貿易等の外交交渉に関わる国内対応(1)

TPPについて関心が高まっている。これは参加するしない、賛成反対などの0/1で語られることが多いが、外交である限り交渉事である。では、一般にこの種の外交交渉がどのようなプロセスを踏むものか、これまでの事例を参考に紹介する。

1 外交交渉の国内対応の必要性

 外交交渉というと、国内外の関係国交渉担当者が直接議論するシーンが通常想起されると思われるが、内容によっては、それと並行・前後しての国内対応が重要になる。国内対応が不十分では、外交交渉の結果条約等が調印されても、国会で承認が得られない、または条約を実施するための国内法が成立しないこととなり、条約の実際の効力が生じないこととなる。

 それを防ぐために実際にどのような対応が行われているかを紹介する。

 なお、署名された条約が、与党が多数派である国会で承認されるのは当然と考えられる人もいるが、そうではない。

 わかりやすい例として内閣提出法案の成立率が高い理由について説明する。

 内閣提出法案の成立率は極めて高く、会期によっては100%成立することもあるが、これは国会(衆議院)の多数派である与党国会議員が法案に賛成する義務があるからではない。

 国会提出前に関係する国会議員に行政府側が法案に賛成されるように説明し、それを踏まえて、与党機関(政務調査会およびその下部機関の各部門会議または各部会等)で内閣提出法案に対する賛否が決定され、それから国会に法案は提出される。

 これを踏まえ、党議拘束のもと国会(衆議院)の多数派である与党国会議員が法案に賛成するため、国会に提出された内閣提出法案の成立率は高い。

 元に戻って、外交交渉の国内対応の実例を差しさわりのない範囲で説明する。これは、外交交渉が単に直接の担当者だけでなく、各省庁、国会議員までかかわる事柄であることをご理解いただくためのものである。

2 外交交渉の国内対応の実例

(1)実例1 平成9年に第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で採択された気候変動枠組条約に関する議定書(京都議定書)対応

 同議定書で温室効果ガスの削減目標が定められたが、その実施のための国内法において、大規模な温室効果ガス排出者等について排出量削減が求められることとなった。

 温室効果ガスを排出するある産業においては、その最も大規模なクラスの生産者が温室効果ガス排出の削減対象となる排出者となることが予想された。

 その産業においては、規模拡大を行政として推進しており、その中で、温室効果ガス排出を削減するためにトップクラスの経営規模を縮小することを求めることは難しいところであった。

 そこで、これに対しては、その産業から排出される温室効果ガスの排出量を削減する研究等を行い、京都議定書に対応することとなった。

 それは、国内対応を行わずに署名すると、この問題について国会承認手続き時に批判が生じる等の問題が予想されたからである。

(2)実例2 日本とアジア諸国とのFTA交渉

 この場合、とくに人件費等が低い諸国との貿易における輸入関税引き下げが国内産業へ与えるマイナス影響が一つのテーマになる。

 輸出先の輸入関税の引き下げによる国内産業へのプラス影響も当然あるが、行政的には、まずは、マイナスの影響への対応が必要となる。

 準備段階として、同じ産品(と言っても外国産で消費者から完全に国産品と同じと評価されるものはないが)を生産するに当たっての相手国と国内でのコスト比較がしばしば行われる。

 土地代と人件費のコストの内外差が目立つことはもちろんであるが、その他のコスト差をどう縮め(あるいは逆転させ)、また、国産品プレミアム(消費者の選好による価格差)でコスト差をどうカバーするかが課題となる。

 なお、国産品プレミアムは我が国特有の現象ではなく、米国においても生産者団体が産地国表示を政府に求めており、自国産プレミアムがあることを示している。

 すなわち、日本の消費者は日本産品を外国産品より高く評価するというだけではなく、自国産プレミアムがある程度各国共通に存在すると考えられ、その理由については今後検討が期待されるが、その計算・予想は難しい。

 私見であるが、「科学的」な品質評価とは別の本能的・感覚的評価基準を人類は持っており、また、それにより科学により明確化する以前のリスクを事前に察知・排除して来た面があるのではと思われる。

 さまざまなリスクは、相当顕在化してから科学の領域で取り扱われることとなるが、当初の科学を特段踏まえない対応が、後から振り返るとそれなりに合理的対応であったと考えられることも多いと見られる。

※ (2)は明日掲載します。

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About 高木正雄 6 Articles
中央官庁室長級 たかぎ・まさお 現役中央官庁官僚。6本以上の法案作成に関与。大学講師(食品・法学)兼務。編著書は法律解説書、雑誌記事他計20冊(件)以上。