将来の公衆衛生の課題と対応

No.22(2025.10.29)

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国立医薬品食品衛生研究所が集めた食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報から。欧州疾病予防管理センターは将来の公衆衛生上の課題を検討し、包括的な予測のための活動の過程から得られた知見をまとめた報告書を発表している。

注目記事

【欧州】公衆衛生上のレジリエンスに関する今後の道筋を策定

 欧州疾病予防管理センター(ECDC: European Centre for Disease Prevention and Control)は将来の公衆衛生上の複数の課題を検討し、これらの課題に備えるため、包括的かつ戦略的な予測のためのイニシアチブを2022年初めに開始した。ECDCはこの活動の過程から得られた知見をまとめた報告書(行動計画の一覧を含む)を発表した。

 この多様な手段を交えたアプローチは、将来起こり得るケースシナリオを描出して新たな脅威への対応策を特定することで、ECDCのレジリエンスと準備体制を強化することを目的としている。検討された多岐にわたる将来のケースシナリオにおいて、いくつかの課題が再度指摘された。

1. 気候変動

 すべてのケースシナリオで、気候変動の影響が持続または悪化することが指摘された。気温の上昇や生態系の変化により、ベクター媒介性疾患や人獣共通感染症、および食品・水由来の疾患リスクが高くなる。こうした現実から、ヒト、動物、環境の衛生を結びつける統合的な「One Health」の観点にもとづく戦略の必要性が強調されている。

2. 疾病予防の課題

 国民の信頼の低下、社会の断片化、利益重視傾向に起因する予防対策への無関心によって、予防接種やヘルスコミュニケーションなどの予防対策の実施は、今後さらに困難になる可能性がある。誤った情報の拡散も、これらの取り組みをさらに複雑にするものと予想されている。

3. 人口動態および社会的圧力

 人口の高齢化、社会的不平等の深刻化および医療へのアクセス低下が既存のシステムの負担となり、感染症アウトブレイクの温床となる可能性がある。高齢者、社会的弱者およびこころの健康状態に問題を抱えている人々などの脆弱なグループは今後増加し、多様化していく。

4. データとデジタル変革

 テクノロジーとデジタル化は、サーベイランスと医療を変革する一方で、リスクをもたらしもする。将来のシナリオによっては膨大な量のデータが利用可能になる一方、データへのアクセスが制限されるケースも起こり得る。人工知能(AI)のような新興技術も、疾病のモニタリングと対応において機会と脅威の両方をもたらし得る。

5. ガバナンスモデルの変化

 将来におけるガバナンスの変化は、公衆衛生当局に広範な不確実性をもたらす。ECDCのような組織の構造と影響力は、大幅に影響を受ける可能性がある。これらの知見にもとづき、ECDCは、長期的な準備を強化するための堅固かつ先見性の高い一連の行動計画を策定した。

コミュニケーションおよび公的関与の強化
アウトリーチ活動およびメッセージの発信力を強化し、国民からの信頼を高め、さまざまな層の人々に対する明確かつ適時のコミュニケーションを確実に行う。
データキャパシティの拡大
オープンアクセスのものからアクセス制限のあるものまで、多様なデータ環境におけるデータの有効性を維持するための最良の慣行と専門知識を開発する。
専門知識への投資
気候変動、行動科学、医療経済学、データモデリング、人工知能など、それぞれの分野の専門チームのために資源を割り当てる。
脆弱なコミュニティへの働きかけ
最もリスクの高い地域住民との関係を構築し、利用しやすく信頼性のある実行可能なアドバイスを確実に行う。
国際的な連携の推進
世界保健機関(WHO)やその他の公衆衛生機関など関連機関との協力関係を深め、欧州内外の地域において、レジリエンスのある、相互連携した対応行動ネットワークを構築する。

 本報告書にまとめられた内容は、主にECDCの今後の戦略的方向性を決定するための内部使用を目的としている。したがって、本報告書は、この将来予測プロセスから得られた詳細な内部分析・洞察・考察の高レベルな成果を、概要としてまとめたものに過ぎない。ただし、その概要は、ECDCの外部協力機関や関係者が、参考・情報・行動の指針として活用することが可能である。

(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)

目次

【米国疾病予防管理センター(US CDC)】

1. キュウリに関連して複数州にわたり発生したサルモネラ(Salmonella Montevideo)感染アウトブレイク(2025年6月30日付最終更新)

【カナダ公衆衛生局(PHAC)】

1. 公衆衛生通知:ドッグフードに関連して発生しているサルモネラ(Salmonella Oranienburg)感染アウトブレイク(2025年10月22日付更新情報)

2. 公衆衛生通知:様々なブランドのピスタチオおよびピスタチオ入り食品に関連して発生しているサルモネラ(Salmonella Havana、S. Mbandaka、S. Meleagridis、S. Tennessee、S. Anatum、S. Bareilly、S. SenftenbergおよびS. Ohio)感染アウトブレイク(2025年10月21日付更新情報)

【欧州疾病予防管理センター(ECDC)】

1. 欧州疾病予防管理センター(ECDC)が戦略的先見性にもとづき公衆衛生上のレジリエンスに関する今後の道筋を策定

【欧州委員会健康・食品安全総局(EC DG-SANTE)】

1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)

【英国保健安全保障局(UK HSA)】

1. イングランドおよびウェールズにおけるリステリア症:2024年の概要

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
食品安全情報(微生物)No.22(2025.10.29)
https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2025/foodinfo202522m.pdf