デキる女のサバイバル食と毒

375 「HELP/復讐島」から

現在公開中の「HELP/復讐島」を紹介する。本作は、文学の「ロビンソン・クルーソー」(1719)や「十五少年漂流記」(1888)などを源流とする「ロビンソナーデ」(Robinsonade/孤島漂着もの)のジャンルに属する作品である。

 乗っていた飛行機が海に墜落し、南海の孤島に流れ着いた若手二代目社長とキャリアウーマン。生き残ったのは二人だけという状況で、水や食料の調達といったサバイバル能力は、いかに二人のパワーバランスに変化をもたらすかを、「死霊のはらわた」(1981)、「スパイダーマン」(2002)のサム・ライミ監督が描いている。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

ひとの話を聞かない二人

 主人公のリンダ(レイチェル・マクアダムス)は、コンサルティング会社の戦略企画部に勤めて7年目。誰よりも数字に強く有能で出世を目指しているが、入社半年のドノヴァン(ゼイヴィア・サミュエル)に手柄を横取りされ、昇進も先を越されてしまう。ドノヴァンは、新社長ブラッドリー(ディラン・オブライエン)の学生時代のゴルフ仲間というコネがあったのだ。リンダはブラッドリーに直談判するが、逆に「君には役員になる準備ができていない」と言われてしまう。

 リンダは仕事はできるのだが、欠点は“身だしなみ”。ダサい服装とくたびれたペタンコ靴、周囲にお構いなしにデスクで仕事しながら昼食をとるリンダの姿に、前社長の死去に伴って社長となった前社長の息子・ブラッドリーはいらついていた。映像では、ブラッドリーの瞳に映るリンダの口元に付いたツナサンドのツナマヨがことさらに強調され、ブラッドリーがリンダに感じている不快感を如実に表現している。

 ブラッドリーの指摘はもっともなのだが、リンダは真に受けず、このままでいいのだと自分に言い聞かせる。一方のブラッドリーは、前社長がリンダに昇進を内示していたというフランクリン(デニス・ヘイスバート)の報告を聞き流し、今度のバンコク出張の案件が片付いたらリンダを地方に転勤させるつもりでいる。ブラッドリーにとってリンダは癇に障るだけの戦力外でしかなかった。

 叩き上げのリンダとお坊ちゃん育ちのブラッドリー。対照的な二人だが、共通しているのはひとの話を聞かず、自分は正しいと思い込んでいること。後に孤島で二人きりのサバイバル生活を送る二人の対立の下地と言えるだろう。

サバイバーとぼんぼん

 バンコクに向けて、リンダとブラッドリー、ドノヴァン、フランクリン、リンダの同僚のチェイス(クリス・パン)が乗り込んだビジネスジェットの機内。パソコン仕事に励むリンダの傍らで、ブラッドリーたちはドノヴァンが見つけてきた動画に見入っていた。動画は、視聴者参加型のリアリティTV番組「サバイバー」(SURVIVOR)の一部。そのオーディションに臨む人物は、ほかならぬリンダだった。

 仕事に集中していたリンダがヘッドホンを外すと、ブラッドリーたちの嘲笑が耳に入ってくる。プライベートな趣味を物笑いの種にされるというパワハラに、リンダが我慢の限界を超えそうになったとき、飛行機に突然のトラブルが発生、機体に穴が開き、リンダとブラッドリー以外は全員機外に放り出される。コントロールを失った飛行機は、そのまま海に墜落。リンダが気が付いたときには、人気のない海岸の砂浜に打ち上げられていた。

 辺りをさまよい歩き、やっとのことで海岸に打ち上げられたブラッドリーを見つけるが、彼は足を負傷していて動けない。極限状況のなか、二人の生存はリンダ一人に委ねられる。

 ここで生きたのが、「サバイバー」のビデオで見せたリンダのアウトドアの知識。まず石を割ってナイフ状のものを作り、ヤシの実を半割りにする。次に面積の大きい葉を刈り、半割りにしたヤシの実に向けて傾斜を付けて配置し、雨が降ってきたらヤシの実に水が流れ込む装置を作り上げる。これで生存に最低限必要な真水を確保できた。

 次は食料の確保。野生の木の実や貝の中には毒を持つものがあるため、まずつぶして肌に刷り込み、アレルギー反応が出るかどうか確認して安全なものだけを採集する。さらに石と木でもりを作って魚を獲り、イノシシ狩りにも挑戦。狩りの様子はサム・ライミらしいスプラッター(血しぶきが飛ぶ)描写ながらユーモラスに描かれている。

 摩擦熱で火をおこし、木の枝と葉を集めて掘っ立て小屋を作り、住環境を整備。島の環境に適応したリンダには、ストレスの多い文明社会での生活より、島での暮らしの方が居心地よく思えてくる。

「サバイバー」は、1997年にスウェーデンで放映されたのを皮切りに世界各国で現地版が放映されたTV番組である。2000年に米国版が放送されて米国で大人気となり、現在も放映中。日本でも2002年から2003年にかけて放映された。

毒を盛り合う狐と狸

溺れかけたブラッドリーにリンダはタコの串焼きを差し出す。しかし……。
溺れかけたブラッドリーにリンダはタコの串焼きを差し出す。しかし……。

 一方ブラッドリーは、命を救ってもらった礼もそこそこに、砂に木の枝で「HELP」と大書しろだの、火で狼煙をあげろだのと、救助されることばかりを考え、会社での上下関係そのままにリンダに命令してくる。生き残ることを最優先に行動してきたリンダには、到底理解できないことだった。リンダは言う。

“We’ re not in the office anymore, Bradley.”
(ここは会社じゃないのよ)

 この一言を契機に二人による“狐と狸の化かし合い”が始まる。足が治っても自分一人では何もできないと悟ったブラッドリーは、これまでの言動をリンダに謝罪。歩み寄ると見せかけてリンダからサバイバル術を学ぶ。

 ある夜ブラッドリーは、マンゴーのサルサにマリアンプラム添えの前菜、メインディッシュの魚料理はスモークしたバラマンディ(熱帯の大型魚)にレモングラス添えといった高級レストラン風のディナーを作ってリンダに振舞うが、食事にはリンダから教わった毒のあるベリーが入っていた。リンダが昏倒している隙に、ブラッドリーは秘かに作っていた筏で島を脱出しようとするが、床材の組み方が甘い素人筏はすぐバラバラになって目論見は失敗。溺れかけたところをリンダに救われる。

 気が付いたブラッドリーにリンダはタコの串焼きを差し出すが、そのタコは神経を麻痺させる毒素テトロドトキシンを持つオオマルモンダコだった。動けなくなったブラッドリーに、リンダがした仕返しとは……。

 この後も驚きの展開が待っているのだが、それ以上は作品をご覧いただきたい。リンダの出世の妨げとなったものも後で回収される。

サービス精神あふれる巨匠

 サム・ライミは、1981年の「死霊のはらわた」で長編映画デビュー。斬新なスプラッター描写が当時のホラーファンに受け、ヒット作となった。続編の「死霊のはらわたII」(1987)、「死霊のはらわたIII/キャプテン・スーパーマーケット」(1993)も製作され、カルト映画監督としての地位を確立。

 2002年には、アメリカン・コミックの代表的なスーパーヒーロー漫画を原作とした「スパイダーマン」の監督に抜擢される。独特のキッチュ(意図的に大げさに見せる)表現が受け、同じトビー・マグワイア主演で「スパイダーマン2」(2004)、「スパイダーマン3」(2007)も製作された。スプラッタ・ホラーでもスーパーヒーローものでも共通する演出上の特徴は、観客が観たいものをとことんまで観せるサービス精神。その演出は本作でも遺憾なく発揮されている。

 なお、前社長=ブラッドリーの父は、サム・ライミ作品の常連であるブルース・キャンベルが遺影のみで出演している。


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【HELP/復讐島】

公式サイト
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/fukushu-jima
作品基本データ
原題:Send Help
製作国:アメリカ
製作年:2025年
公開年月日:2026年1月30日
上映時間:112分
製作会社:Raimi Productions, TSG Entertainment
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:サム・ライミ
脚本:ダミアン・シャノン、マーク・スウィフト
製作総指揮:J・J・フック
製作:サム・ライミ、ザイナブ・アジジ
撮影:ビル・ポープ
美術:イアン・グレイシー
音楽:ダニー・エルフマン
編集:ボブ・ムラウスキー
衣裳デザイン:アンナ・ケイヒル
キャスティング:ダニー・ロング、ナンシー・ネイヤー
キャスト
リンダ:レイチェル・マクアダムス
ブラッドリー:ディラン・オブライエン
ズーリ:エディル・イスマイル
フランクリン:デニス・ヘイスバート
ドノヴァン:ゼイヴィア・サミュエル
チェイス:クリス・パン
船長:タネート・ワラークンヌクロ
リバー:エマ・ライミ
ブラッドリーの父(写真):ブルース・キャンベル

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。