日本で進化した中国料理(2)

麺料理
我が家でよく作っていた西安風と言える麺料理

日本の焼きギョーザは中国の餃子とは異なる食べ物だ。ラーメンと中国の麺料理もしかり。だが、筆者はそうした日本式の「中華料理」と本場の「中国料理」は、両方それぞれによさがあると感じている。そして、海外のよいものを日本独自の食文化に取り込む日本人の姿勢に関心を持っている。

中国の餃子の皮と日本のギョーザの皮の違い

 私が日本に来た当初は、日本の焼きギョーザには馴染みが薄く、正直言ってあまり関心もなく、きっとおいしくないだろうとも思っていた。

 しかし、日本に10年以上滞在している今では、日本の焼きギョーザは、お世辞抜きでおいしいと思えるし、好物の一つにさえなった。日本の焼きギョーザの独特のおいしさを知り、これは他の中国人にも受け入れられるだろうと確信している。

 私が当初焼きギョーザを受け付けなかったのには理由がある。実は、焼きギョーザは元々中国にもあるのだ。2種類がある。一つは、水餃子と同じように作った少し大き目の餃子を大きな平たい鍋で焼いたもの。もう一つは、家庭で残った餃子を次の日に焼いて食べるものだ。ただ、いずれにしても、これらはそれほどおいしいものと思えないのだ。

 違いは皮にある。日本の焼きギョーザの皮は機械でかなり薄く作られている。これを焼くと、サクサク、パリパリ感がおいしさを引き立てるのだ。これに対して、我々が手作りする水餃子はお湯で煮るので、皮は少し厚く、モチモチっとした食感を大切にする。ただ、この厚い皮の餃子を焼くと硬くなり、おいしくないだろう。

 この違いがわかると、水餃子を食べた私の友人が、私の自慢のニラ玉子の具をほめてくれるかわりに、「皮がおいしい」と言った理由もなるほどと思えるのだ。薄い皮で作る焼きギョーザだけ食べてきた日本人は、初めて中国の手作り水餃子を食べたとき、まず皮の食感の違いが第一印象となり、そのモチモチ感をおいしいと感じただろう。

 逆に、中国人は薄い皮で作った焼きギョーザを食べれば、焼きギョーザに対する偏見もなくなるはずだ。

水餃子と日式ギョーザ両方を味わえる幸福

 また、中国の水餃子から日本の焼きギョーザへの進化は、料理としての形だけでなく、食事としての食べ方も大きく変得ることになった。

 中国では、水餃子を大きな皿に盛り、1人20~30個程度を食べる。これは“主食”なのだ。対して、焼きギョーザは“おかず”である。焼きギョーザだけでお腹いっぱいにするのではなく、1人数個程度の焼きギョーザを食べながらご飯を食べる。日本の「中華料理店」では、ラーメンなど他の“主食”と別にオーダーするサイドメニューであることが多い。

 私は、この両方が好きである。だから、最近私たちが家で餃子を作って食べるときは、ちょっと面白い食卓になる。同じ具を使って、半分は手作りの皮の水餃子にして、あと半分はスーパーで購入してきた薄い皮で焼きギョーザにする。“和中折衷”――両方がおいしい、その両方を享受できるわけだ。料理も日中友好!(笑)

  • 水餃子
    我が家自慢のニラ卵の水餃子
  • 焼きギョーザ
    我が家でも焼きギョーザを作るようになった

本場中国でも好評な日式ラーメン

 さて、みなさん大好きなラーメンの話だ。

「中華そば」と呼ばれることもあるが、それは中国の麺の形状が日本のそばのそれと似ていたために「中華+そば」という形で呼ばれるようになったのだろう。

 日本でのラーメンの発生と普及について、さまざまな資料からわかるのは、概ねこのようなこととなる――中国の麺料理を原形に、大正時代頃から日本各地に広まり、その後日本各地でアレンジが加えられ、独自の“進化”を遂げた麺料理である。

 中国の麺料理が日本に上陸したのは、大正時代よりさらに遡る。すでに幕末から明治時代に、横浜・神戸・長崎・函館などの開港地に伝わっている。また、一説には、水戸光圀(1628~1701)が初めて中国の麺料理を日本国内で食べた人だという説もあると聞く。

 とは言え、日本でのラーメンの歴史は概ね100年ほどと考えていいだろう。この約100年間のうちに、日本の「中華料理店」や屋台の定番メニューとして広まり、現在の日本のラーメンまで発展してきた。今では、原型であり、中国に元々あった麺料理文化とは異なる、日本人に合った食文化に進化している

 中国本場の麺料理は、北から南まで、あるいは沿岸部から内陸部まで、さまざまな地域にさまざまな特徴のものがある。ただ、日本のラーメンのように、スープの味を工夫しているものはかなり少ない。今日の日本のラーメンは、豚骨、鶏ガラ、牛骨、削り節、煮干し、昆布、野菜など、さまざまな材料を組み合わせたスープがある。これら動物性・植物性の各種の材料を組み合わせることでうま味の相乗効果が生まれるわけだ。また、臭み消しのためには、タマネギ、長ネギ、ショウガ、ニンニクなどを使っている。このように材料を工夫して煮込んだ、うま味のあるスープは日本ラーメンの特徴である。

 しかも、「ラーメンと言ったらこれ」というように、種類は単一ではない。みそ・塩・醤油のようにタレに当たる部分、だしの種類・特徴、麺の形状、具の種類などによってさまざまなラーメンが作られ、地名や店名や「○○系」などのような名称を冠して複雑に分類されている。

 こうして、日本独特の“ラーメン食文化”が形成された。そのため、本場中国では、日本のラーメンを「日式ラーメン」と呼んでいる。つまり、「日本で生まれたラーメン」という意味だ。

 元々、中国人はスープが好きだ。食事の最後には、必ずスープを飲む習慣がある。そのスープの本場、中国式麺料理の本場である中国で、よく研究された日本のラーメンのスープの繊細な味わいや奥深さは絶賛されているのだ。

  • 麺
    本場西安風の麺
  • 麺料理
    我が家でよく作っていた西安風と言える麺料理

日本で進化した料理に日本の文化・経済の秘密がある

 2回にわたって書いてきたように、私は「日本では餃子とラーメンの現地化が成功しているなあ」と感心している。焼きギョーザとラーメンは、本家とは別物の、日本人だけではない誰にとってもおいしい、新しいメニューとしての地位を確立したのだ。

 さらに目を転じれば、日本では、洋菓子や西洋料理などでも、焼きギョーザやラーメンと同様の現象が起きていることがわかる。古くはイチゴの乗ったショートケーキやとんかつ、最近でも日本で生まれた洋菓子や西洋料理はいろいろあるだろう。

 私は、そうした食の“進化”に、日本人の勤勉さも見て取っている。どんなことにも熱心に取り組むあまり、ラーメンや焼きギョーザ、そしてカレーなども、日本の独自の食文化に取り込んできた。中国料理もフレンチもイタリアンも、日本人の口に合うように、さまざまな創意と工夫をしていくうちに、本場よりもおいしい、本場の人も受け入れ、本場のシェフも驚くようなものに変えてきた。

 日本人はこのように、一つのことに取り組み始めると、とことんその真髄を追求していくような面を持っている。これは料理だけでなく、どんな分野でも、確かに世界中から評価されている。こういった勤勉さが、日本の文化や経済の基礎を作っているのだろう。

 次回は、中国へ進出する“海外版中華料理”についてお話する。

徐航明
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じょ・こうめい Xu Hangming 中国の古都西安市出身。90年代後半来日。2000年東京工業大学大学院卒業。外資系通信機器メーカーを経て、2002年から電機メーカーに勤務。中国向けの標準化とアライアンス活動に携わっている。中国や日本などの異文化の比較研究、新興国のイノベーションなどに興味を持ち、関連する執筆活動を行っている。著書に「リバース・イノベーション2.0 世界を牽引する中国企業の『創造力』」(CCCメディアハウス)があり、「中国モノマネ工場――世界ブランドを揺さぶる『山寨革命』の衝撃」(阿甘著、日経BP社)の翻訳なども行っている。 E-mail:xandtjp◎yahoo.co.jp(◎を半角アットマークに変換してください)