食前の祈り。そして特別な存在

[271]「ワイルド・スピード」シリーズの食べ物(2)

前回に続き「ワイルド・スピード」シリーズ(The Fast Saga)を食の視点から時系列順にレビューしていく。常識外れの“やらかし”を重ねているうちに、いつしかそれが当たり前となり、死んだはずの人が実は生きていたという設定にも驚かなくなった同シリーズだが、その影にはシリーズを最大の危機に陥れた“あの出来事”が関係していると思われる。

「ワイルド・スピード EURO MISSION」の“食前の祈り”

 第6作「ワイルド・スピード EURO MISSION」(2013)は、前作「ワイルド・スピードMEGA MAX」(2011)で大金をつかみ、各々が静かな生活を送っていたドム・ファミリーに、前作で初登場しレギュラー入りした「ルパン三世」における銭形警部的存在のアメリカ外交保安部(DSS)捜査官ルーク・ホブス(元プロレスラーのロック様ことドウェイン・ジョンソン)が、一転協力を依頼してくる。

 ターゲットは元英国特殊部隊のオーウェン・ショウ(ルーク・エヴァンズ)率いる国際的犯罪組織で、そのメンバーには前々作「ワイルド・スピードMAX」(2009)で死んだはずのレティ(ミシェル・ロドリゲス)が含まれていた。レティはドム(ヴィン・ディーゼル)の恋人。ドムはファミリーの恩赦を条件にホブスに協力し、オーウェン一味からレティを取り戻そうとするというのが主なストーリーである。

 ファミリーいちのお調子者ローマン(イリース・ギブソン)が、説明をまともに聞かずにハン(サン・カン)の真似をして自販機のスナック菓子を買おうとしているのにイラついたホブスが、ショットガンで自販機を破壊し「俺のおごりだ」と言うのは彼のキレやすい性格を表している。

 ハンは前作で、いつもスナック菓子を食べているのは禁煙のためだということをジゼル(ガル・ガドット)に見破られており、彼女に仕事が終わったら一緒に東京に行こうと約束していたことが第3作「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」(2006)につながっている。

 ラストシーン、ロサンゼルスのドムの自宅にファミリーが集まった食事の席で、最初にポテトをつまみ食いしたローマンがいつもの彼らしくない感動的な食前の祈りを捧げるのは、第1作「ワイルド・スピード」(2001)でドム・ファミリーの最初のメンバーだったジェシー(チャド・リンドバーグ)が車の神様に捧げた食前の祈りに通じるもので、以後食前の祈りのシーンは本シリーズの終わり方の定番になっていく。

「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」の“懐石給食”

 第3作「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」の主人公はストリートレースでの事故が原因で東京に住む父親のもとに引き取られることになったアメリカ人高校生ショーン(ルーカス・ブラック)。彼が性懲りもなく日本でも車のストリートレースに挑みながらハンという師匠に出会い、ドリフトテクニックを学んでいく。

 本作は日本でもロケが行われたが、主なシーンはアメリカで撮影されており、日本の食文化については奇妙な表現が目立つ。その最たるものがショーンの留学先の高校でのカフェテリア形式の給食。食事が竹籠に入っていたり、貝殻に盛られていたり、懐石風の料理が並ぶ光景は日本の一般的な給食とはかけ離れたものだ。

 ショーンの親友の呼び名はトゥインキー(バウ・ワウ)。本連載第203回第204回でも紹介したアメリカの人気菓子からとられたネーミングと思われ、本編中でもアメリカ直輸入の「スニッカーズ」を売り込むシーンがある。

 ハンは本作でカーチェイス中に事故を起こすのだが、その事故の真相が「EURO MISSION」のエンドロールで明かされていて、この第3作が第6作と第7作の間のエピソードであることが明確になっている。

 本作は若き日の北川景子や昨年亡くなった千葉真一がメインキャストとして参加している他、妻夫木聡、真木よう子、柴田理恵、KONISHIKI、土屋圭市、中川翔子などが端役で出演しているのも注目である。

「ワイルド・スピード SKY MISSION」のビール

ドムお気に入りのコロナビール。
ドムお気に入りのコロナビール。

 第7作「ワイルド・スピード SKY MISSION」(2015)は、第6作の敵オーウェンの兄デッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)が弟の復讐のためにドム・ファミリーの前に立ちはだかる。仲間を守ろうとするドムの前に現れたのは米政府秘密組織のリーダー、ミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)。彼の提案は民間軍事組織に捕らえられたハッカーのラムジー(ナタリー・エマニュエル)を奪還し、彼女の開発した監視プログラム「ゴッド・アイ」でデッカードを倒そうというものだった。

 ノーバディの好物は修道士が作ったベルギービール。秘密基地内にブリュワリーを作って出来立てを楽しんでいる。それをドムにも勧めるが、ドム曰く「俺はコロナビールしか飲まない」。そういえば第1作でドムがブライアン(ポール・ウォーカー)に振舞ったのもコロナビールだった(というかコロナビールの銘柄しかなかった)。

 このコロナビール、新型コロナウイルスとは何の関係もないが、その名前ゆえにあらぬ風評被害を受け世界全体での売上が減少した時期もあると聞く。残念な話である。

 食とは関係ないが、世界で最も高価なスーパーカー「ライカン ハイパースポーツ」がUAEアブダビの超高層ビル群エティハド・タワーズを2連続で飛び越えるシーンなどの派手な演出が人気を呼び、シリーズ中最高の興行収入を挙げている。

 そして本作クランク・アップ前の2013年11月30日、ポール・ウォーカーが交通事故で不慮の死を遂げるという緊急事態が発生。ブライアンの残りのシーンはCG合成とウォーカーの二人の弟が代役を務めることで乗り切ったが、以後ブライアンの登場シーンは第9作までない。

「ワイルド・スピード ICE BREAK」の“いつもの祈り”

 第8作「ワイルド・スピード ICE BREAK」は核ミサイルの発射コード奪取を目論むサイファー(シャーリーズ・セロン)に、ある理由からドムが協力。ファミリーは分裂の危機に陥る。北極海の凍結した氷上でのカーチェイスと潜水艦とのバトルが見どころの作品である。

 食のシーンの少ない作品だが、お約束となったラストの食事シーンは場所をニューヨークに移して健在。ブライアン夫妻を除くコアメンバー:ドム、レティ、ローマン、テズと、前作でファミリーに加わったラムジー、そしてホブス父娘、ミスター&リトル・ノーバディに、今回作戦に協力したデッカードまでが招かれるという、かつての敵までを味方にしてしまうドムの包容力によってファミリーは拡大していく様は、「ドラゴンボール」を連想させる。今回のお祈りの役はドムが務め、一度は壊れかけたファミリーの絆の修復を神に感謝している。

「ワイルド・スピード ジェットブレイク」のホッピー&ラーメン

 第9作(※)「ワイルド・スピード ジェットブレイク」(2021)では、今までその存在が語られることのなかったドムの弟ジェイコブ(ジョン・シナ)が登場。サイファーらと組んでドム・ファミリーと対決する。

 飛行機事故で遭難し行方不明となったミスター・ノーバディの通信記録に、死んだはずのハンの記録があったことから調査のため東京に向かったレティとミア。ラーメンにコップに移さず瓶に口を付けて飲むホッピー(ナカなし)という奇妙な夕食をとりながらの会話は、いつ襲って来るかわからない敵に備えて酔うわけにはいかないという気持ちの表れなのだろう。その予感は当たり、二人は重要な手がかりをつかんで修羅場に向かっていく。

 一方、ドムの指示でドイツのケルンに向かったローマンとテズは、車載ロケットエンジンを研究中のショーン、トゥインキー、東京時代からの仲間アール(ジェイソン・トビン)と接触。ショーンは三作目のラストで東京に訪ねてきたドムと会って以来連絡を取り続けていたようだ。TOKYO DRIFT組とは初対面のローマンはトゥインキーの名前を聞いて「それじゃお前とお前は『ディンドン』と『スノーボール』か」と言う。いずれもトゥインキーの元販売元ホステス社で出していたお菓子の名前(INGDONG、Snoballs)である。

 そして「亀田の柿の種」を食べながらのハンの復活。レティの復活もそうだったが、後付けの理屈はあるものの不自然さは禁じ得ない。これは一体どういうことなのか。

 今回、ローマンのセリフに以下のようなものがある。

危険な任務をいくつもこなして俺たちはいつも生き残ってきた。

運じゃない。考えてみろよ。(中略)俺には傷ひとつない。(中略)俺たちは車や列車、戦車と戦った。潜水艦もだ。でも生きてる。

そうとも、俺たちは特別な存在だ。

 この主張はテズとラムジーによって一笑に伏されてしまうのだが、現実世界でポール・ウォーカーという主役の一人を失い、もう誰も失いたくないという作り手側の願望を代弁しているように思えてならない。今回、ハンだけでなくショーン、トゥインキー、アールといったTOKYO DRIFT組やレオ、サントスといったドミニカ組まで復活させ、ブライアンが生きていると匂わせる描写を入れたのも、その裏付けと思えるのだが。

 シリーズはあと2作で完結する予定だが、そのポール・ウォーカーが演じたブライアンをどうするのかが、筆者にとっての最大の関心事である。

「ワイルド・スピード/スーパーコンボ」(2019)はスピンオフ作品。


【ワイルド・スピード EURO MISSION】

「ワイルド・スピード EURO MISSION」(2013)

作品基本データ
原題:FAST & FURIOUS 6
製作国:アメリカ
製作年:2013年
公開年月日:2013年7月6日
上映時間:130分
製作会社:Etalon film, Original Film
配給:東宝東和
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジャスティン・リン
脚本:クリス・モーガン
製作総指揮:ジャスティン・リン、アマンダ・ルイス、サマンサ・ヴィンセント、クリス・モーガン
製作:ヴィン・ディーゼル、ニール・H・モリッツ、クレイトン・タウンゼンド
撮影監督:スティーヴン・F・ウィンドン
プロダクション・デザイン:ヤン・ロールフス
音楽:ルーカス・ヴィダル
編集:クリスチャン・ワグナー、ケリー・マツモト
衣裳:サーニャ・ミルコヴィッチ・ヘイズ
キャスト
ドミニク・トレット:ヴィン・ディーゼル
ブライアン・オコナー:ポール・ウォーカー
ルーク・ホブス:ドウェイン・ジョンソン
レティ・オルティス:ミシェル・ロドリゲス
ミア・トレット:ジョーダナ・ブリュースター
ローマン・ピアース:タイリース・ギブソン
テズ・パーカー:クリス・リュダクリス・ブリッジス
ハン:サン・カン
エレナ・ネベス:エルサ・パタキー
ジゼル・ヤシャール:ガル・ギャドット
オーウェン・ショウ:ルーク・エヴァンス

(参考文献:KINENOTE)


【ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT】

「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」(2006)

作品基本データ
原題:The Fast and the Furious: Tokyo Drift
製作国:アメリカ
製作年:2006年
公開年月日:2006年9月16日
上映時間:104分
製作会社:ニール・H・モリッツ・プロダクション
配給:UIP
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジャスティン・リン
脚本:クリス・モーガン
製作総指揮:クレイトン・タウンゼンド
製作:ニール・モリッツ
撮影:スティーヴン・ウィンドン
プロダクションデザイナー:アイダ・ランダム
音楽:ブライアン・タイラー
編集:フレッド・ラスキン、ケリー・マツモト
衣装デザイン:サーニャ・ミルコヴィック・ヘイズ
テクニカル・アドバイザー:トシ・ハヤマ
スーパーバイジング・テクニカルコンサルタント:土屋圭市
キャスト
ショーン・ボズウェル:ルーカス・ブラック
ニーラ:ナタリー・ケリー
トゥインキー:バウ・ワウ
タカシ:ブライアン・ティー
ハン:サン・カン
アール:ジェイソン・トビン
レイコ:北川景子
カマタ:千葉真一
ボズウェル大尉:ブライアン・グッドマン
ボズウェル大尉の彼女:真木よう子
数学教師:柴田理恵
メインスターター:妻夫木聡
熊の刺青の男:KONISHIKI
釣り人:土屋圭市

(参考文献:KINENOTE)


【ワイルド・スピード SKY MISSION】

「ワイルド・スピード SKY MISSION」(2015)

作品基本データ
原題:FAST & FURIOUS 7
製作国:アメリカ
製作年:2015年
公開年月日:2015年4月17日
上映時間:138分
製作会社:Universal Pictures, Relativity Media, Dentsu
配給:東宝東和
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジェームズ・ワン
脚本:クリス・モーガン
製作総指揮:サマンサ・ヴィンセント、アマンダ・ルイス、クリス・モーガン
製作:ニール・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、マイケル・フォトレル
撮影:スティーヴン・ウィンドン
プロダクション・デザイン:ビル・ブルゼスキー
音楽:ブライアン・タイラー
編集:レイ・フォルサム・ボイド、ディラン・ハイスミス、クリスチャン・ワグナー
衣裳デザイン:サーニャ・ミルコヴィック・ヘイズ
キャスト
ドミニク:ヴィン・ディーゼル
ブライアン:ポール・ウォーカー
ホブス:ドウェイン・ジョンソン
レティ:ミシェル・ロドリゲス
ミア:ジョーダナ・ブリュースター
ローマン:タイリース・ギブソン
テズ:クリス・リュダクリス・ブリッジス
エレナ:エルサ・パタキー
ショーン:ルーカス・ブラック
デッカード・ショウ:ジェイソン・ステイサム
モーゼ・ジャカンディ:ジャイモン・フンス―
ラムジー:ナタリー・エマニュエル
キエット:トニー・ジャー
カーラ:ロンダ・ラウジー
ミスター・ノーバディ:カート・ラッセル

(参考文献:KINENOTE)


【ワイルド・スピード ICE BREAK】

「ワイルド・スピード ICE BREAK」(2017)

作品基本データ
原題:THE FATE OF THE FURIOUS
製作国:アメリカ
製作年:2017年
公開年月日:2017年4月28日
上映時間:136分
製作会社:Original Film, One Race Films
配給:東宝東和
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:F・ゲイリー・グレイ
脚本:クリス・モーガン
製作総指揮:アマンダ・ルイス、サマンサ・ヴィンセント、クリス・モーガン
製作:ヴィン・ディーゼル、マイケル・フォトレル、ニール・モリッツ
キャラクター設定:ゲイリー・スコット・トンプソン
音楽:ブライアン・タイラー
キャスト
ドミニク・トレット:ヴィン・ディーゼル
ルーク・ホブス:ドウェイン・ジョンソン
レティ・オルティス:ミシェル・ロドリゲス
サイファー:シャーリーズ・セロン
デッカード・ショウ:ジェイソン・ステイサム
ミスター・ノーバディ:カート・ラッセル
リトル・ノーバディ:スコット・イーストウッド
エレナ・ネベス:エルサ・パタキー
ラムジー:ナタリー・エマニュエル
ローマン・ピアース:タイリース・ギブソン
テズ・パーカー:クリス・リュダクリス・ブリッジス
マグダレーン・クイーニー・ショウ:ヘレン・ミレン

(参考文献:KINENOTE)


【ワイルド・スピード ジェットブレイク】

「ワイルド・スピード ジェットブレイク」(2020)

公式サイト
https://wildspeed-official.jp/
作品基本データ
原題:FAST & FURIOUS 9
製作国:アメリカ
製作年:2020年
公開年月日:2021年8月6日
上映時間:143分
製作会社:Original Film, One Race Films, Perfect Storm production
配給:東宝東和
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジャスティン・リン
脚本:ダン・ケイシー、ジャスティン・リン
原案:ジャスティン・リン、アルフレッド・ボテーロ、ダン・ケイシー
製作:ニール・H・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、ジェフ・キルシェンバウム、ジョー・ロス、ジャスティン・リン、クレイトン・タウンゼント、サマンサ・ビンセント
キャラクター原案:ゲイリー・スコット・トンプソン
撮影:スティーヴン・F・ウィンドン
美術:ヤン・ロールフス
音楽:ブライアン・タイラー
編集:ディラン・ハイスミス、ケリー・マツモト、グレッグ・ダウリア
キャスト
ドミニク・トレット:ヴィン・ディーゼル
レティ:ミシェル・ロドリゲス
ローマン:タイリース・ギブソン
テズ:クリス・リュダクリス・ブリッジス
ミア:ジョーダナ・ブリュースター
ラムジー:ナタリー・エマニュエル
ハン:サン・カン
クイーニー:ヘレン・ミレン
サイファー:シャーリーズ・セロン
ジェイコブ・トレット:ジョン・シナ

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。