2023年の夏は連日の猛暑続きで、クーラーの効かない部屋で過ごしている筆者の場合は、冷たい食べ物でないと喉を通らないことが多かった。そんな時に有難かったのが、さっぱり涼やかな冷奴。タンパク質を豊富に含みながら、低カロリーでお財布にも優しい豆腐は、筆者の好物の一つである。そこで今回は、豆腐を題材とした映画を2本取り上げてみたいと思う。奇しくも両作品とも、父娘で営む豆腐店を舞台とした作品である。
※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。
個人経営の豆腐店は“オワコン”なのか?
一本目の「ファの豆腐」(2011)は、経済産業省とNPO法人映像産業振興機構(VIPO)が主催する、次世代のクリエイター発掘を目的としたプロジェクト“コ・フェスタPAO”のうち、“movie PAO”のカテゴリで製作された中・短編集「白い息」の一本である。
舞台は東京の下町。主人公の豆腐店の娘、朝子(菊池亜希子)は、いったんは就職して家を出たものの、失業して出戻り、店をたたもうとしていた父(塩見三省)に家業を継ぐと宣言。父の作った豆腐を自転車に乗せて行商する、穏やかながら単調な日々を送っていた。しかし、ある人物との再会で日常にさざ波が立つというストーリーである。
タイトルは、朝子が行商で使うラッパの音がうまく出せなくて、吹く音と吸う音の二音出るところ、吹く「ファ」の音しか出せないことに由来している。
一人暮らしの老人とタワマン新住民の増加、商売は左前でも家賃収入で生計を得ている旧住民などなど、現代の下町あるあるを40分という短い尺の中で見事に描き出している。なかでも“普通においしい”豆腐が大量生産され安く出回るようになったうえに、学校給食の需要もなくなった個人経営の豆腐店の苦しい現状については詳述されていて、朝子と父が生き残りのために打つ“次の一手”が、本作の見どころの一つになっている。
頑固親父の繊細な味
現在公開中の「
主人公の高野辰雄(藤竜也)は、全国各地から厳選した大豆を取り寄せ、豆の味を前面に出したこだわりの豆腐を作っている頑固な豆腐職人である。自店での小売りだけでなく、地元のスーパーにも卸しているが、東京への出荷は頑なに断っている。
辰雄は、毎日陽が昇る前に作業場に入り、「出戻りの一人娘」春(麻生久美子)と二人三脚で豆腐を作っている。春は毎朝辰雄に「おはようございます。今日もよろしくお願いします」という他人行儀な挨拶を欠かさない。これは豆腐職人である父に対する敬意の表れであるが、それだけではないことが後にわかる。そして豆腐作りが一段落すると、搾りたての豆乳を飲みながら休憩するのも二人の毎日のルーチンである。
春は豆腐作りを一通り辰雄から教わっているが、一度もやらせてもらったことがない作業が一つ。それは“にがり”の投入だ。春曰く「“にがり”でお豆腐の人格が決まる」とのことである。
辰雄は、あるきっかけで同じ年頃の婦人、中野ふみえ(中村久美)と親しくなる。スマホを持たない辰雄が連絡先を教えるために店の名刺を渡したところ、ふみえが「
ストーリーの方は、春が家に戻った原因に責任を感じた辰雄が、周囲を巻き込んで再婚相手探しに奔走するというもの。これも小津映画へのオマージュだろうか。しかし、父役が笠智衆ではなく藤竜也だけに、穏やかには終わらない。また、春の意外な選択にも注目だ。
※小津のこの趣旨の言葉はさまざまな形で伝えられているが、ここでは『監督 小津安二郎』(蓮實重彦著、筑摩書房)にあるものを記した。
【ファの豆腐】
- 作品基本データ
- 製作国:日本
- 製作年:2011年
- 公開年月日:2011年6月11日
- 上映時間:40分
- 製作会社:テレビマンユニオン
- 配給:アークエンターテインメント
- カラー/サイズ:カラー/16:9
- スタッフ
- 監督:久万真路
- 脚本:本調有香
- プロデューサー:熊谷喜一
- 撮影:大塚亮
- 美術:三ツ松けいこ
- 音楽:畑中正人
- 録音:高橋一三
- 編集:鈴尾啓太
- 衣装デザイン:小川久美子
- ヘアメイク:酒井夢月
- キャスティング:田端利江
- 制作主任:村山亜希子
- 助監督:宮田宗吉
- キャスト
- 朝子:菊池亜希
- 朝子の父:塩見三省
- 幼なじみの男:三浦誠己
- おばあちゃん:瀬能礼子
- 主婦:ともさと衣
- 男の子:須藤偉生
- リサイクル屋:千葉ペイトン
(参考文献:KINENOTE)
【高野豆腐店の春】
- 公式サイト
- https://takanotofuten-movie.jp/
- 作品基本データ
- 製作国:日本
- 製作年:2023年
- 公開年月日:2023年8月18日
- 上映時間:120分
- 製作会社:「高野豆腐店の春」製作委員会(企画・製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ)
- 配給:東京テアトル
- カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
- スタッフ
- 監督・脚本:三原光尋
- 製作:桝井省志、太田和宏
- プロデューサー:桝井省志、土本貴生、山川雅彦
- 撮影:鈴木周一郎
- 美術:木谷仙夫
- 音楽:谷口尚久
- エンディングテーマ:エディ藩
- 録音:郡弘道
- 照明:志村昭裕
- 編集:村上雅樹
- アシスタントプロデューサー:吉野圭一
- 助監督:金子功、小村孝裕
- タイトルデザイン:赤松陽構造
- キャスト
- 高野辰雄:藤竜也
- 高野春:麻生久美子
- 中野ふみえ:中村久美
- 金森繁:徳井優
- 鈴木一歩:菅原大吉
- 横山健介:山田雅人
- 山田寛太:日向丈
- 金森早苗:竹内都子
- 西田道夫:桂やまと
- 田代奈緒:黒河内りく
- 村上ショーン務:小林且弥
- 坂下美野里:赤間麻里子
- 坂下豪志:宮坂ひろし
(参考文献:KINENOTE)