JF・安部修仁会長の言葉が飲食業の価値を問い直す

去る1月17日、日本フードサービス協会(JF)の「JF戦略セミナー・新年賀詞交歓会」がANAインターコンチネンタルホテル東京で開かれた。新年会の挨拶で、JF会長の吉野家ホールディングス安部修仁代表取締役会長が、昨年のメニュー虚偽表示問題に関連して見解を披れきした。

消費者庁のガイドライン案をどう考えるか

ステーキ
外食が提供するものは食材ではなく料理である(イメージ/記事とは直接関係ありません)

 それは、昨年12月19日に消費者庁が発表した「メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について(案)」(以下ガイドライン案)に関するものだった。ガイドライン案は虚偽表示問題を受けて作成されたものだが、安部会長の見解の大意は「何でも反対ということではないが、ガイドライン案に対して飲食業者としては、消費者目線から見てどうなのか、メニュー表示は本来どういうものなのか、といったことをしっかり考えた上で慎重に対処すべき」というものだった。

 消費者庁のガイドライン案は、景品表示法が禁じている「優良誤認」(実際よりもよいものであると誤認をさせる)の線引きにあいまいな面があることを考慮し、より具体的な表示例を示そうというものだ。しかし、例に挙げられている表示がわかりにくいという声が、消費者団体などから上がっている。安部会長の発言は、こうしたわかりにくさもさることながら、行政による画一的な規制は外食のメニュー表示になじみにくいという本質的な問題を指摘したものと思える。

 実は、JF新年会に先立つ前日の16日に、このガイドライン案に関する意見交換会が外食関連6団体で開かれている。虚偽表示問題に対する業界の関心の高さを表し、予定人数を大幅に上回る参加者があったようだ。会の席上、安部会長は、メニュー表示が飲食業者の長年の営業を踏まえた「料理のおいしさをお客様にしっかりと伝える思いを込めたもの」という趣旨の発言をしている。新年会の挨拶でも、前述の発言に続いて、「メニュー表示は食材の名称を表したものではない。我々はお客様に“食材”を提供しているのではなく、それを調理した“料理”を提供していることを理解してほしい」と述べた。

 安部会長の発言は、行政、消費者に対して「メニュー表示は、まさしく『お客様においしい料理を食べていただきたい』という飲食業者の思いを表したもの」ということを訴えると同時に、飲食業者にもそのことを再認識しようと呼びかけたように思う。

おいしさは食材だけによるのではない

 食材はおいしい料理を作る上で重要な要素だが、おいしい料理の提供は食材のみで実現するわけではない。店舗にいる調理人やセントラルキッチン(工場)の調理技術もまた大きな要素だ。その意味で、ブランド食材を表記することは、本来、その食材の長所を余すところなく、さらにそれ以上の味の要素を付加してより高いレベルの料理を提供することを宣言することにほかならない。しかし、食材のブランド力に依存する姿勢になりがちなことも往々にしてある。その姿勢の先にブランド偽装があるのだと思う。飲食業(調理者)としての思いや誇りとは、かけ離れた状況と言わざるを得ない。

 飲食業がお客から求められているものは何なのだろうか。もちろん、そのとき、そのシチュエーションごとの“飲食動機”によって、求められるものは変わる。つまり飲食業がお客に提供するもの、すなわち飲食業の商品は、お客の飲食動機を満たすすべてのものなのだ。もちろん、料理のおいしさは大きく重要な要素だが、飲食動機はそれだけではない。店の雰囲気や接客サービスの中身なども商品を構成する大きな要素だ。そして、飲食動機の違いによって、それら“商品”を構成する要素の中身と重みは変わってくる。ある意味さまざまな飲食業態は、異なる飲食動機への対応が生んでいるとも言える。

 お客の飲食動機を満たし、期待以上の“商品”を提供しようという思いこそが、飲食業に携わる者にとって最優先されるべきことだろう。安部会長の発言は、そのことを飲食業者自身が再認識しよう、という呼びかけだったように思える。もっと言えば、飲食業者の存在意義や社会的使命を、しっかりと自覚しようということではなかったか。

 昨年の虚偽表示問題の根底に、飲食業界全体に根強く残る“粉飾体質”があることは否めない。そうした現状に対する自戒の念も含めた発言と、多くの新年会参加者が受け止めたことを願ってやまない。

●「メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について(案)」に関する意見募集の開始について(消費者庁)
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/131219_guideline_bosyu.pdf

石川秀憲
About 石川秀憲 6 Articles
フードジャーナリスト いしかわ・ひでのり 大学卒業後、流通専門の出版社「商業界」に入社。「飲食店経営」をはじめ数誌の編集長、新規事業部長、出版部長等を歴任の後、2005年退社。その後、食に関わる講演・執筆活動を続ける。現在、名古屋文理大学フードビジネス学科(教授2007~2016年)、戸板女子短期大学(非常勤講師2006~2016年)、金城学院大学(2008~2013年非常勤講師)等の教育機関で、食品経済関係、食品流通関係の講座を担当してきた。ほかに、水産庁の「おさかな語り部」を務める。