改めて「価格競争からの脱却」を目指して(3)政治を超えるビジネスが必要になっている

価格競争からの脱却
価格競争からの脱却を目指す10の作戦
価格競争からの脱却
価格競争からの脱却を目指す10の作戦

1976年に堺屋太一が小説「団塊の世代」を発表し、以後“団塊の世代”という言葉が広く使われるようになった。同書によれば、団塊の世代とは“1947年から1949年に生まれた世代”(1945~1954年生まれを団塊の世代とする基準もある)である。

団塊の世代の購買力を殺いでいる

 団塊の世代は、戦後最大の年齢人口層の集団を形成している。近年、彼らが定年を迎えることで新たな大きな購買力を持つ市場を生み出すと期待されていたが、この団塊の世代の購買力も、いや増す社会不安・閉塞感の下で、目に見えるような花とならないまま今日に至っている。

 この間、日本は2010年で65歳以上の高齢者人口比率が22.7%、75歳以上の後期高齢者人口が10.8%となっており、高齢者+後期高齢者を合計すると33.5%に達する。現状、世の中の3人に1人は高齢者という世界唯一の「超高齢社会」となっている。

 ところが政治はこれに負の対応しかできていない。すなわち、年金支給年齢の引き上げ、年金支給額の減額、国民健康保険受診料負担率の引き上げ等であり、ソーシャルセーフーティネットワークのさらなる先細りないしは崩壊を来している。

 このため、実際に金銭的な不自由を生じる人もいるだけでなく、支出を抑える気持ちが起こるのも当然である。結果、低価格商品の購入を助長することになり、富裕層を含めた全生活者が、実質的な価格に敏感な反応を示す社会を形づくることになっている。政治が「価格破壊競争」「低価格競争」を加速している側面は否めない。

政治を凌駕する独創的な戦略が必要

 バブル崩壊以降の経済の低迷は、当初「失われた10年」と呼ばれていたが、その後「失われた20年」と呼ばれるまでになった。

 また、1990年以後の経済情勢の悪化には、政治の不安定化、政権への信頼喪失も関係していると考える。参考までに日本の首相の数を数えてみると、1956年から1990年までの34年間には13名で、1人の首相在任期間は平均2.6年である。これに対して、1990年から2010年までの20年間では14人で、1人の首相在任期間は1.4年ということになる。これでは理念と長期的視野に立った施策など立てようもない。

 このように見てみると、今日の価格競争の激化・恒常化は、日本の政治経済の根本的問題とのかかわりを持った難しさを持っていることがわかる。

 ただ、それをもって「政治が悪いから」と言っていては商業は成り立たない。それぞれの経営者の経営や市場への対応についての信念や独創的な戦略が一層重要になっていると考えるべきだろう。商業から社会を変える気構えがなければ、国民とともに政治に翻弄され困窮を極めるのみである。

新興国群には勝てない

 さて、低価格を実現するには大きく2通りがあると言える。

 一つは、製造・調達のしくみをがらりと変えて、新しい価値として従来の同様の商品の価格とは全く関係なく価格を設定することだ。価値創出だからイノベーションと言っていいだろう。

 いま一つは、仕入先を搾ることである。低価格での納品を要求された側ではそれに対応する努力をするから、そこには何らかの革新があるかもしれないが、「操業を止めるよりは、利益が出なくても工場が稼働しているほうがまし」と言って、持ち出しの形で応じている場合も多い。

 高度成長期までに生まれたさまざまな新業態には、前者が見られたが、今日では少なく、むしろ多くが後者の形となってるだろう。

 その場合、果たしてこれは社会の発展に資することと言えるだろうか。

 グローバル化する現代世界にあっては、ビジネスは、何らかの形で世界に通用する技術を開発し、世界的な視野で見たときの独自性が必要である。それがなければ他国の同業者に勝てず、会社も国も発展を望めない。それでは国民にとって必要な資源や食糧を確保し・輸入し、雇用を創出し、現在の問題点を改善し、必要な社会制度を回復発展させる、豊かな国を維持することはできず、個人としての収入も伸びなければ、その会社とて永続性は望むべくもない。

新興国の強みを直視する

 では、現在グローバルに繰り広げられている低価格競争に参戦することは、自社と社会の発展に資するだろうか。まず、新興国の低価格とは、低賃金と為替に支えられていることは無視できない。これに対応するためには、国内で人件費を下げて生産するか、海外に生産拠点を移すかしかない。それは技術革新とは別な話である。とくに後者の場合は、消費者・需用者から見て、それをやる会社が日本の会社である必要は全くない。

 新興国における賃金水準は未だに日本よりはるかに低い。かつ、継続的・安定的にそのような低賃金労働力を確保しやすい状況になっている。さらに、発展する経済に支えられて、進んだ技術や機械設備による労働装備率が高まって行くことも当然に予想される。さらに、社会的インフラも最新技術による新世代のものが導入されるから、この点でも日本は不利になっていく。

 現状を脱出するには日本の国としての「産業構造の変革が必要」である。これを忘れるわけにはいかない。

奥井俊史
About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/