信頼を損ねる事象はいくつでも起き得る

食品については、どの時代にも不正や不可解な事件・事象が起き得る。そうした不安が消費を冷やすことのないよう、国も業界も強いリーダーシップをもって表示やトレーサビリティの整備に努めるべきだ。

消えた放射能汚染ミルク

 1990年だったと記憶するが、ドイツで1986年から廃線になった線路上で二十数輌の貨車に積み込み隔離保存されていた高濃度放射性物質汚染粉ミルクが突如行方不明になったとの情報が入ったことがあった。

 当時私の妻は双子の娘を妊娠中であったため、急遽賞味期限切れの1985年までの製造年月日の国産粉ミルクを探し回った記憶がある。国産粉ミルクと表示されていても49%は外国産粉ミルクが混入している可能性があると考えた。また仮に輸入時の放射能検査フリーの「輸出国○○」の表示があった場合は、原産国不明のまま放射能検査もなしで国産粉ミルクに混入されてしまっている可能性があることを恐れた。

 数年後には「熊本県○○農協出荷のミニトマト」に韓国産ミニトマトが混ぜられて出荷されていたことが発覚した。以来検討委員会は設立されたものの、法的規制強化や厳罰化は行われず、毎年のように食品偽装事件が報道される事態となり、大半は不起訴・厳重注意・指導などという曖昧な処理が続いている。

弁明が足りない事故米不正転売

 2008年の事故米不正転売事件では、芋焼酎メーカーがなぜ大量の米を買い付けたのかの捜査は行われただろうか? 蔵側の言い訳は「醗酵のスターターとして用いる米麹の原料として」と言うところだろう。だが乙類焼酎業界については、以前から米および米麹の使い過ぎが噂されていた。そこにあるのは「51%対49%は合法」の論理ではないのか。彼らはその点を明解に弁明し、業界にある疑惑を払拭すべきだった。

 さらにこんな忘れ去られた言葉をご存知だろうか?「酒類業界は穀物のゴミ捨て場である!」だ。私はこの言葉には怒りを覚えない。むしろそうあるべきだと思っている。事故米も、最終製造物からカビ毒のアフラトキシンや農薬のメタミドホスが検出されたのであれば、燃料用エタノールとして然るべき施設で使用処分すればよい。「もったいない!」ことはなくすべきである。

不正を封じ込めるしくみの強化を

 さて今回の福島第一原発事故による放射性物質汚染した農水産物の問題である。妊産婦や乳幼児を持つ家庭では安全な食品探しに苦慮していると思うが、私が恐れ、ぜひ警戒してもらいたいと考えているのは、全くかけ離れた地域からの放射能汚染農産物の出荷だ。たとえば、安全と思って購入した九州産や四国産の農水産物に、出荷停止および廃棄を義務付けられた高濃度汚染農水産物が混入といった事態だ。

 このようなことを言えば、善良な事業者は不愉快に思うだろうが、そうした事態発生を封じ込める手を打てているだろうか。

 日本国内を厳重監視していても、従前から行っている廃棄物輸出に紛れて海外流出した汚染農水産物が、輸入時検査不要の第三国から還流するといったことも想定可能な事態ではないだろうか。

 私がそうした心配をするのは、過去の例を思い出すからだ。以前、神奈川のあるワイン輸入元が廃棄処分したはずのワインが、大阪の酒類業界に破格値(もちろんその価値もない代物にもかかわらず)で売られ、東京まで還流したことがあるのだ。廃棄物処理業者の中に不心得な業者がいたのだ。

 妊婦・乳幼児の大量体内被曝は避けなければならない。今度こそは原材料原産地表示の内容強化と表示物最低含有率のEC並み引き上げの法制化は焦眉の急である。

 他方、我々のような満60才以上の国民は率先して汚染農水産物を受け容れるくらいの覚悟がなければ、放射能汚染問題は収束しないだろう。

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酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。