年の瀬はワイン映画で三本締め

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2022年最後となる今回は、本連載第292回で触れた「戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン」「チーム・ジンバブエのソムリエたち」に、日本の「Vin Japonais The Story of NIHON WINE」を加えたワイン映画三本立てでお送りする。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

日本ワイン造りを凝縮

日本ワイン独自の品種、甲州(左)とマスカット・ベイリーA(右)。甲州は、山梨県(旧甲斐)に古くから伝わる白ぶどう品種。マスカット・ベイリーAは、アメリカ系のベーリー種と、ヨーロッパ系のマスカット・ハンブルク種を交配した黒ぶどう品種である。
日本ワイン独自の品種、甲州(左)とマスカット・ベイリーA(右)。甲州は、山梨県(旧甲斐)に古くから伝わる白ぶどう品種。マスカット・ベイリーAは、アメリカ系のベーリー種と、ヨーロッパ系のマスカット・ハンブルク種を交配した黒ぶどう品種である。

「Vin Japonais The Story of NIHON WINE」は、国産原料のみを使用し、日本国内で製造された「日本ワイン」を世界に発信することを目的に、クラウドファンディングで集めた300万円余りを原資に製作されたドキュメンタリーである。日本ワインの三大産地である山梨県、長野県、北海道に加え、「日本ワインの父」川上善兵衛(1868〜1944)が、日本固有種「マスカット・ベイリーA」を交配した新潟県に注目。各県のワイナリーに取材を敢行した。

 山梨県は固有種の「甲州」の生産が多く、長野県はヨーロッパ品種の「メルロー」「カベルネ・ソーヴィニヨン」「シャルドネ」等、北海道はドイツ品種の「ケルナー」や、最近では「ピノ・ノワール」も生産されている。本作では各ワインメーカー(生産者)へのインタビューを通して、その品種を選択した地域の気候・土壌等の条件と、それに適応し、どのようにしておいしいワインを造っているのか、ワイナリー各々のノウハウを聞き出している。

 驚くべきは山梨県11件、長野県14件、北海道9件、新潟県6件という取材件数。シャトー・メルシャンサントリーグランポレールマンズワインといった大手から、個人経営のワイナリーまで計40件(各県のワイナリー件数の20%以上にあたる)への取材を2時間半弱にまとめた、「日本ワイン造りのノウハウ集」とも言うべき濃密な内容である。

 また、日本ワインの生産現場だけではなく、しなの鉄道の観光列車「ろくもん」や、新潟ワインコーストといったワインツーリズムや、レストラン、和食料理店、小売店などワインを提供する現場にも取材。日本のワイン愛好家だけでなく、今後戻ってくることが期待される海外からの観光客にもアピールしている。

 世界への発信ということで、メインナビゲーターには日本在住のフランス人、フレデリック・カユエラを起用。2002年日韓ワールドカップで、日本代表トルシエ監督の通訳を務めたフローラン・ダバディが、スペシャルナビゲーターとして参加している。

 山梨県のパートで最初に登場するのは、「シグナチャー 日本を世界の銘醸地に」(2022、本連載第292回参照)で主人公のモデルとなった安蔵光弘(山梨県ワイン酒造組合会長)。また、北海道余市郡のワイナリー「ドメーヌ タカヒコ」のシーンでは、最年少の24歳で世界最難関のマスター・ソムリエとなった高松亨が登場。ともにカユエラのインタビューに英語で答えている。ワイナリーのワインメーカーたちは海外経験がある人が多いようで、英語で答えている場面が多いのが印象的だった。

ワイン作りは、生き方

「戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン」は、アフリカとヨーロッパを結ぶ中東の小国、レバノンにおけるワイン生産の長い歴史、1975年から15年に及ぶ内戦と、その後も断続的に続く隣国との軍事衝突の中で、ワインを作り続けてきたワインメーカーたちの不屈の精神を描いたドキュメンタリーである。

 レバノンワインは世界最古のワインの一つであり、その起源は5000年前とも、一説には7000年前とも言われている。レバノン南部では2500年以上前のワイナリー遺跡が発掘されているが、発掘の進展を戦乱が妨げている。

 本作に登場するワインメーカーの一人、セルジュ・ホシャールは、世界的に高い評価を受けている「シャトー・ミュザール」の2代目。レバノンワインを欧米に広めた功績により「レバノンワインの父」と呼ばれる人物だ。1984年にはイギリスのワイン専門誌「Decanter」でマン・オブ・ザ・イヤーを世界初受賞した逸材だが、インタビューにまともに答えず、禅問答のようなやり取りをする“変な人”である。だが、世界で最も影響力のあるワインジャーナリストで、「マスター・オブ・ワイン」の称号を持つジャンシス・ロビンソンをはじめ、やはり「マスター・オブ・ワイン」で、「マイケル・ブロードベントのワインテースティング」等の著書を持つマイケル・ブロードベント等、ホシャールのファンは多い。ジュリア・ロバーツ主演で映画化された小説「食べて、祈って、恋をして」の著者、エリザベス・ギルバートによると、「私がセルジュから学んだものは、ワインのことより人の生き方についてだった」という。生死の際を日常的に感じている人にとっては、ワインを論じるよりも、どう生きるかが優先するということなのか。

 その他、内戦中に平和を願ってワイン造りを始めた修道士、戦死した父からワイナリーを受け継いだ女性、虐殺が起こった村でワイナリーを続ける夫婦等、極限状況でワインを造り続けてきた11のワインメーカーたちが語るのも、同じく、生き方論であった。

サクセスストーリーに透ける“大人の事情”

「チーム・ジンバブエのソムリエたち」は、“ワイン版「クール・ランニング」(1993)”という宣伝文句に乗せられて、コメディタッチを予想していた。しかし実際に観てみると、経験の少ない若者たちが世界大会に出場するという構造こそ「クール・ランニング」に似てはいるものの、さらに考えさせられる点の多いドキュメンタリーであった。

 ジンバブエは、イギリス植民地時代からローデシアと呼ばれ、隣国の南アフリカと同様に人種差別政策をとっていた。ジンバブエ共和国になってからは、ムガベ元統領の独裁政権下、ハイパーインフレと治安の悪化が進んだ。のちに「チーム・ジンバブエ」の仲間になるジョセフ、ティナシェ、バードン、マールヴィンの4人は、お互いのことも、ワインのことも知らぬまま、2008年頃に前後して、命からがらジンバブエから南アフリカに逃れてきたのである。

 南アフリカでは、すぐに希望の職につけず、レストラン裏の畑仕事や皿洗いなど下働きが続いた。そこからそれぞれがウェイターになり、ソムリエになりと展開するのは、オーナーシェフの好意や、ちょっとした幸運があったからだ。

 2017年、第5回ブラインド・テイスティング世界選手権に出場する南アフリカチームのソムリエを探していたコーチのジャン・ヴァンサン(JV)は、選抜候補リストの中にジンバブエ出身の4人の名前を見つける。主催者に問い合わせたところ、チーム・ジンバブエとして出場できるという。つまり4人は、母国の関与がないところで、チーム・ジンバブエを名乗ることになる。

 参加は許可されたが、次は金銭的な問題がのしかかる。大会が開かれるフランス・ブルゴーニュへの旅費とコーチ代をどうするか。思い余ってSNS上でクラウドファンディングを募ったところ、「戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン」にも出演していた、“ワインの女王”ジャンシス・ロビンソンが寄付を申し出る。それから次々に寄付が集まり、あっという間に目標額に達してしまう。

 よくあるサクセスストーリーだと思う方もいるかもしれないが、筆者はこのいきさつに何かもやもやしたものを感じてしまう。この前年の2016年、第4回ブラインド・テイスティング世界選手権では、中国チームが初優勝を飾り、旋風を巻き起こした。ちなみにこの年の日本は、「ソウル・オブ・ワイン」(2019、本連載第292回参照)に出演したパリのビストロ「LE PETIT VERDOT」のオーナー・ソムリエ、石塚秀哉を中心としたチームだったが、惜しくも21チーム中20位に終わっている。

 新しい話題と、欧米だけでなく、ボーダーレスに門戸を開いているとアピールしたい主催者の思惑が影響していなかったか。主催者にとっては、実質は南アフリカのBチームであっても、“ワイン未開の地”ジンバブエからの参加は、絶好のアピールになるだろう。ただそんな思惑の有無にかかわらず、チーム・ジンバブエの戦いは、コーチに雇った“かつてのベストソムリエ”ドゥニ・ガレの参加によって、混迷の度を深めていくのだが……。

 本作は、ワイン業界への中国マネーの進出を映し出した「世界一美しいボルドーの秘密」(2013、本連載第85回参照)で監督を務めたワーウィック・ロスと、製作総指揮を務めたロバート・コーの共同監督。意図しているか定かではないが、「クール・ランニング」っぽいストーリーの縁に透けて見える、“大人の事情”を映し出してしまっていると見た。

2022年「ごはん映画ベスト10」を年明けに発表

 毎年恒例の「ごはん映画ベスト10」は、次回に「洋画編」、次々回に「邦画編」をお届けする。お楽しみに。

 それでは、よいお年をお迎えください。


【Vin Japonais】

公式サイト
https://minivin.jp/pages/vin-japonais
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2022年
公開年月日:2022年11月25日
上映時間:147分
製作会社:CruX
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督・プロデューサー:NORIZO
スペシャルアドバイザー:西浦昌文
音楽制作:ryu-ya
キャスト
メインナビゲーター:フレデリック・カユエラ
スペシャルナビゲーター:フローラン・ダバディ

(参考文献:KINENOTE)


【戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン】

公式サイト
https://unitedpeople.jp/winewar/
作品基本データ
原題:WINE AND WAR
製作国:アメリカ
製作年:2020年
公開年月日:2022年11月18日
上映時間:95分
製作会社:Wine and War, LLC
配給:ユナイテッドピープル
カラー/サイズ:カラー/16:9
スタッフ
監督:マーク・ジョンストン、マーク・ライアン
脚本:マーク・ジョンストン、マーク・ライアン、マイケル・カラム
製作総指揮:セルジュ・ドゥ・ブストロス、フィリップ・マスード
プロデューサー:マーク・ジョンストン
撮影:マーク・ライアン
音楽:カリム・ドウアイディー
編集:マレク・ホスニー、マシュー・ハートマン
キャスト
セルジュ・ホシャール
マイケル・ブロードベント
ジャンシス・ロビンソン
エリザベス・ギルバート
ミシェル・ドゥ・ブストロス
サンドロ・サーデ
カリム・サーデ
ジェームス・パルジェ
ジョージ・サラ
ジャン=ピエール・サラ
ナジ・ブトロス
ジル・ブトロス
ロナルド・ホシャール
ガストン・ホシャール
ファウージ・イッサ
サミー・ゴスン
ラムジー・ゴスン
マイケル・カラム

(参考文献:KINENOTE)


【チーム・ジンバブエのソムリエたち】

公式サイト
https://team-sommelier.com/
作品基本データ
原題:BLIND AMBITION
製作国:オーストラリア
製作年:2021年
公開年月日:2022年12月16日
上映時間:96分
製作会社:Screen Australia,Third Man Films,Madman Entertainment
配給:アルバトロス・フィルム(提供:ニュー・セレクト)
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督・製作:ワーウィック・ロス、ロバート・コー
脚本:ワーウィック・ロス、ロバート・コー、ポール・マーフィ、マドレーヌ・ロス
製作総指揮:ロス・グラント、ニール・ハーヴェイ、エイドリアン・マッケンジー、キャメロン・オライリー、マドレーヌ・ロス、ポール・ウィーガード、ジョージ・ハミルトン、イザベラ・スチュワート
撮影:スコット・マンロー、マーティン・マクグラス
音楽:ヘレナ・チャイカ
編集:ポール・マーフィ
キャスト
ジョセフ
ティナシェ
バードン
マールヴィン
ドゥニ・ガレ
ジャン・ヴァンサン(JV)
ジャンシス・ロビンソン

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。