ファンタジー映画のお菓子たち(1)

ターキッシュ・ディライトを食べるエドマンド
白い魔女にもらったターキッシュ・ディライトを夢中になって食べるエドマンド

3月14日のホワイトデーを前に、店頭にはさまざまなお菓子が並んでいる。今回と次回の2回に分け、ファンタジー映画のシリーズに登場するちょっと変わったお菓子たちを紹介していこうと思う。

「ロード・オブ・ザ・リング」の「レンバス」

レンバス
葉っぱに包まれたエルフの携帯食「レンバス」。1つ食べるだけで1日たっぷり歩けるという高栄養の焼き菓子である

「ロード・オブ・ザ・リング」3部作(2001~2003年)はイギリスの作家J・R・R・トールキンが1937年から1949年にかけて著したファンタジー小説「指輪物語」(評論社、瀬田貞二・田中明子訳)の実写映画化である。

 物語は人間の他にエルフ、ドワーフ、ホビットといったさまざまな種族が存在する架空の世界である中つ国(Middle-earth)を舞台に、世界を支配する魔力を持つといわれる冥王サウロンの指輪をモルドールの滅びの山の火の中に葬るために、ホビット族のフロド(イライジャ・ウッド)、サム(ショーン・アスティン)、ピピン(ビリー・ボイド)、メリー(ドミニク・モナハン)、魔法使いのガンダルフ(イアン・マッケラン)、人間の王イシルドゥアの末裔であるアラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)とボロミア(ショーン・ビーン)、エルフ族のレゴラス(オーランド・ブルーム)、ドワーフ族のギムリ(ジョン・リス・デイヴィス)の9人の「旅の仲間たち」が指輪を狙う敵と戦いながらモルドールを目指す壮大な冒険を描いている。

 映画の第1作「ロード・オブ・ザ・リング」(2001)での旅の途中、1行はモリアという地下坑道でバルログという怪物に行く手を阻まれる。ガンダルフが身を挺して皆を通すが、怪物と共に深い谷底へと落ちていってしまい、彼を師と仰いでいたフロドは大きなショックを受ける。

 続編「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」(2002)のオープニングは、仲間たちと別れて召使のサムと2人だけでモルドールに向かうフロドがエミン・ムイルの岩山でこのときのことを回想する場面から始まる。そこで、落ち込むフロドを慰めようとサムが取り出したのがエルフの携帯食である。

「食べ物は大部分が非常に薄い焼き菓子の形をしていて、それは外側が薄いとび色に焼け、中がクリーム色をしており、あら碾きの粉でできていました。(中略)わたしたちはこれをレンバス、つまり行糧(こうりょう)と呼んでいるのです。そしてこれは人間の作った食べものよりも力がつくし、それに何といったって、クラムよりうまいですよ」(新版「指輪物語」旅の仲間(下)八章より)

 ここでいう「クラム」(たらふく)とは髭面の小人族であるドワーフの携帯食である堅い焼き菓子のことを指している。「レンバス」はそれよりも味と栄養価の点で優れていて、1つ食べれば1日たっぷり歩けるという“中つ国のカロリーメイト”である。

 世界を救うために何かを得るのではなく、人々に不幸をもたらす「指輪」を捨てるというテーマも興味深いが、この作品のもうひとつのテーマはフロドとサムの主従関係を越えた友情にあると言える。あらゆる試練を乗り越えて滅びの山に向かうフロドに示すサムの献身ぶりは、涙なくしては見れないものがある。

「ナルニア国物語」の「ターキッシュ・ディライト」

ターキッシュ・ディライトを食べるエドマンド
白い魔女にもらったターキッシュ・ディライトを夢中になって食べるエドマンド

「ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女」(2005)はトールキンの友人であるC・S・ルイスの児童文学シリーズ「ナルニア国ものがたり」(岩波書店、瀬田貞二訳)の1作目「ライオンと魔女」を映画化したものである。「ロード・オブ・ザ・リング」がすべて架空の世界を舞台にしているのに対し、「ナルニア国ものがたり」では現実世界と異世界が並行して描かれる。

 ピーター(ウィリアム・モーズリー)、スーザン(アナ・ポップルウェル)、エドマンド(スキャンダー・ケインズ)、ルーシー(ジョージー・ヘンリー)のぺペンシー家の4人兄妹は、第二次世界大戦下のロンドンから空襲を避けて片田舎に住むカーク教授(ジム・ブロードベント)の屋敷に疎開する。そこの空き部屋の衣装箪笥は別世界ナルニアにつながっていて、4人の冒険の旅が始まる。

 幕開き早々、次女ルーシーに続いてナルニアに入った次男エドマンドが雪に覆われた森の中でナルニアの支配者である白い魔女(ティルダ・スウィントン)に出会う場面がある。彼女は、彼がナルニアに伝わる予言にある彼女を滅ぼす4人兄妹の一人であることを見抜き、エドマンドから他の兄妹の居場所を聞き出そうとする。それに使ったのが彼の大好物であるターキッシュ・ディライトである。

 ターキッシュ・ディライト(ロクム)はその名の通りトルコ発祥の菓子で、イギリスには19世紀頃に伝わったと言われている。砂糖にデンプンとナッツ類を加えて固めた日本の「ゆべし」に似たもので、軟らかく弾力のある食感。物語では白い魔女がかけた魔法によって一度食べたらますます食べたくなり、食べても食べても食べ足りなくなってついには死んでしまうという麻薬のような甘い誘惑の菓子として描かれている。

 映画では、ターキッシュ・ディライトの表面にまぶした白い粉をことさら強調し、白い雪原の中で口の周りを真っ白にして夢中で食べながら兄妹を裏切ってしまうエドマンドの姿と、それを見つめる白い魔女の冷たさを表現している。

 筆者が子供の頃読んだ「ナルニアものがたり」ではこの菓子が「プリン」となっていて最初に映画を観たときには戸惑ったものだが、これは訳者の瀬田貞二が日本の子供たちにはターキッシュ・ディライトは馴染みのない菓子であるために敢えて直訳しなかった配慮によるものだという。

rightwide
About rightwide 157 Articles
映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。