危機回避・組織強化のための経営十七訓――聖徳太子「十七条憲法」に学ぶ

今般の災害・事故に対する政府や東京電力等の動きには、危機管理、組織運営、コミュニケーション等についてさまざまに考えさせられる。それらについて考察していくと、1400年前に聖徳太子が書いたとされる「十七条憲法」に教えられ、戒められる点が多いと気付く。そこで、経営のための十七訓として私なりにまとめてみた。

1.「和を以て貴しとなす」

 会社・組織の運営はオープンに。事実に基づきフェアに。ハーモニーを持って行うこと。全体と部分の調和も大切な「和」の一つである。

 十七条憲法には「人みなたむら(グループ)あり。さとれる者は少し」とも。派閥を作らず、その抗争に明け暮れすることのないように注意しなければならない。

「和」とは癒着ではない。「和」を口実にして「同じ穴の狢」になってはならない。癒着の構造を生まないように、制度的な配慮を十分に行うことも重要だ。

2.「三宝を篤く敬え」

 十七条憲法で言う「三法」とは仏・法・僧で仏教のことだが、ここでは会社の理念・社是・社訓と読みたい。あるいはミッション。または、会社の歴史・伝統・文化としてもいい。つまりは、会社という組織運営の拠り所に当たるものだ。

 また、会社組織における三宝は不変ではなく、社会情勢や会社組織の変化に伴って見直されるべきでもある。ただし、この変化対応は常に現実に即して行うことと、オープンに行うことが肝要だ。

3.「上行ふときは下なびく」

 オーケストラは優れた指揮者に従ってこそ、素晴らしい音楽を奏でることができる。会社組織では、トップの指示に従順に従うことによって統制が取れる。統制が取れて初めて良好な業績を上げることができる。上下心を一つにして、経営を行うことだ。

 そこで、組織の構成員はすべからく謙虚に、各々の力量を自覚してことに当たることが大切だ。

 一方、組織のトップの対応のあり方は、当然、従業員の行動に大きな影響を及ぼす。リーダーの指導力が問われる。

 リーダーは批判・公論をフェアに受け止め、公明正大に意思決定を行うこと。その際、営利のみを優先させてはならず、社会・市民の危機に対処する判断を優先することも大切だ。なぜなら、すべての企業は、社会の公器だからだ。

 もちろん、リーダーは冷静沈着であることも大切だ。

4.「礼をもって本とせよ」

 マネジメント層に礼節がなければ、ラインの規律は乱れる。ラインに礼節がなければ罰せられ、組織が整わない。上・下・左・右、すべての関係において礼節を重んじ、組織力を強め、ビジネスの基礎とすること。

5.「むさぼりを絶ち欲をすて、明らかに訴えをわきまえよ」

 判断に当たっては、私利私欲に走ることなかれ。功名心の高揚に走ることなかれ。

 我欲を捨てる。物欲・金銭欲よりも大切な、人としての価値観の基軸をしっかりと持つこと。「利」による「なれ合い」を生んではならない。「利」によるエゴイズムを喚起してはならない。

 そのためには、先ずリーダーから行動の規範(code of conduct)を堅持し、実践すること。身を律し、脇を固める。自己啓発に努め、広く、深く、十分な知識・知恵を持つこと。

6.「悪しきを懲らし、ほまれを勧むるは、いにしえの良きのりなり」

 勧善懲悪を徹底する。

 この判断に必要な情報は周辺情報を含めて調査し、不合理や誤りが判明した時は、できるだけすみやかに認め、責任の所在を明らかにすること。不利な情報を隠ぺいしてはならない。

「君に対し忠(いさお)しなく、民に対し仁(めぐ)みなしは大乱の本なり」とも。トップに対して忠義がなく、部下や社会に対して仁義がなければ、大きな混乱のもとになる。従業員も、正義のためには忠義を尽くすこと。まごころと思いやりが大切だ。

7.「官のために人を求め、人のために官を求めず」

 役割に対して人材を選ぶのであって、誰かのために役割を作るのではない。適材適所で人を活用すること。

 権限の内容と行使については、日々レビューし、官僚的なセクショナリズムに陥ったり助長するようなことがあってはならない。

 職務分掌と権限を明確にすることも大切だ。権限の所在を明らかにし、その力が適切に発揮される必要がある。同時に、その権限の乱用ができない組織としなければならない。

8.「早くまいりておそくまかづ」

 早く来て遅く帰れということ。遅く来たのでは非常事態に対応できない。早く帰っては仕事が片付かない。

 これはとくにトップの率先垂範が大切だ。トップがひとより早く出社し、ひとより遅く退社すること。

9.「信はこれ義の本なり。わざごとに信あるべし」

 官・民を問わず、なにごとにおいても誠心誠意ことに当たることを当たり前とするべきだ。

 やはり、利ばかりを優先した判断は厳に慎むべきだ。民間ではあっても、企業が持つ公共性を常に理解していなければならない。

10.「われ必ず聖人なるにあらず、彼必ず愚なるにあらず、共にこれ凡夫のみ」

 人に上下はなく、貴賤の区別もない。誰も特権をふりかざしたり、おごることがあってはならない。与えられている立場や地位にあぐらをかいてはいけない。

 人々の考え方の多様性を十分に理解し、平常心をもって人と接すること。異なる視点や見解に接したときは十分に考慮すること。

11.「よろしく賞罰を明らかにすべし」

 信賞必罰を明確にすること。責任の所在を明確にすること。また、評価の基準は明解に示し、公正に行うこと。

12.「国にふたりの君あらず。民にふたつの主なし」

 組織に2人以上のトップは不要。指揮命令系統を明確にすること。

 そのために、統制のとれた、信頼できる情報チャンネルも確立しておくこと。

 また、とくに危機発生時における危機管理に関しては、指揮命令系統を整備しておくだけでなく、関連する法令に関しても熟知しておくこと。

13.「諸々の官に任ずる者、同じく職掌を知れ」

 役割を与えられた人は、その役割をよく知ること。新任や代理で新しい業務に当たる際は、前任者・現任者と同じように、前からわかっていたように振る舞えなくてはいけない。

 そのためにはマニュアルを整備して業務の標準化を進め、マニュアルに基づいたトレーニングを日常的に行っていること。このマニュアルは定期的に、あるいは臨機応変に、柔軟に改定する。

 また、今担当していることだけがわかるというのではなく、組織の関係者は上・下・右・左とも有機的に連帯し、連動すること。そのためには、連合・総合・統合の“三合”が実践できる組織運営を心がける。

 これらにより、どのような障害が起こっても、最善の行動が取れる、最悪に備えた組織作りをしておく。

14.「嫉みそねむことあることなかれ」

 互いに妬み合うことなく、陰口をたたいたり、はかりごとをしてはならない。

 才覚のある者を適切に取り上げる。足を引っ張り合うようなことは厳に慎み、相互に伸ばし合うようでなければ、優れた人材が立ってリーダーシップを取ることはできない。

 賢者が集まっていながら、互いに我欲を優先する結果、組織が無能集団になってしまうことを警戒することだ。

15.「私を背きて公に向くは、これ臣の道なり」

 我欲を捨てる。組織の構成員は社会的責任を自覚し、組織、社会に尽くすように心がける。己のことは二の次である。

16.「民を使ふに時をもつてするは、いにしえの良きのりなり」

 タイミングを考える。また、部下・同僚や顧客の視点・立場に立って物事を行う。

 人に用事を頼むときは、相手の都合を考慮する。何かに仕掛かっている人を無理に連れてくれば、そちらの仕事を停滞させることになる。

 チャンスを逃さないことでもある。とくに危機においては、起死回生のチャンスをつかむには数分、数秒を争うことが多い。臨機応変かつ迅速に行動できるように、日頃からトレーニングを重ねておくこと。

17.「独りさだむべからず。必ず衆とよくあげつらふべし」

 リーダーはコミュニケーションをしっかりと行った上で、最善の判断・決断を下す。世論、組織内の意見を重視し、独善を避ける。間接情報は、自らの目、耳、体で確認した上で判断材料とする。

 ただし、いわゆる“ポピュリズム”、人気取りのための判断ではいけない。

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アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/