怪獣は美味「三大怪獣グルメ」

[230]

6月に入り、コロナ禍によって休館していた全国の映画館が座席を一席ずつ空ける等の感染症対策を施した上で営業を再開した。約2カ月ぶりとなる待望の映画館での映画鑑賞。その中で、昭和の特撮映画と「ウルトラマン」(1966)等の特撮TV番組で育った筆者にとっては原点回帰となる怪獣映画があった。それが今回紹介する「三大怪獣グルメ」である。

ゴジラのルーツはタコだった?

 本作は熱烈な特撮マニアとして知られ、「電エース」シリーズ(1989〜)をはじめ「日本以外全部沈没」(2006)、「ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発」(2008)、「地球防衛未亡人」(2014)、「大怪獣モノ」(2016)といった特撮パロディ映画を撮ってきた河崎実監督が、「特撮の神様」円谷英二と2019年に亡くなった「東映特撮の父」矢島信男にオマージュを捧げた、監督の集大成的な作品である。また、TVドラマ「孤独のグルメ」(2012〜)の原作者・久住昌之が監修に名を連ね、グルメレポーター役で出演もしている。

 怪獣のデザインは「電エース」シリーズで電次郎を演じる漫画家の加藤礼次朗によるものだが、河崎監督が「えびボクサー」(2002)のパロディとして撮った「いかレスラー」(2004)に登場したタコ、イカと「かにゴールキーパー」(2006)のカニが原型になっている。

 ストーリーは、かつて超理化学研究所で食糧問題解決のために生物を巨大化させるセタップ細胞を研究していた下町のすし屋のせがれ田沼雄太(植田圭輔)が、神社に奉納しようとしていたタコ、イカ、カニを何者かに盗まれ、それらが巨大化して東京の街で暴れ始める。タッコラ(巨大タコ)、イカラ(巨大イカ)、カニーラ(巨大カニ)と名付けられた「海の幸怪獣」たちがバトルロイヤルを繰り広げる中、カニーラのはさみで切断されたタッコラやイカラの脚が驚くほど美味であることが判明。巷にカイグル(怪獣グルメ)ブームが巻き起こる中、怪獣対策組織SMAT(SEAFOOD MONSTER ATTACK TEAM)に加わった雄太は、友人でかっぱ橋の洋食器店の跡取り新実善五郎(横井翔二郎)と協力し、新国立競技場を丼に見立てた「海鮮丼作戦」を決行するというもの。

カニーラが切断したタッコラの足を用いたグリルステーキは、舌がとろけるほどの美味であった。
カニーラが切断したタッコラの足を用いたグリルステーキは、舌がとろけるほどの美味であった。

 河崎監督によると、この突飛なアイデアの源は戦時中に円谷英二が構想していた巨大タコの登場する怪獣映画にあるという。海から上陸した巨大タコが大日本帝国軍の「酢鉄砲」で退治され、酢ダコとして帝国臣民の滋養となるという企画が陽の目を見ることはなかったが、戦後形を変えて「ゴジラ」(1954)という大ヒット映画になり、巨大タコ自体は「キングコング対ゴジラ」(1962)、「フランケンシュタイン対地底怪獣」(1965)、「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」(1966)等の円谷英二が特技監督を務めた作品に登場することになった。また「酢鉄砲」は、本作のSMATの秘密兵器「酢砲」として、映画に初登場した。

 善五郎がリモコンで操縦する「ジャンボコック」は、かっぱ橋名物のコック像をロボット化したものだが、矢島信男が特撮を担当した横山光輝原作の特撮TV番組「ジャイアントロボ」(1967)の主役ロボットがモチーフ。手に仕込んだ包丁を振り回して海鮮丼作りに一役買っている。

カイグルブーム到来

 本作のハイライトは、厳密な検査によって安全性が確認されたタッコラとイカラの肉を一流レストランのシェフ(村西とおる)が調理し、SMATの隊員たちが試食する場面である。

タッコラのカルパッチョ

タッコラのグリルステーキ

タッコラのフリット

タッコラと枝豆のリゾット

イカラのバターソテー

イカラのトマト煮

イカラのアヒージョ

 これらを口にした隊員たちはあまりのおいしさに任務も忘れ、一心不乱に食べ続ける。セタップ細胞の本来の目的であった食用としての有効性が実証され、怪獣肉は一般に流通。和・洋・中さまざまな料理に利用され、“タコる”、“イカる”、“カニる”が流行語になる等、怪獣肉が人気を博していく様子を、本作は社会風刺として描いている。

ツインテールと怪獣酒場

「帰ってきたウルトラマン」に登場のツインテール。美味のためグドンにつけ狙われる。
「帰ってきたウルトラマン」に登場のツインテール。美味のためグドンにつけ狙われる。

 さて、“怪獣少年”だった筆者が最初に食として意識した怪獣は「帰ってきたウルトラマン」(1971)の第5話・第6話に登場した古代怪獣ツインテールである。怪獣ブームの仕掛人だった大伴昌司著「怪獣図解入門」によると肉がやわらかくおいしいとあり、そのために地底怪獣グドンにつけ狙われるという設定であった。

 一体どんな味なのか食べてみたいと思ったまま月日は流れ、中年になった2014年、その夢を現実にできる機会を得た。神奈川県川崎市に期間限定でオープンした「怪獣酒場」のメニュー「ツインテールフライ」がそれ。要はツインテールを模したエビフライだが、筆者のイメージしていた通りの味であった。「怪獣酒場」はその後常設店舗として復活し、支店「怪獣酒場 新橋蒸溜所」では「ツインテールカツサンド」も提供している。興味のある方はご賞味いただきたい。

怪獣酒場 スペシャルメニュー
http://kaiju-sakaba.com/kawasaki/menu/special.html
怪獣酒場 新橋蒸溜所 スペシャルメニュー
http://kaiju-sakaba.com/shimbashi/menu/special.html

 河崎監督もツインテールのことは脳裏にあったようで、本作でSMATの隊員がジープに酢砲を搭載してタッコラとイカラを攻撃する場面は、「帰ってきたウルトラマン」第6話でMATがツインテールを攻撃する場面を模している。

おわりに

 本作はコロナ禍以前に東京オリンピックにあやかって製作されたが、その思惑は見事に外れた。しかし、怪獣騒動の3年後に当時を振り返るという構成と、初動の遅れがなければ長期戦にはならずに済んだという元SMAT司令・響(木之元亮)のセリフは、コロナの収束が見通せない我々の現在の状況と偶然にもマッチしている。


【三大怪獣グルメ】

公式サイト
https://sandaikaijyu.pal-ep.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2020年
公開年月日:2020年6月6日
上映時間:84分
製作会社:「三大怪獣グルメ」製作委員会(制作プロダクション:リバートップ)
配給:パル企画
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督・特撮監督:河崎実
監修:久住昌之
脚本:右田昌万、河崎実
製作総指揮:藤田浩幸、後藤明信、鈴木ワタル、大橋孝史、河崎実
企画:石黒研三、前田章利、伊藤明博、岩村修
プロデューサー:河崎実、佐熊慎一
怪獣デザイン・イラスト:加藤礼次朗
撮影:松尾誠、佐々木雅史
音楽:アサカコウギ
主題歌:キュウソネコカミ
録音:相田義敦
音響効果・編集:川﨑雄太
照明:斉藤久晃
スチール:長尾有紀子、縄島明彦
VFX:人見健太郎
特殊造形:梶康伸
タイトルロゴ・宣伝デザイン:小松清一
キャスト
田沼雄太:植田圭輔
星山奈々:吉田綾乃クリスティー(乃木坂46)
彦馬新次郎:安里勇哉(TOKYO流星群)
新実善五郎:横井翔二郎
響司令:木之元亮
グルメレポーター:久住昌之
一流シェフ:村西とおる

(参考文献:KINENOTE)

アバター画像
About rightwide 348 Articles
映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。