「クリスピー・クリーム」の甘い甘いドーナツに大行列の謎

12月15日、新宿サザンテラス(髙島屋タイムズスクエアのペデストリアンデッキから山手線を挟んだ向かい側、JR東日本本社のある辺り)に、ドーナツの「クリスピー・クリーム」(Krispy Kreme)日本1号店がオープンした。


南新宿、サザンテラスに異変。
南新宿、サザンテラスに異変。

 何がすごいといって、その人だかりがすごい。営業時間が7:00~23:00なのだが、その早朝のオープンからすさまじい行列。人の列が建物をぐるりと取り囲み、そのまんま髙島屋方面への陸橋の上まで伸びてしまっている始末。この状態の待ち時間は1時間半~2時間だという。

 この行列、9時を過ぎても人は増えこそすれ、減る気配が一向にない。見れば、これから会社に行く風のサラリーマンやOLも多い。みんな10時始業の会社なのか……。全員がそうということではなさそうだ。

お寒い中、ご苦労さまです。
お寒い中、ご苦労さまです。

「あ、今『クリスピ』に着いたとこなんすけど、だめっす、たいへんす」と携帯にまくし立てている声が聞こえて来る。これは外食関係者と見た。あとはマスコミ関係者らしき人(長年この仕事をしていると、服装と目付きでわかります)。でも、これだけではない。

「『買ってきて』って頼まれて……」という女性。行列を整理しているガードマンに「じゃっ!」なんて軽く挨拶している男性。つまりは関係者が多いのだと理解する。

 店舗の特徴は、店頭がガラス張りになっていて、ドーナツを作っているところが見えること。名付けて「ドーナツ・シアター」。中でドーナツを作っているのは、機械だ。このマシンを開発したところが、米国クリスピー・クリーム・ドーナツ社の自慢。1940年代と、相当早い時期からオートメーション化に取り組み、本部は原材料供給に、店舗は製造に集中するというスタイルを作った。マクドナルドなどと同様、チェーンストアの模範的な形だが、工程を見る限り、ハンバーガービジネスよりもさらに工業化しているように見える。

機械でこね、成形し、リフトで発酵……。
機械でこね、成形し、リフトで発酵……。

 機械は見ていて面白いので、これはこれで売りになるのだろうが、日本ではどう受け取られるか。日本での対抗馬となるのは、言わずと知れた「ミスタードーナツ」だが、こちらは長年“手作り”をアピールしてきただけに、この点も見所。

 ダスキンが「ミスタードーナツ」と提携した時には、黎明期の日本の外食業界からは「なんであの会社と?」とささやかれた。米国で強いドーナツ・チェーンと言えば「ダンキンドーナツ」だったからだ。経営のフィロソフィーの部分で、トップ同士に共感があったからだと言われている。結局、「ダンキンドーナツ」はレストラン西武(当時)が提携した。

コンベア式のフライヤーでどんどん揚げる。
コンベア式のフライヤーでどんどん揚げる。

 そこでまたまた気になるのが、「ミスタードーナツ」と「ダンキンドーナツ」が日本でパートナーを得て以来40年近く、日本のどの企業も提携しなかった「クリスピー・クリーム」が、いまなぜ日本上陸なのか、という点。今まで上陸しなかった理由と、今上陸した理由、勝算――ここのところに、最も興味がかき立てられる。

 今回、サザンテラスに出店したのは、既に韓国に「クリスピー・クリーム」を出店しているロッテ(東京都新宿区、重光武雄社長)と、企業再生のリヴァンプ(東京都港区、代表パートナー、澤田貴司・玉塚元一・浜田宏)が合弁で設立した、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン(東京都渋谷区、香坂伸治社長)。香坂社長は日本マクドナルド出身だが、米国での経験が長い。米国流のチェーンストア経営に精通しているその手腕を、日本の市場でどう生かすかに注目が集まる。

グレージング(糖衣掛け)もオートマチック。
グレージング(糖衣掛け)もオートマチック。

 で、「クリスピー・クリーム」のドーナツを食べた感想を一言。甘い。

 今回食べたのは、砂糖をコーティングした「オリジナル・グレーズド」、チョコレートのやや硬めの生地に砂糖をコーティングした「オールドファッションチョコレート」、イチゴソース入りに粉糖をまぶした「パウダーストロベリー」。どれも、ひたすら甘い。

「大人にはちょっと向かないか」と言っていたら、半分に分けた「オールドファッションチョコレート」の一方を食べ終わったうちの子(小学生。甘党)が、隣で目を回しながら深呼吸していた。米国で「クリスピー・クリーム」を食べた人によれば、この衝撃的な甘さこそ、このチェーンの商品の特徴らしい。

種類は今のところ14種類の模様。
種類は今のところ14種類の模様。

 左党の妻は完全にパス。「『ミスタードーナツ』が食べたくなった」とも。この感想に共感する人がどれほどいるかはわからないが、「クリスピー・ドーナツ」の登場が、日本のドーナツ市場を活性化するということはあるだろう。今月、「ミスタードーナツ」の売上げは伸びるのではないか。

 食べてみて気付くもう一つの特徴は、ふわっと軟らかいこと。指でつぶすと簡単につぶれる。「表面はさくっとしながらも、口に入れた瞬間にとろりと溶けてしまう」というのが、このチェーンが誇る食感なのだが、軟らかさや口溶けのよさを訴える商品にかけては、日本の菓子メーカーやパンメーカー、街のベーカリーに一日の長があると考えるのは私だけだろうか。

オールディーズな雰囲気の水玉模様。
オールディーズな雰囲気の水玉模様。

 店頭には、「ホットライト」というネオンサインがある。主力商品を作っているときに点灯し、お客を誘うという。その出来立て熱々のドーナツの食感が特に自慢らしい。今回は店内と周囲がこの有様なので、持ち帰って時間が経ってから食べたので、そこのところを私はわかっていない。本当のところ、うまいのかどうなのかは、ぜひご自身でお試しを。

 ただし、1時間以上立って待つ根性は必要。くじけそうになったら、寒空の下、夜も行列している人たちのたいへんさを思って、気合いを入れよう。

夜も、お寒い中ご苦労さまです。
夜も、お寒い中ご苦労さまです。

※このコラムは個人ブログで公開していたものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →