セブンの生ビールとコーヒー

「セブン-イレブン」が先週開始するはずだった生ビールのテスト販売を急遽中止した。中止理由は定かではないが、この取り組みのニュース自体は非常に興味深いものである。同チェーンがレギュラーコーヒーで起こしたのと同等のイノベーションを、今後は生ビールに関しても実現するのではないかと予感させたからだ。

CVSの利用動機を変えたカウンターコーヒー

セブンカフェ
セブンカフェ

「セブン-イレブン」は2013年1月に「SEVEN CAFÉ」(セブンカフェ)を発売し、翌2014年秋にリニューアルした。これは、レギュラーコーヒーの買い方のチャネル変革だった。

 それより5年前の2008年、私は以前勤めていた某コンビニエンスストア(以下CVS)チェーンでカウンターコーヒーを「セブン-イレブン」に先駆けて全店導入を実現した。抽出したコーヒーをポットに用意しておいて、お客様に注いでもらう方式だった。

 テストとして一部店舗で先行販売を実施し、役員会でその結果と投資回収の目論見を説明して提案しているときのことを思い出す。その場の反応は、「にわかには信じられない」というものだった。私はついたまらず、「私の説明が話半分でもやらない馬鹿はいない」と言い切っていた。

 嗜好品であるコーヒーをCVSで取り扱うことの意味は大きく、そこを考え抜いた導入だった。もちろん、粗利が高いコーヒーをCVSで買う消費行動が定着すれば、利益面で大きく貢献するのは確かだが、それよりももっと大きな効果がある。それは、CVSの利用シーンを根底から変えることだ。

 カウンターコーヒー導入以前、生活者がCVSに行く目的は、基本的に食べるものを買うことだった。つまり、来店する人は「お腹が空いていている人」である。しかも「時間がない人」が多い。

 ところが、カウンターコーヒーを導入すると、全く異なる来店を促すことになる。コーヒーを目的に、「お腹が空いていない人」が来店するようになる。食後の来店、休憩時の来店という形で、日に何回も来店する目的が生まれ、来店頻度が上がる。これが客数増になる。

 しかも、完全セルフサービスにすることで、お客様のいらいらを避け、人手不足でも影響が少ない。

 ただ、ポットからコーヒーを注ぐだけという単純な方法だったが、店舗数がナショナルチェーンほどはなかったので、お客様にはなかなか利用方法が伝わらなかった。あのときに私が考えていたことは、「(リーディングカンパニーである)『セブン-イレブン』がカウンターコーヒーをやってくれたら、コーヒーをCVSで買う習慣が広がるのに!」ということだった。競合先ではあってもそれは本気で思っていた。そして、CVSのカウンターコーヒーが定着した暁には、「どのCVSチェーンよりもおいしいコーヒーを出すチェーン」のポジションを取って差別化したいと考えていたのだった。

ターゲティングから機材も決まる

 さて、その後私の勤め先は変わったが、「セブン-イレブン」はやってくれた。「セブンカフェ」は導入直後こそ買い方のわからないお客様がたくさんいたが、さすが20,000店舗オーバーの「セブン-イレブン」! その浸透力は素晴らしい。現在では高齢の方でもスムーズに購入できている。買い方の提案と、購入チャネルが見事に融合した成功事例だと言える。

 とくに、他チェーンと一線を画しているのがペーパーフィルター式のオリジナルマシンの秀逸さである。私自身がカウンターコーヒーに取り組んだときに悩んだことが全て解消されていると言ってもいい。

 その一つは、抜群の“香り効果”だ。

 コーヒーを販売していることの認知度を上げるには、カウンターにマシンを置いて目立たせるのに加えて、もう一つの決定打がある。コーヒーのいい香りを店内に漂わせることだ。では、コーヒーの香りが最も感じられるタイミングはいつか? 抽出しているとき? ではなくて、実は豆を挽いているときである。

 私が取り組んだときには、その“香り効果”を利用するために、コーヒー豆は挽く前の状態で店舗に納品し、なるべく店頭で挽いてくれるようにと店長にお願いしていた。そんな苦労をしていた私には、「セブンカフェ」のマシンは全く革命的だった。1杯ごとに豆を挽いて抽出するのだから、1杯売れるたびに自動的に香るわけだ。

 つまり、「セブンカフェ」がもし1日100杯売れれば、1日に100回、店頭でコーヒーの香りを発していることになる。言い換えれば、コーヒーを買う一人ひとりのお客様が、他の人にあのよい香りとともに、コーヒーを薦めてくれているのだ。

 もう一つ感心したのは、ロール型のペーパーフィルターの採用だ。

 私が取り組んだポット式サービスでは、ポットにペーパーフィルターを載せてコーヒーを落とすというオペレーションを採用したのだが、ポットの湯量が減ると冷めやすいという弱点があった。しかし、ロール型のペーパーフィルターを使った1杯取りマシンにその心配はない。

 しかし、ターゲティングと品揃えの考え方は私とほぼ同じでにやりとさせられた。想定する購入層はサラリーマンとOLに絞った。そして、ラテやエスプレッソ系のメニューを切り捨ててホットコーヒーとアイスコーヒーのみのラインナップとする(現在はラテも対応している)。その場合、ペーパーフィルター式マシンを採用するのが吉となる。

 業務用ではメタルフィルター式のマシンという選択肢もある。しかし、一般にメタルフィルター式は微粉が残ることによる雑味が出やすいことは否めない。その点、ペーパーフィルターはすっきりとした味わいになるから、ストレートコーヒーで勝負する場合はこの選択は大正解だと思われた。

 さて、上に「もし1日100杯売れれば」と書いたが、私がよく利用する「セブン-イレブン」は1日300杯から400杯はコンスタントに販売すると聞く。10年前の私は「CVSでコーヒーが100杯以上販売される時代が来るはずだ」と言って回っていたが、さすが「セブン-イレブン」の徹底力と“しつこさ”の賜物だと心から感心している。

 というのも、「セブン-イレブン」も中断していた時期があるとは言え、遡れば1980年代にも店内抽出のコーヒーを提供していたことがある。つまり、彼らも30年以上の歳月をかけて「セブンカフェ」の大成功を収めたのだと言える。

 冒頭の生ビールの件に戻れば、あれも、この先の何かにつながっていくように感じるのである。

本部長Q
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FFSチェーン マーケティング本部長 某ファストフードチェーンのマーケティング本部長。コンビニエンスストアチェーン、サンドイッチファストフードチェーン、ハンバーガーファストフードチェーンの商品開発に携わってきたこの道30年の現役マーチャンダイザー。仕入れのために日本中、世界中の産地と工場を訪ね、新商品の設計から物流までに知恵を絞る毎日。