農地の貸し借りが進まないのにはわけがある/「農地中間管理機構」について思うこと(1)

2014年度からの政治改革について最も注目を集めているのは消費税の増税でしょうが、農業関係者の贔屓目でなければ農業についての施策も負けず劣らずに相当大規模なものが予定されています。今回は、そのうちの一つである農地中間管理機構について思うことを書いてみます。

農地の集積を加速する意図

 なお、私は稲作の専業農家であって、それ以外の野菜などについては詳しくないので、以下はほぼ稲作農家としての視点で書いていきます。

 農地中間管理機構の創設・運用は、今般の農政改革の最大の目玉とされています。予算についても2013年度の農水の補正予算のうち2割ほど(約850億円)をこの中間管理機構と農地整備に割いており、その本気度がうかがえます。

 どういう制度かを簡単に言うと、各都道府県に設置される農地中間管理機構が地域から農地を借り受け、必要とあれば基盤整備などを行った上で生産者に農地を貸すという仕組みで、借り手ができるだけ効率的な農作業ができるように農地を集積できるような仕組みが盛り込まれ、また農地の集積を加速するために貸し手に手厚い支援を施しています。

 具体的には機構が地域から農地を借り受ける際はその地域に「地域集積協力金」として10a当たり2~3万6000円を、また個々の出し手に対しても、その出し手が経営転換やリタイアするならば1戸当たり30~70万円の「経営転換協力金」が支払われます。また農地の集積の促進のため、機構が持つ借り受け農地に隣接した農地を貸し出すならば「耕作者集積協力金」として10a当たり2万円が支払われます。

 農地の貸し借りについて、個々の地主との相対交渉では往々にして、飛び飛びになっている小規模な農地を借りることになりがちですが、農作業としては非効率的になります。それを避けさせる仕組みです。

 また機構が農地を借り受けてから実際に貸し出すまでの間、その農地は機構が管理することになります。機構の事業資金はほとんどが国庫負担になりますが、その割合は貸し出し面積が多いほど国庫負担額も多くなる仕組みで、農地の貸し出しを積極的に行わせようという意図が見えます。

誰にも貸されない耕作放棄地が増えている

 実感に基づいて言いますと、これまで農地の貸し借りの基本は地主と生産者の相対交渉で、貸し手側が自分の財産である農地を他人に任せるのが不安であったり、借りる側としてもいつなんどき地主の気分が変わるかわからない(たとえば農地の貸し剥がし。農地を更地にして家を建てたいので耕作は止めろと言い出されると生産者は基本的にどうしようもない)、また先ほども挙げたように農地のまとまりが悪いことが多かったり、などといった問題がありました。

 そのため農地を借りたい新規就農者が条件のよい農地をなかなか借りられなかったり、誰にも貸されない耕作放棄地が増えて、有効な農地利用がなされていないという指摘が以前からずっとありました。

 農地の活用について、もともとこのように農地の貸し借りについて仲立ちになる組織がなかったわけではありません。農業委員会があったり、JAが相談を受けたり、2010年からは農地利用集積円滑化団体というのが設立されていました。しかしそれらがさほど成果を挙げていないと現政府が見て取ったのか、この農地中間管理機構の設立が目玉クラスの施策として立ち上がったという流れです。

 これは、理想通りうまくいけば非常に農家の助けになるだろうとは思います。ただ、現場にいる農家の一人として、ちゃんと理想通りに動くかは疑問がありますし、そもそもこの政策が最大の目玉となることそのものに違和感があります。

「あいつには貸したくない」はどうなる?

 実際の運用についても懸念があります。これまで農地の貸し借りのネックになっていたとされるのは、貸し出したくない地主の存在です。先に書いたように、自分の財産である農地を見ず知らずの他人に任せるのには不安があるものです。この問題に対して、機構はお金と「機構は国が運営する」という威信でもって対策にしているように思います。が、それは本当に対策として有効なのでしょうか。

 絶対に誰にも貸したくないと考えている地主に対しては、おそらくあまり意味はないでしょう。もっとも、そういう人は限られている気がしますが。つまり、「貸すに値する相手になら貸してもいい」と考えている人はけっこういます。“貸すに値する相手”とは、いろいろ条件はあるでしょうが農業においてはやはり、その農地をきれいに扱う人かどうかです。

 たとえば農作業で、大型タイヤをつけたトラクターが泥の塊を撒き散らしながら農道を走り回ることが頻繁にあるのですが、農家の中にはそういう泥を片付けないまま放置する者がいます。また田んぼの畦や田面内の雑草も処理に熱心でない、というかほとんどほったらかしなところは遠くから見ても一目でわかり、農家の中ではかなりみっともないこととして認識されています。みっともないだけでなく、害虫や病気の防除のことを考えると大きな問題となります。

 そういうところに無頓着な農家はたいていの所で嫌われ、まとまった農地が空いていて他の人に耕作して欲しいと考えていても、「あいつには貸したくない」と言われる農家は実際にいます。

 農地中間管理機構の事業下では、そういう貸し手と借り手の直接の関係はいったん縁が切られ、双方の思惑は棚上げにされます。借り手としては、そういう折衝を機構が肩代わりしてくれるならラッキーとでも思いそうですが、間に立つ担当者は大変そうですね。

 もっとも、それは関係者ががんばればいいじゃんと言われればそれまでのような気がしなくもない話です。まるでブラック企業の論理のように思えますけど、少なくとも機構そのものの欠点とは違い、いわば弊害とでも言えそうなもので、運用がこなれていくうちに解決されていくかもしれません。

 とは言え、そもそも2013年冬に立ち上がった政策が2014年春からいきなり動くというのも相当ストレスがかかりそうなもので、私は昨年の12月に地域の農政局で行われた農地中間管理機構に関する説明会のようなものに参加しましたが、結局のところ県の担当者でも新聞発表+α程度の情報しか持っていないため、農家としてはなおさら「ちゃんと動くのかなあコレ」と思います。

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農家 こうめ 石川県出身。3年間の会社勤めを経て、両親が従事していた稲作専業の農家に。大面積での大量生産よりは、量を絞ってもおいしい米にこだわって、その分やや高いお値段をいただく経営方針。農業での農薬の使用について、さまざまな誤解が広まっている現状を何とかできないかと考えている。ニセ科学批判や医療問題などにも興味がある。ブログ:【農家こうめのワイン】 過去に作ったコンテンツ:【基準値を通して安心するために】(農産物の残留農薬基準値についての解説)/【医療問題を注視しる!】(今の日本の医療が置かれている現状と問題について)