社、2016年に一田百貨のCEOに就任した。

高品質かつリーズナブル

「YATA」の店舗網(2018年8月現在)
「YATA」の店舗網(2018年8月現在)

――「YATA」の現在のあらましを教えてください。

黄思麗 1号店である沙田店は百貨店で、店舗面積は173,386sf(約4,873坪=16,110㎡)です。ここでは食品と生活雑貨を扱ってきました。

 2010年から多店化を進め、現在は11店を展開しています。そのうち3店は百貨店(店内にスーパーマーケットを含む)で、8店はスーパーマーケットです。

 店のコンセプトとして「現代日式生活百貨」を掲げています。

――香港で日本産・日本製の商品を取り扱う店は高い店という印象がありますが、大商圏の高級店というわけではないのですね。

黄思麗 沙田店の顧客は近隣に住む人たちです。観塘店(スーパーマーケット)は近隣で働く人と、休日には少し離れた住宅地からの来店があり、来店頻度は月1〜2回です。

「ウェルカム」(恵康)をはじめとする香港の他のスーパーマーケットに比べると多少来店頻度は少ないと思いますが、扱っている商品は決して高級品ではありません。品揃えでは、品質がよいことと、リーズナブルであることとを重視しています。

※沙田(シャーティン):香港・新界の住宅・商業地区。MTR沙田駅にショッピングモール「新城市廣場」(New Town Plaza)があり、「YATA」も同モールにある。沙田駅一帯はベッドタウンである一方、香港文化博物館などの観光名所もある。

※観塘(クントン):九龍東部の旧啓徳空港に近い商工地域として発展した、沙田と並んで人口の多い地域。大型ショッピングモール「Millennium City 5」が出来て復権し、「YATA」も同モールにある。

もはや“日本産”や一般名詞では売れない

YATA Ltd. CEOの黃思麗(Susanna Wong)さん。「YATA」沙田店で。
YATA Ltd. CEOの黃思麗(Susanna Wong)さん。「YATA」沙田店で。

――顧客層はどのような人たちで、どのような品揃えが必要ですか。

黄思麗 主要な顧客層は購買力のある25〜45歳の女性で、生活の質の向上を志向する人たちです。また、中国本土からの観光客も来店しています。

 顧客は中位〜上位の可処分所得の高い人たちなので、品質に高い要求があるのは当然です。しかも、高品質であるだけでなく、それぞれの商品の特徴などの情報を伝えることが大切です。そして、いつも新しいものがあること。

 現代は素早く情報が取れる時代です。インターネットを使って何でもすぐに調べられます。ですから、香港の人々も日本や日本の製品についてはいろいろ調べてわかっていますし、また、旅行などの実体験からの深い知識も持っています。

 たとえば、いちごは定番の人気商品ですが、今では「日本産のいちご」というだけで売れるということはありません。顧客は、いちごの品種名・ブランド名を見て探しています。シャインマスカットもヒット商品ですが、今では岡山県産の「晴王」など、ブランドを見ています。

 知識はエレメンタリーから中級、上級へ上がっていくものです。ずっと同じではありません。

背景となる食文化ごと伝える

――商品の情報も伝えるということですが、単に仕入れて販売するだけの仕事ではないわけですね。

今年6月に展開した梅酒フェア。梅酒の漬け方を教える実演も行った。
今年6月に展開した梅酒フェア。梅酒の漬け方を教える実演も行った。

黄思麗 はい。商品を並べて売るというだけでなく、体験や学びも取り入れて、総合的に紹介するようにしています。

 たとえば、店内で流しそうめんもやりましたし、日本のお茶の淹れ方や、日本酒の楽しみ方も実演を交えて紹介しています。

 季節ごとにいちごや桃のフェアなども行っています。青梅の時期に梅酒の紹介もしました。もちろん、日本の梅や道具を売るだけではありません。パンフレットを作り、実演も行い、漬け方だけでなく旬の時期なども詳しく伝えました。

 今年は戌年ですから、お正月に張り子の犬の紹介もしました。これも、ただデザインを使うだけではありません。私たちはこの民芸品についてよく調べ、これが縁起物で、安産祈願にも通じるなども理解し、そうした文化も伝えています。

「YATA」将軍澳店で展開した熊本物産祭。YATAと熊本県はくまモン活用によるプロモーションに関して覚書を交わしている。
「YATA」将軍澳店で展開した熊本物産祭。YATAと熊本県はくまモン活用によるプロモーションに関して覚書を交わしている。

――日本側との連携企画もあるそうですね。

黄思麗 とくに、新店のオープンに際しては、いつも日本の地方自治体や団体などとジョイントでイベントを開催しています。たとえば、今年1月の葵芳店オープンでは、京都フェアを開催し、たいへん好評でした。将軍澳店では熊本の夏祭りを企画しました。

※葵芳(カイフォン):新界葵青区で公営住宅の近くのMTR駅。ショッピングモール「新都会広場」(Metro Plaza)があり、「YATA」も同モールにある。

※将軍澳(チョンクワンオウ):新界東部の湾の名で、その沿岸のニュータウン。MTR坑口駅にショッピングモール「東港城」(East Point City)があり、「YATA」も同モールにある。

香港の事情と心情も理解してほしい

黃CEOも年に数回日本を訪れている。
黃CEOも年に数回日本を訪れている。

――新しい商品の開発や仕入れ、そのための情報収集もなかなかたいへんそうです。

黄思麗 私たちのバイヤーは、年に10回ぐらいは日本に行っています。

――日本の生産者については、日本国内でも、なかなか小売業や外食業の仕事を理解してくれないと言われることがあるのですが。

黄思麗 やりとりをするなかで、こちらの事情を理解しようとしてくれないことがあります。事情を説明してお願いしてから改善されるまでに時間がかかるのが日本の特徴です。それは信用にもかかわることなのですが。

 たとえば、ホタテを扱うとき、日本では1kgパックが標準だということでしたが、私たちは売り方から考えてそれを500gにしてほしいと要望しましたが、なかなか変えてくれなかったということがありました。

 また、野菜や果物について、ある地域のものだけ扱ってほしいという売り込みがあるのですが、私たちとしては同じ野菜や果物であれば、狭い一カ所に集中するのでなく、全体的に扱いたいです。

 一方、先回りして気を利かせてくれたものの空振りということもあります。というのは、ある生産者が、お正月用にと中国風のデザインの箱を用意してくれたことがあるんですが、よくなかった。

――ださかった?

黄思麗 (苦笑)結果的に、それは使いませんでした。どんなものがいいのか、聞いてくれればいいんですが。また、黒いものとか白いものとか、縁起が悪い色などは世界共通だと思いますが、そういうことへの配慮もほしいですね。

 それから、もう一つ重要なお願いがあります。安全や衛生について、香港の法令をよく調べて従ってほしいです。

 たとえば、紅麹は日本ではよく使うようですが、紅麹色素を着色料として使うことは香港では禁止されています。

――規格・基準の違いや規制などについてはよく調べるべきですね。規制では東京電力福島第1原子力発電所事故を受けて禁止していた5県産農産物のうち、茨城、栃木、群馬、千葉4県産が条件付きで認められました。

黄思麗 法令に従うことは重要です。またその一方、顧客の気持ちも大切です。原発事故に関連することについても、私たちは顧客の理解を得ながら少しずつ進めていく考えです。

日本の老舗の情報を求めている

――今後、日本で探したい商品などはありますか。

黄思麗 日本の老舗の情報を求めています。品質のよいものを作っている伝統的な店がまだまだいっぱいあるはずです。とくに食品について、長く続いているお店の情報を求めています。日本の老舗同士が集まって、海外へ向けて情報を発信してくれたらいいなとも思っています。

左・梅祭り(2018年6月)、右・秋祭り(2017年10月)。「YATA」のキャンペーンの写真には同社のマーケティング上の考え方が表れている。すなわち、日本的で、おしゃれで、新しさがある。
齋藤訓之
About 齋藤訓之 299 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →