畑の土 viii/褐色森林土(1)

褐色森林土の圃場断面標本(モノリス)
褐色森林土の圃場断面標本(モノリス)左右ともに北海道の畑地のもの/世界のプラウと土の博物館土の館(北海道・上富良野)所蔵

褐色森林土の圃場断面標本(モノリス)
褐色森林土の圃場断面標本(モノリス)左右ともに北海道の畑地のもの/世界のプラウと土の博物館土の館(北海道・上富良野)所蔵

日本の畑でよく見られる土が褐色森林土です。これは、同じ森林でも針葉樹ではなく、落葉する広葉樹が分布する地域で作られる土です。

日本の畑に多い褐色森林土

 褐色森林土はみなさんが最もよく見ている種類の土壌です。「褐色」というのはややよそ行きの言い方です。「黄土色の土」と言えばわかりやすいでしょう。

 さて、この土は国内の多くの畑で見ることができますが、「これがそうです」と示したとき、おそらく多くの場合「褐色でも黄土色でもないではないか」と言われると思います。というのも、たいていの畑の表層は農家の手が加わっていて、褐色からもっと黒みがかってしまっているからです。土壌学の分類上は褐色森林土であっても、我々の目に入ってくるのは黒褐色であることが多いのです。

 また、「森林」というのもピンと来ないでしょう。しかし、多くの畑は元々が雑木林や原野を開墾して作ったものです。そこで、ある畑が森林であった段階の土の状態を振り返っていってみましょう。

針葉樹林と広葉樹林で土壌の種類は異なる

 まず雑木林に出かけましょう。雑木林ではさまざまな種類の木が繁茂しています。その種類は、大きく分けると2種類になります。つまり、針葉樹と広葉樹です。もともとの森林の段階で、このどちらが茂る場所であったかによって、そこに出来上がる土壌の種類は違ってきます。この違いは大きく重要なものです。

 まず広葉樹ですが、これはいわば南方系の樹木と言えます。これは温暖な地域では大いに葉を茂らせ、葉は大形でその葉面積も大きくなります。したがって、葉からの蒸散も盛んです。

 それに比べて、針葉樹は寒冷な地で生育する樹木です。寒気に耐えるために葉は硬く、一つひとつの表面積が小さな葉が集まる形をとっています。したがって、こちらは葉からの蒸散量も少ないものです。

 また、樹皮を見ると、広葉樹は軟らかく、針葉樹は硬いという違いもあります。

 それから、広葉樹も常緑樹は字のごとく通年葉をつけていますが、北の方に分布するものは冬の寒気に耐えるために落葉して身を守ります。このようなものを落葉広葉樹と称しています。

 この落葉広葉樹がポイントです。落葉した葉には、土壌を改良する要因となる物質が含まれているのです。畑になる前に針葉樹林であったか広葉樹林であったかで、出来上がる土壌の種類が違うというのはこれによります。

落葉広葉樹が作る良質な土

 落葉広葉樹林の場合、その土壌はカルシウムとマグネシウムをはじめとする各種成分を多く含むことになります。とくにカルシウムとマグネシウムは針葉樹の葉には少ないのですが、広葉樹にはかなり含まれています。

 このことにより、広葉樹の場合、地上に落ちた葉は土壌微生物によって速やかに分解されます。と言うのは、カルシウムを豊富に含む落葉は、微生物にとっての栄養として優れているということと、周辺のpHを低くしないで、ある程度中性に保つためです。これはバクテリアが働きやすい環境ということになり、地上に落ちた落葉が腐植になるプロセスがスムーズに進むことになります。

 逆に、カルシウムが少なくて酸性に傾いた状態であると、これはカビの仲間には都合がよいのですが、カビは有機物の原型があるような段階ではよいのですが、それが分解されてしまい、細かな有機物が主体になったような状態ではバクテリアの働きが勝ってきます。

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About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。