値下げするとお客が減るのはなぜか?(1)出血大サービスの常態化

低価格を訴求する営業を継続していくとお客は次第に減っていく――私はそう考えています。もちろん、お客に「安い」「トクをした」と感じさせることで短期的に客数を増やすことはできるでしょう。しかし、長期的に見れば、価格訴求型の営業は店の価値を損なうものに違いないのです。外食について説明していきますが、小売業にも共通することだと考えます。

値下げして声をかけても素通りはなぜなのか

 連載第2回で「繁盛店は値下げしない」ということをお伝えしました。具体的には、

・レギュラー商品の価格を下げない。

・特典、お礼、おわびの品にレギュラー商品やその割引券を使わない。

ということです。もう一つ付け加えれば、

・価格訴求型(「安い」「おトク」で引きつける)キャンペーンを行うのには慎重である。

ということがあります。

 ところが、1990年代のバブル崩壊以降の“失われた10年”ないし“失われた20年”の間、外食業界で目立ったのは低価格を打ち出し、それを継続する店・チェーンでした。

 それ以前にも“キャンペーン”“セール”という形で低価格営業が行われることはもちろんよくありました。たとえば、新規に出店したときや改装したとき、メニューを大きく変えたとき、営業スタイルを変えたときなどに、まず一度なるべく多くの人に新しい店を体験してもらうため、低価格や特典(オマケ)を付けることで強引に集客するというものです。また、店・チェーン自体や仕入先(卸、メーカー等)が抱えた過剰在庫を処分するために、“ファンサービス”“地元への還元”といった形で行われる場合もあります。あるいは、同一商圏内への競合店の新規出店等に対して、相手の力を殺ぐために行われることもあります。また、観光シーズンや帰省シーズンのように、地域に慣れていない消費者が一時的に増えるときに、それを取り込むことを狙うという場合もあります。

 しかし、これらはいずれにせよ限定的な短期間で行うものでした。いわば、“10の価値を10の対価で提供する”本来の営業に結び付けるために、一時的に“10の価値を9ないし8、あるいは5の対価で提供する”というわけです。

 ところが、バブル崩壊以降は、“10の価値を10の対価で提供する”本来あるべき形に戻れない、常に低価格訴求の営業を続ける店やチェーンが現れてきました。価格を10に戻すとお客が来なくなるという強迫観念があるか、実際にそうなってしまうという店やチェーンです。

 集客のために低価格を訴える。それでも集客できないのでまた低価格を訴える。それが続くから、本来経営の持続に必要な“10の売上げ”に達しない中で、人件費、仕入れ代金、その他販管費等を支払い、利益は残るかどうかという状態に陥ってしまっている。いわば“出血大サービスの常態化”で、“血が流れれば”力は衰えますからジリ貧となります。

 一般に、これは「不況のせいである」と説明されることが多いものです。また、店が多過ぎる、過当競争だという説明もあります。そういうこともなくはないでしょう。しかし、この異常な営業スタイルを継続せざるを得ない状態を経営環境によるものだと結論づけてしまえば、もはや打つ手はなく、後は撤退あるのみと了解するほかありません。

 しかし、本当に打つ手はもうないのでしょうか。というのも、街頭で割引券を配ったり、人を使って呼び込み・客引きをしたり、雑誌やWebサイト等のクーポンプログラムに参加するなど身銭を切って懸命に集客に努めながら、客席はがらがらという店が並ぶエリアに、集客のための特別な行動は取っていない店がオープンからオーダーストップまで満席でなかなか入れないということはあるわけです。

 そのような二様の店・チェーンが現れるのは、不況で外食にお金を使える人の数が減った、あるいは競合店が多過ぎる、すなわちパイが小さくなったからだ、ということは言えるでしょう。では、その難しい時節にもお客が絶えない店と、値下げして声をかけても素通りされてしまう店との違いは何であるのか。そこを考えたいわけです。

 新聞などなら「勝ち組/負け組」「二極化」と名付けてばっさり切っておしまいでしょうが、それでは何の解決にもなりません。なぜ違うのか、どこが違うのか、そこをよく調べて対策を打てば、実はパイはもうちょっと大きくて、今よりは多くの店が終始満席に沸くということはあるのではないか。あきらめずに、そこを考えたいのです。

計画された低価格と単純な安売りは違う

 以下、繁盛店と不振店の違いを、「値下げするとお客が減る」という仮説に沿って、価格政策から考えていきます。

 ただ、その前に、誤解・混乱を避けるために、一般のマスコミが「値下げ」「低価格化」と表現するものには、実は中身の異なる2つの場合があるということを説明することにします。

 一つは、深慮遠謀によって客単価の目標を新しく設定し直し、多くのお客がその客単価で利用することになるように商品単価を決定し、その価格での提供を実現できるように仕入れや提供の仕組みを整えた結果、その新価格ないしは新しい客単価がたまたま以前より低く見える場合です。

 今一つは、仕入れや提供の仕組みをとくに変えることなく、いわば場当たり的かつ単純に前よりも安い価格に設定する場合です。

 前者を“戦略的低価格化”、後者を“戦術的低価格化”と呼ぶことにしましょう。これから説明していく「値下げすると客数が減る」ということは、主に後者“戦術的低価格化”の場合です。

 次回は、“戦略的低価格化”と“戦術的低価格化”の違いをもう少し具体的にイメージできるように、外食産業史のエピソードを振り返ることにします。それを踏まえた上で、低価格を訴求する営業がどのようにお客の数を減らすことになっていくのか、いくつかの面から回を追って説明していきます。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →