台所で肉の汚染はどう拡散?

No.12(2025.06.11)

"Don't Touch Raw Chicken"(BfR) より

国立医薬品食品衛生研究所が集めた食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報から。ドイツBfRは、生の鶏肉からの細菌拡散の様子をブラックライトで可視化した動画を公開。発光ペーストで汚染経路を視覚化し、交差汚染や手洗い、器具の使い分け、十分な加熱など台所での衛生管理の重要性をわかりやすく示している。生肉は直接手で触らず、作業後は必ず手洗いを行うべきと強調。

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【ドイツ】台所で病原体が拡散する様子をブラックライトで可視化

 生の鶏肉は、カンピロバクターやサルモネラなどの病原菌に汚染されていることが多い。これらの病原菌はヒトの食品由来感染症の原因となり、単に健康を害するだけでなく、感受性が高い人が感染すると重症化や死亡に至る可能性がある。ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR: Bundesinstitut für Risikobewertung)は、衛生に配慮しない場合に台所で気付かないうちに容易にこれらの細菌が拡散していく様子を衝撃的な映像を用いて紹介する動画を作成した。この動画では、可能性として考えられる拡散経路がブラックライトで可視化され、台所での衛生管理が食品由来感染症の予防において重要であることを強調している。

※BfRのWebサイトの当該ページ: https://www.bfr.bund.de/presse/mediathek/video/dont-touch-raw-chicken/

※BfRのYouTubeチャンネルの当該動画: https://youtu.be/1BXIYkde7Bg?si=LKvB4a9iylHv3W9U

 カンピロバクターやサルモネラなどの食品由来病原体は家畜に幅広く存在している。動物が感染しても通常は発症しない。しかしながら、これらの病原体は、動物の屠畜時や食肉加工時に食品の表面や内部に移行する可能性がある。食肉の包装容器も外部から細菌に汚染される可能性がある。この動画では、ブラックライトを当てると発光する特殊なペーストを使用し、細菌汚染のシミュレーションを紹介している。これにより、台所で手・表面・調理器具などを介して食肉から調理済み食品へと細菌が移行する経路が可視化される。

 動画の冒頭部では、発光ペーストが流水によってシンクの内外に飛散する様子が映し出され、生の鶏肉を流水で洗浄することが望ましくない理由が明らかにされている。このように、食肉と直接的には接触のない区域でも細菌に汚染されることがある。食肉加工時はフォークやトングなどを使用し、素手では食肉に触らないことが最良の対応である。もしくは、作業後に毎回十分に手を洗うべきである。汚染された手で顔や台所用品などに不注意に触れてしまうと、病原体を拡散させる可能性がある。サルモネラは環境中で長期間生残可能であることから、感染リスクも長期間持続する可能性がある。

 一般的な衛生慣行としての手洗いに加え、台所での適切な衛生管理のための基本原則の1つとして、調理の際に生肉と果物・野菜とで調理器具を使い分けることが挙げられる。この方法により、生のまま喫食する食品、または長時間の加熱はせずに喫食する食品への細菌の移行(交差汚染)を防ぐことができる。また、病原体は、煮る・焼く・揚げる・蒸すなどの加熱調理によって死滅することから、十分に加熱された食肉を喫食する場合は食品由来感染症のリスクはない。このため食肉は、全体の温度が70℃に達してから2分間以上加熱すべきである。適切に調理された食肉は、切り分けた際に内部を見ると中心部まで十分に火が通った状態(well-done)である。

 台所での衛生管理に関するこれらの原則は、鶏肉の調理に限らず、その他の食肉や動物由来食品全般に適用される。食品は、カンピロバクターやサルモネラに汚染されても腐敗しないことから、消費者は食品の外見や臭いから細菌汚染を認識することができないため、上記の原則を守ることが特に重要である。

 ドイツでは、細菌・ウイルス・寄生虫などに汚染された食品が原因と考えられる患者が毎年約10万人報告されているが、全ての患者が報告されているわけではないため、実際の患者数はこれよりはるかに多いと考えられる。

目次

【米国疾病予防管理センター(US CDC)】

1. キュウリに関連して複数州にわたり発生しているサルモネラ(Salmonella Montevideo)感染アウトブレイク(2025年5月30日付更新情報)

2. ペットのアゴヒゲトカゲ(bearded dragon)に関連して複数州にわたり発生したサルモネラ(Salmonella Cotham)感染アウトブレイク(2024年12月10日付最終更新)

【カナダ公衆衛生局(PHAC)】

1. 公衆衛生通知:輸入ペストリー製品に関連して発生した(Salmonella Enteritidis)感染アウトブレイク(2025年3月19日付最終更新)

【欧州委員会健康・食品安全総局(EC DG-SANTE)】

1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)

【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】

1. 食品由来感染症に関する新しい動画:適切な衛生管理対策を実施しない場合に台所で病原体が拡散する様子をブラックライトにより可視化

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
食品安全情報(微生物)No.12(2025.06.11)
https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2025/foodinfo202512m.pdf