弁当にこめる愛情/趣の違い

お弁当を題材に親子の絆を描いた映画がまた一本誕生した。

 現在公開中の「461個のおべんとう」は、ヒップホップバンド「TOKYO No.1 SOUL SET」の渡辺俊美によるエッセイ「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」(マガジンハウス刊)を原作に、男性アイドルグループ「V6」の井ノ原快彦と関西ジャニーズJr.内ユニット「なにわ男子」の道枝駿佑が主演、「キセキ あの日のソビト」(2017)、「泣くな赤鬼」(2019)、「水上のフライト」(2020)の兼重淳が脚本・監督を務めた作品。

 本連載第205回で紹介した「パパのお弁当は世界一」(2017)は父と娘、「今日も嫌がらせ弁当」は母と娘だったが、今回は父と息子という組み合わせである。

退路を断って守った「父のプライド」

 長年連れ添っていた妻と離婚した人気バンド「Ten 4 The Suns」のメンバー、鈴本一樹(井ノ原)は、一浪の末高校に進学した息子の虹輝(道枝)と、虹輝が3年間休まず高校に行くことと引きかえに、3年間毎日お弁当を作ることを約束する。

 快楽主義者で凝り性の一樹は、曲げわっぱの弁当箱や調理器具や食材にこだわり、最初は時間もコストもかけて楽しみながらお弁当を作っていた。だが、次第に毎日仕事をしながらのルーチンワークが負担になっていく。また、初夏が旬のそら豆を使った炊き込みご飯は蒸れてしまって異臭騒ぎを起こしてしまう等、初心者にありがちなミスも犯してしまう。

 そこで疲弊せずに実現可能なおいしいものを作るため、一樹は自らに「お弁当作りの3か条」ルールを課すことにする。

(その1)調理の時間は40分以内

(その2)1食にかける値段は300円以内

(その3)おかずは食材から作る

 また、多数のファンのフォロワーがいるインスタグラムにお弁当の写真を毎回アップすることで衆人環視の環境を作って退路を断った一樹が、多感な時期の虹輝と衝突したり励ましたりしながら、卒業の日まで461個のお弁当を作って約束を達成するまでを本作は描いている。

バリエーション無限大の「第二主食」

虹輝がクラスメートと仲良くなるきっかけとなったお弁当。卵焼きの具材は紅しょうがとネギ。
虹輝がクラスメートと仲良くなるきっかけとなったお弁当。卵焼きの具材は紅しょうがとネギ。

 あまたあるおかずの中で一樹がとくにこだわったのが卵焼きである。「どれだけお金と時間をかけても卵焼きにはかなわない」という一樹と「おいしいものは毎日おいしいからいい」という虹輝の意見が一致し、卵焼きは毎食必ず入る“第二主食”ともいうべき位置付けになる。一樹は銅製の卵焼き器で作るだし巻き卵をベースに、虹輝が飽きないように紅しょうがのみじん切り、桜エビ、シラス(ちりめんじゃこ)、ハム、しょうが昆布、小松菜、青しそ(大葉)、ネギ、ニラ等多彩なトッピング具材を組み合わせ、バリエーション豊かな卵焼きを作っていく。その卵焼きは虹輝のクラスメートからも注目され、一浪して孤立していた虹輝が友達を作るきっかけになるラッキーフードとしての役目も果たすことになる。

オリジナルとの違いに注目

 劇中に登場するお弁当は「かもめ食堂」(2006、本連載第22回参照)、「南極料理人」(2009、本連載第38回参照)、「深夜食堂」(2015、本連載第94回参照)、「海街diary」(2015)等でおなじみの飯島奈美が料理監修、岡本柚紀がフードスタイリストのチームによるもので、父の息子への愛情を感じさせる丁寧で優しい仕上がりとなっている。一方、原作所載のオリジナルのお弁当の写真からは、武骨で豪快な味わいを感じる。同じメニューのお弁当でも、作る人によって印象が異なるのが興味深い。ぜひ双方をご覧になって比較していただきたい。


【461個のおべんとう】

公式サイト
https://461obento.jp/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2020年
公開年月日:2020年11月6日
上映時間:119分
製作会社:「461個のおべんとう」製作委員会
配給:東映
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:兼重淳
脚本:清水匡、兼重淳
原作:渡辺俊美
製作:松井智、村松秀信、山元一朗、藤島ジュリーK.、小池賢太郎、東口幸司、村田嘉邦、吉川英作、鉄尾周一
プロデューサー:平石明弘、丸山文成
共同プロデューサー:橋本恵一
撮影:向後光徳
美術:福澤勝広
装飾:山田好男
音楽:渡辺俊美
劇伴:北里玲二
音楽プロデューサー:津島玄一、本谷侑紀
主題歌:井ノ原快彦、道枝駿佑
録音:大竹修二
音響効果:岡瀬晶彦
照明:斉藤徹
編集:川瀬功
衣装:加藤哲也
ヘアメイク:知野香那子
キャスティングブロデューサー:福岡康裕
ラインプロデューサー:中円尾直子
俳優担当:林まゆみ、制作担当
吉田信一郎
助監督:是安祐
スクリプター:増子さおり
宣伝プロデューサー:谷口毅志
料理監修:飯島奈美
フードスタイリスト:岡本柚紀
フードスタイリスト助手:吉川由似、寺島萌香
キャスト
鈴本一樹:井ノ原快彦
鈴本虹輝:道枝駿佑
仁科ヒロミ:森七菜
田辺章雄:若林時英
柏木礼奈:工藤遥
矢島真香:阿部純子
徳永保:野間口徹
古市栄太:KREVA
河上利也:やついいちろう
浅井周子:映美くらら
遠藤咲江:坂井真紀
鈴本奈津子:倍賞千恵子

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。