映画が描いた卓球とその食事

[209]スポーツ映画の食(1)

東京オリンピックまであと10カ月。本連載ではスポーツを題材とした映画と劇中に登場する食べ物について取り上げていこうと思う。まずはメダルが期待される卓球から。

「ピンポン」のスナック菓子

 2002年公開の曽利文彦監督作品「ピンポン」は、松本大洋の漫画を原作に宮藤官九郎が脚本を務めた。

 神奈川県の片瀬にある高校の卓球部を舞台に、インターハイ予選から次年度の予選までの一年間を描いた青春群像劇である。天才的な卓球の腕を持ちながら、賭け卓球等で才能を浪費しているペコこと星野裕(窪塚洋介)と、ペコに並ぶ卓球の才能を持ちながら、幼い頃からペコの影に隠れて本気を出さずにいるスマイルこと月本誠(ARATA)の幼なじみの二人。彼らを中心に、卓球強豪校の海王学園に進学し、ペコとスマイルにライバル心を燃やすもう一人の幼なじみ、アクマこと佐久間学(大倉孝二)、その海王学園の絶対的エースにしてインターハイ二年連続優勝を誇るチャンピオン、ドラゴンこと風間竜一(中村獅童)、名門・辻堂学園に助っ人としてやってきた元上海ジュニアユースのチャイナこと孔文革(サム・リー)らが激突する。

 主人公のペコはスナック菓子好きとして描かれている。アポなしでチャイナと対戦するためスマイルと辻堂学園に向かう電車の車中では、新製品の「ポテトチップス関西風うどん味」を食べながら、これなら最初からうどん食うよ、お菓子業界何か見失ってるよねなどと軽口を叩くペコ。そんな遠足気分が災いしてか、チャイナにスコンク(零敗)を喫する。

 その他、アクマとの対戦前のインターハイの予選会場や、その敗戦のショックで一時卓球から遠ざかった時期もスナック菓子の袋だけは手放さない。再起して一年後の予選に挑み、数年後の後日談となるラストシーンにも登場するスナック菓子は、ペコの弱点でもあり強みでもある“軽さ”の象徴であり、エネルギー源にもなっていたと言えるだろう。

「ミックス。」の激辛麻婆豆腐

 2017年公開の「ミックス。」「エイプリルフールズ」(2015、本連載第99回参照)の古沢良太・脚本、石川淳一・監督のコンビが、卓球のミックスペアを題材に描いたスポーツ・ラブコメである。

 主人公の富田多満子(新垣結衣)は幼少期に元日本代表の卓球選手だった母・華子(真木よう子)のスパルタ教育を受け、“天才卓球少女”と騒がれた過去を持つが、母の死後は卓球をやめて普通のOLとして暮らしていた。その多満子の勤める会社に、卓球界のスター選手、江島晃彦(瀬戸康史)が入社してきた。多満子はかつて大会で見かけて憧れていた江島と、過去を隠して付き合うことに。ところが、結婚を意識し始めた頃、新たに入社してきた女子卓球選手の小笠原愛莉(永野芽都)に江島を奪われ、失意のうちに会社を辞めて帰郷する。

 多満子の故郷は奇しくも「ピンポン」と同じ神奈川県だが、風景を見る限り海沿いではなく県西部の内陸部を想定していると思われる。

 実家は「フラワー卓球クラブ」である。華子が開所し、タクシー運転手の父・達郎(小日向文世)が維持してきたが、元日本代表のクラブだった緊張感はない。元ヤンキーで、今は医者の妻に収まったもののハイソな奥様方とのホームパーティ等でストレスを感じている吉岡弥生(広末涼子)、学校に行かずファミレスで時間をつぶす日々を過ごしている引きこもり高校生の佐々木優馬(佐野勇斗)、「ミニトマト大福」で差別化を図る園芸農家の落合元信(遠藤憲一)・美佳(田中美佐子)夫妻らの憩いの場となっていた。

 そこに、多満子と、帰路の道中に“最悪の出会い”をした何か過去のありそうな男・萩原久(瑛太)も加わり、それぞれの思いを胸に全日本卓球選手権のミックスダブルス部門を戦うことになる。

「ミックス。」より。フラワー卓球クラブの面々は大皿に盛られた激辛麻婆豆腐を取り分けて食べる。
「ミックス。」より。フラワー卓球クラブの面々は大皿に盛られた激辛麻婆豆腐を取り分けて食べる。

 一度目の県予選ではみじめな敗退を喫する。次の大会での勝利を目指す彼らのスタミナ源となったのが、中国出身の張(森崎博之)と楊(蒼井優)が営む四川料理店の激辛麻婆豆腐だ。最初の頃は分量を間違えてるんじゃないかとクレームを入れるほど辛く感じていたのが、練習のボルテージが上がるにつれ、気持ちをたぎらせるためにもっと辛くしてとリクエストするほどに味覚が変化していくのが興味深い。

 さらに、張と楊が中国ナショナルチームの脱落者であることが明らかになり、チームは絶好の練習パートナーを得ることになる。

 張と楊を演じる日本人の二人が中国語を話す場面はほとんどなく、片言の日本語で話す演技は、本物の中国人が観たらハリウッド映画に登場する日本人のように奇異に映るかも知れないが、張本智和ばりの「チョレイ!」を連発したり、かたき役の江島が四川料理店を訪れた後の楊のセリフ「玄関にラー油撒いとけ」等、リアリズムを越えた可笑しみがある。

 また、第二東名らしき高速道路の建設現場、後継者不足のビニールハウス、外国人労働者が管理職を務める缶詰工場等は、首都圏郊外の現状を映し出している。


【ピンポン】

「ピンポン」(2002)

作品基本データ
製作国:日本
製作年:2002年
公開年月日:2002年7月20日
上映時間:114分
製作会社:アスミック・エース エンタテインメント、小学館、TBS、BS-i、IMAGICA、日本出版販売(製作プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント/企画協力:ビックコミックスピリッツ編集部)
配給:アスミック・エース
カラー/サイズ:カラー/ヨーロピアン・ビスタ(1:1.66)
スタッフ
監督:曽利文彦
脚色:宮藤官九郎
原作:松本大洋
製作総指揮:椎名保
企画協力:武藤伸之、江上英樹、堀靖樹
製作:豊島雅郎、石橋隆文、吉田佳代、亀井修、植田文郎、山下暉人、福井省三、谷徳彦、城所賢一郎、高野力、金子俊夫、三浦正一、小松賢志、根岸悟
プロデューサー:小川真司、鈴木早苗、井上文雄
撮影:佐光朗
美術:金勝浩一
装飾:尾関龍生
音楽監督:二見裕志
音楽:真魚
音楽プロデューサー:安井輝
主題歌:SUPERCAR「YUMEGIWA LAST BOY」
録音:山田均
音響効果:岡瀬晶彦
照明:渡邊孝一
編集:上野聡一
衣裳:石井朋子
スタイリスト:谷口みゆき、篠塚奈美
VE:岡田雅宏
ミュージック・エディター:浅利なおこ
製作担当:桜井勉
助監督:大野伸介
スクリプター:甲斐哲子
スチール:黒田光一
VFXスーパーバイザー:SORI
VFXプロデューサー:植木英則
CGディレクター:松野忠雄、大塚康弘、土井淳
CGプロデューサー:豊嶋勇作、福島誠
特殊造形:松井祐一、三好史洋
技斗:二家本辰巳
テクニカル・ディレクター:高田稔則
キャスト
星野裕(ペコ):窪塚洋介
月本誠(スマイル):ARATA
孔文革(チャイナ):サム・リー
風間竜一(ドラゴン):中村獅童
佐久間学(アクマ):大倉孝二
小泉丈(バタフライジョー):竹中直人
田村(オババ):夏木マリ
大田:荒川良々
多胡:近藤公園
五味:平野貴大
真田:末満健一
孔のコーチ:翁華栄
ムー子:三輪明日美
小学生のペコ:小泉拓也
小学生のスマイル:小沼蔵人
小学生のアクマ:北山小次郎
橋の上の巡査:松尾スズキ
選手Aの父:山下真司
選手Aの母:石野真子
大学生カップル:大浦龍宇一
大学生カップル:田中千絵
ゲームセンターのカップル:津田寛治
ゲームセンターのカップル:馬渕英里何
スタッフ:佐藤二朗
ラストの少年:染谷将太

(参考文献:KINENOTE)


【ミックス。】

「ミックス。」(2017)

作品基本データ
製作国:日本
製作年:2017年
公開年月日:2017年10月21日
上映時間:119分
製作会社:フジテレビジョン(制作プロダクション:FILM)
配給:東宝
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督:石川淳一
脚本:古沢良太
製作:石原隆、市川南
プロデューサー:成河広明、梶本圭、古郡真也
撮影:佐光朗
美術:相馬直樹
音楽:末廣健一郎
主題歌:SHISHAMO
録音:高須賀健吾
照明:加瀬弘行
編集:河村信二
アソシエイト・プロデューサー:片山怜子、大坪加奈
VFX:山本雅之
キャスト
富田多満子:新垣結衣
萩原久:瑛太
吉岡弥生:広末涼子
江島晃彦:瀬戸康史
小笠原愛莉:永野芽郁
佐々木優馬:佐野勇斗
張:森崎博之
楊:蒼井優
佐野聖子:山口紗弥加
佐野しおり:久間田琳加
後藤田タケル:鈴木福
日高菜々美:谷花音
富田多満子(幼少期):平澤宏々路
石原:斎藤司
富田華子:真木よう子
山下誠一郎:吉田鋼太郎
ジェーン・エスメラルダ:生瀬勝久
落合美佳:田中美佐子
落合元信:遠藤憲一
富田達郎:小日向文世
水谷隼:水谷隼
石川佳純:石川佳純
田所いろは:伊藤美誠
徳島竜司:吉村真晴
松田萌絵:浜本由惟
東聖哉:木造勇人

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。