三方一両得の食品回収対策

mementos of FoodScience
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8月15日は終戦記念日。数年前のこの時期、出張先のホテルでアニメ版「火垂るの墓」を観たことがある。誰にも遠慮することなく、ボロボロ涙をこぼしたものだ。あの戦争では大勢の人が武器により、そして飢餓で亡くなった。現在の日本の繁栄は、彼らの尊い犠牲のおかげである。清太と節子、そして戦争で犠牲になった方々がこの日本を見ているとすれば、どのような気持ちだろう。農林水産消費安全技術センター(FAMIC)がまとめた「平成19年度食品自主回収事例の整理・解析」によると、2007年度の食品の自主回収は839件で、前年度の2.4倍と大幅な増加を示した。

 品目別では、菓子類と調理食品、原因別では表示不適切が目立つ。こんな例まで回収かと記憶に残っているのは、ハイフンの入れ忘れによる固有記号の表記ミスや、シューマイ原材料の表記順(重量の多い順)の間違いだ。コンプライアンス遵守と市民の目が厳しくなった中、回収やむなしという雰囲気は理解できない訳ではない。

 健康被害が考えられる場合は、食品衛生法を持ち出すまでもなく回収は当然である。JAS規格違反は、JASマーク「抹消」が求められ実質的に回収になる。産地偽装などのJAS法違反は、是正「指示」・社名「公表」→是正「命令」となる。少し前ならば前述程度のミスは、「速やかに是正します」で、回収までしなくて済んだと思う。

 リコール保険の普及は回収件数を増やす一因になっているかもしれない。社告や回収費用のほかに信頼回復広告費用やコンサルティング費用まで見てくれる。保険が使える条件としては、「社告または保健所への届出」と「健康被害発生または可能性」の少なくとも2つが必要だ。健康被害については保険会社により解釈の幅がありそうだが、単純な表記ミスでは保険が使えていない可能性がある。

 回収品は基本的に焼却処分され、関係者のだれもが「もったいない」と嘆く。食料の6割を輸入している国で、小さなミスのために大量の食品を廃棄処分することが許されるのだろうか。世界では、8億人ともいわれる飢餓に直面している人々が存在する。日本は国際的にも非難されかねない状況である。このようなことを続けていてはいけない。

 現在、自主的な食品回収の明確なルールが定まっている訳ではない。コンプライアンス遵守は当然であるが、不必要なものまで回収しているのではないだろうか。関係者が集まり、明確な「回収ルール」をつくりたいものである。ステークホルダーとしては、メーカー、流通業者、販売者、消費者の代表にお集まりいただきたい。自主回収だからと知らんぷりを決め込んでいる農林水産省と厚生労働省にも参加いただかねばならない。

そのたたき台を提案したい。

・回収条件

 まずは、回収すべき食品の条件を決める必要がある。リコール保険同様に健康被害発生の可能性としたい。保健所に届けて、メーカーと厚生労働省が相談して判断する。難しいケースは食品安全委員会が相談を受ける。

 異物混入、アレルギー未表示など健康被害発生に関わる場合やJAS規格違反は従来通り回収やむなしである。品質不良、社内規格・基準不適合は、メーカーが判断すべき内容になるだろう。

・商品処分方法

単純な表示ミスなど健康被害が考えにくい場合は、回収を行わない。その商品の処分方法が問題である。理由を示すとともに、8~9割という大幅な値引きをして、店頭で売り切ることを提案したい。流通や工場在庫についても、店頭で売却する。この条件ならば、購入いただける消費者が多いと考える。

・販売済み商品への対応

 レシートのある場合に限り、8~9割の値引き分を返金するというのは妥当な対応だろう。謝罪を行い、原則対応しないというのも、1つの考え方である。

・再発防止策の発表

 不良商品の廃棄に目が行きがちであるが、大切なことは再発防止である。なぜ、そのようなミスが起きたか原因を究明し、的確な再発防止策を講じなくてはならない。これを自社のサイトなどで公表するようにしたい。他社であっても、「他山の石」とすることができる。

 さて、ここで技術士からのCMである。商品の回収騒ぎを起こすということは、システムに欠陥があるということだ。品質保証システムをきっちり再構築しなくてはならない。問題が生じていない場合でも、他者の視点を入れて再点検することは有益である。食品技術士センターへのご相談をお待ち申し上げております(CM終)。

 いかがだろうか、上記のような回収ルールを確立できないものだろうか。皆が納得の下、よい方向に進められる。社会全体として、食品を廃棄するという倫理的にも問題の大きい愚挙を減らすことができ、環境保全にも貢献することになる。

 個々のステークホルダーでも、メリットは、はっきりしている。

・メーカー

 回収と廃棄にかかる膨大なコストを削減できる。それだけではない、販促費をかけずに消費者に味を覚えてもらうことができるのである。

・販売店

 社会的に意義のあることに協力するのは、企業として好ましい行動である。大幅な値引きをすれば、求める消費者は大勢いるに違いない。集客できれば、通常商品の売上も伸びること間違いなしである。

・消費者

 安全性や味に問題のない商品を格安で入手できる。「瑕疵のある商品は好かん」という方は購入しなければよいだけの話である。

 大岡越前であれば、元の意味と違うが、「メーカーは処分コストを削減、販売店は集客ができ、消費者も安く入手できる。三方一両得である。これにて、一件落着~くっ!」と締めくくりたいものである。(食品技術士Y)

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

横山勉
About 横山勉 55 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。元ヒゲタ醤油品質保証室長、2010年独立。食品技術士センター理事(http://fpcc.jimdo.com/)。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中。